JIS B 8223:2021 ボイラの給水,ボイラ水及び蒸気の質 | ページ 10

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図A.2−ボイラ水の酸消費量(pH 8.3)と酸消費量(pH 4.8)との関係(一例)[1]
図A.3−ボイラ水のシリカ濃度に対応するpHと酸消費量(pH 8.3)との関係(一例)[1]
c) 電気伝導率 ボイラ水の電気伝導率は,キャリオーバの防止及びスラッジの堆積の防止を目的として
管理する項目である。
JIS B 8223:2006までは,ボイラ水の全蒸発残留物も規定したが,全蒸発残留物中の溶解性蒸発残留
物は,そのほとんど全量が電解質であるので,全蒸発残留物の濃度と電気伝導率とはほぼ比例関係に
ある。そこで,JIS B 8223:2015では,全蒸発残留物の項目を廃止し,電気伝導率で管理することとし
た。
なお,ボイラ水の全蒸発残留物の濃度とキャリオーバ(キャリオーバ量は蒸気の電気伝導率に反映
する。)との関係を,図A.4に示す[2]。

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図A.4−ボイラ水の全蒸発残留物の濃度とキャリオーバとの関係(一例)[2]
d) 塩化物イオン ボイラ水の塩化物イオンは,腐食を抑制する目的で管理するとともに,ボイラ水の濃
縮の程度を知る目的で管理する項目である。塩化物イオンは,火力発電プラントの各系統の水中にお
いて沈殿物を生成しないで,常に溶存していることから,ボイラ水及び給水の塩化物イオンの濃度を
測定すれば,ボイラ水の濃縮倍数が推定可能である。
また,塩化物イオンは,鋼面の酸化鉄の防食皮膜の安定性を阻害するため,なるべく低濃度に維持
することが望ましい。
補給水に軟化水を使用するボイラでは,全蒸発残留物の濃度の間接的な管理に重点をおき,防食上
の考慮も加え,ボイラ水の塩化物イオンの濃度の上限を規定した。
e) りん酸イオン ボイラ水のりん酸イオンは,給水がもち込むカルシウムによるスケール化を防止する
目的で管理する項目である。
ボイラ水中でのカルシウムとりん酸イオンとの反応は,式(A.3)のとおりであり,炭酸カルシウム
CaCO3: 1 mg/L当たり必要なりん酸イオンは,PO4: 0.57 mg/Lである。
5Ca2++OH−+3PO43− → Ca5(OH)(PO4)3 (A.3)
補給水に軟化水を使用するボイラでは,不測の硬度成分の漏れに対処するためには,りん酸イオン
濃度管理値の上限付近で管理することが必要である。また,船用補助ボイラに用いる場合の運用につ
いても,りん酸イオンの濃度を上限付近に調節する。
f) 亜硫酸イオン又はヒドラジン ボイラ水の亜硫酸イオン又はヒドラジンは,ボイラの腐食因子である
溶存酸素の除去を目的で管理する項目である。給水の溶存酸素を還元除去するために,亜硫酸ナトリ
ウム又はヒドラジンのいずれか一方を注入する(B.8及びB.9参照)。
亜硫酸ナトリウム又はヒドラジンを注入すると,水中でそれぞれ式(A.4),式(A.5)に示すように溶存
酸素と反応する。したがって,ボイラ水に亜硫酸イオン又はヒドラジンが残留していれば,ボイラ水
中の溶存酸素の除去は十分に行われているものと考えてよい。補給水に軟化水を使用する場合のボイ
ラ水の水質管理値は,これらの残留濃度の管理値を設定している。
Na2SO3+12O2 → Na2SO4 (A.4)
N2H4+O2 → N2+2H2O (A.5)
ヒドラジンの分配係数(ボイラ水中の濃度に対する蒸気中の濃度の比,揮発度ともいう。)には温度

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依存性があり,その一例を,図A.5に示す[3]。それによるとヒドラジンの分配係数は2 %6 %であ
り,ボイラ水に残留したヒドラジンの一部が蒸気へ移行する。また,ヒドラジンは,ボイラ水におい
ては,その一部が式(A.6)に示すように自己分解してアンモニアを生じる。
3N2H4 → 4NH3+N2 (A.6)
このアンモニアもまた,ヒドラジンと同様に蒸気中に移行し,ドレン系の銅合金材の腐食の原因と
なる。以上のことから,ボイラ水に多量のヒドラジンを残留させることは避ける。
図A.5−ヒドラジンの分配係数の温度依存性[3]
ヒドラジンを脱酸素剤として注入する場合は,給水が空気と接触しない系統のなるべく上流側に,
脱気器があればその上流側に注入点を設け,注入点以降の系統の腐食を抑制することが有効である。
なお,ヒドラジンは,脱気器での損失が通常極めて少なく,また,その注入によって銅合金の腐食
を生じるほどの高いpHにはならない。しかし,一般には,給水から,ボイラ水に流入した溶存酸素
の相当量が蒸気とともに気化するので,給水の溶存酸素の全量を還元する理論所要量のヒドラジンを
注入する必要はない。また,給水の溶存酸素の濃度が不明なことも多い。このため,ボイラ水にヒド
ラジンが残留すれば,ボイラ水には溶存酸素は残留しないとの考えから,亜硫酸イオンの場合と同じ
ようにボイラ水に維持するのが望ましいヒドラジンの濃度下限を規定している。
亜硫酸ナトリウムを脱酸素剤として使用した場合は,必ずボイラ水に亜硫酸イオンを常時残留させ
ることが必要である。このような観点から,給水の溶存酸素の濃度の変動及び亜硫酸イオンの反応性
を考慮して,ボイラ水の亜硫酸イオンの濃度の下限を設定し,上限を撤廃した。ボイラ水の亜硫酸イ
オンの濃度の上限を設定していないが,亜硫酸イオンの熱分解によって発生する二酸化硫黄(SO2)の
量をできるだけ少なくするために,脱気器を設置しないボイラではSO3: 50 mg/L,脱気器を設置し常
用使用圧力2 MPa以下のボイラではSO3: 20 mg/L,脱気器を設置し常用使用圧力2 MPaを超え5 MPa
以下のボイラではSO3: 10 mg/Lを上回らない範囲に制御することが望ましい。さらに,熱分解が著し
くなる常用使用圧力5 MPaを超えるボイラには亜硫酸ナトリウムは使用しない。
A.2.4.2 イオン交換水を使用する場合
イオン交換水を使用する場合のボイラ水の水質管理項目は,次のとおりである。
a) pH ボイラ水において炭素鋼の腐食が最小となる最適なpHについては,これまで幾つかの実験報告
があり,種々の議論がある。その代表的な実験結果を図A.6に示す[4]。E. Berlらの腐食実験でpH 11
12の範囲に腐食量の最低域が存在するとされ,従来,この実験結果を基にボイラ内での局部的な濃

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縮を考慮して,アルカリ処理ではpHを10.511.5の範囲内に保持することが望ましいとの考え方が
一般的であった。
しかし,給水にイオン交換水を使用し溶存酸素の濃度を低い値に管理する最近のボイラの実績並び
に図A.7に示す高温水中における炭素鋼の腐食速度[5],図A.8に示す水酸化鉄の溶解度[6]及び図A.9
に示す四酸化三鉄(マグネタイト)の溶解度[7]からみて腐食が最小のpHは,前述のE. Berlらの腐食
実験結果の1112の範囲にあることは疑わしく,pHの相違は腐食の初期段階で若干の差異を与える
だけで,時間の経過に伴って,ほとんど腐食速度に差異がないものと考えるようになってきた。
これらの点を考慮し,さらに,ボイラの常用使用圧力が高いほど沸騰伝熱面でのボイラ水のアルカ
リ成分を始めとする溶解性蒸発残留物の濃縮が著しくなることから,常用使用圧力の区分ごとにpH
の範囲を規定した。すなわち,常用使用圧力が高くなるほどpHを低い値に規定している。
図A.6−pHと鉄の腐食との関係[4]
図A.7−高温水中における炭素鋼のpHによる腐食速度[5]

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図A.8−水酸化鉄(II,III)の溶解度に及ぼすpHの影響(25 ℃)[6]
図A.9−四酸化三鉄(マグネタイト)の溶解度に及ぼすpHの影響[7]
b) 酸消費量 ボイラ水の酸消費量は,ボイラ水のpHを間接的に管理するとともに,シリカを可溶状態
に維持してスケール付着を防止する目的で管理する項目である(B.11参照)。
常用使用圧力3 MPaを超える産業用水管ボイラは,補給水にイオン交換水又はこれと同等以上の水
質の水を使用し,ボイラ水のシリカの濃度も低く調節するので,ボイラ水のpHを管理すれば酸消費
量を直接管理する必要はないため,規定の対象から除外している。
常用使用圧力3 MPa以下のボイラで補給水にイオン交換水を用いた場合は,ボイラ水の酸消費量は
主として水質調整剤に由来し,低い値に維持可能である。また,発生蒸気は,発電用タービンなどに
用いることもあるので,キャリオーバを防止するため,酸消費量の抑制が必要となる。これらの点を
基に,上限を規定する。
c) 電気伝導率 ボイラ水の全蒸発残留物は,給水から導入されたものとボイラ水処理に用いる薬剤から
由来したものとが主なものである。ボイラ水の個々の塩類の作用は種々考えられるが,これを一括し
て総称する全蒸発残留物の濃度が高くなることは,キャリオーバを促進する有力な一因となる。全蒸
発残留物中の溶解性蒸発残留物は,そのほとんどが電解質であり,その濃度が高いほどボイラ水の電
気伝導率が高くなるのが通例である。
したがって,測定が容易な電気伝導率を測定することによって,測定が煩雑な溶解性蒸発残留物,
及び,全蒸発残留物の濃度を推定可能なため,電気伝導率を日常管理に利用することが可能である。
イオン交換水を補給水とする場合は,共存する電解質成分が低濃度であり,電気伝導率での管理で

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