JIS B 8223:2021 ボイラの給水,ボイラ水及び蒸気の質 | ページ 11

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十分に水質の状態を把握可能であることから,全蒸発残留物は規定しないで,前述の溶解性蒸発残留
物と電気伝導率との関係から電気伝導率を規定している。
d) 塩化物イオン ボイラ水の塩化物イオンは,腐食を抑制する目的で管理するとともに,ボイラ水の濃
縮の程度を知る目的で管理する項目である。また,復水器を備えたボイラ設備の場合,塩化物イオン
は,復水器冷却水の漏えいの有無及び漏えいの程度を表す指標となる。
アルカリ処理のボイラ水の場合,pHの緩衝能力が高いので,復水器冷却水の漏えいによって塩化物
イオン,硫酸イオンなどの腐食性成分をもち込んでも,直ちにpHの低下を示さないが,腐食の防止
のために,もち込み及び濃縮を監視する必要がある。
常用使用圧力の各区分でそれぞれ管理値を設定し,常用使用圧力が高くなるほど塩化物イオンの及
ぼす影響が大きいことを考慮して,低い値に規定している。
e) りん酸イオン ボイラ水のりん酸イオンは,給水がもち込んだカルシウムによるスケール化を防止す
る目的及び鉄鋼に対する防食作用を維持する目的で管理する項目である。
りん酸イオンは,復水器冷却水の漏えい,補給水の水質悪化などによってボイラにもち込まれるカ
ルシウムと反応して沈殿物を生成する。この沈殿物をボイラ水のブローによってボイラの外に除去す
ることで,ボイラ伝熱面でのスケール生成を防止することが可能である。
また,りん酸イオンは,鉄鋼面にりん酸鉄の皮膜を形成し,防食作用があるといわれている。この
ため,新設のボイラの試運転初期の段階ではりん酸イオンが選択的に消費される傾向が強く,ボイラ
水のりん酸イオン濃度が低下する一方で,Na/PO4モル比が投入薬品のNa/PO4モル比よりも高くなる
傾向を示すことがある。ただし,アルカリ処理のボイラ水では,投入薬品のNa/PO4モル比が,共存す
る水酸化ナトリウム及びナトリウム塩類によって3.0よりも大きいので,Na/PO4モル比の変動及びそ
れに伴うpHの変動はほとんど目立たない。
f) 亜硫酸イオン又はヒドラジン 亜硫酸イオンについては,必ずボイラ水に亜硫酸イオンを常時残留さ
せることが必要であるため,ボイラ水の亜硫酸イオンの濃度の下限を設定し,上限を撤廃した。ボイ
ラ水の亜硫酸イオンの濃度の上限を設定していないが,亜硫酸イオンの熱分解によって発生する二酸
化硫黄(SO2)の量をできるだけ少なくするため,脱気器を設置しないボイラではSO3: 50 mg/L,脱気
器を設置し常用使用圧力2 MPa以下のボイラではSO3: 20 mg/L,脱気器を設置し常用使用圧力2 MPa
を超え5 MPa以下のボイラではSO3: 10 mg/Lを上回らない範囲に制御することが望ましい。また,熱
分解が著しくなる常用使用圧力5 MPaを超えるボイラには亜硫酸ナトリウムは使用しない。
ヒドラジンについては,残留濃度の不足を回避するために,管理値に下限値を規定する。一方,上
限値は規定しないが,過剰添加によるアンモニアの発生を抑えるために,低く保つことが望ましい。
g) シリカ ボイラ水のシリカは,低圧ボイラではボイラ内面に硬質スケールを付着させる原因となり,
中圧ボイラ及び高圧ボイラではシリカの化学的キャリオーバによるタービン翼へのシリカ付着の原因
にもなる。
水管ボイラの補給水には,通常イオン交換水が用いられ,また,高圧力になるほど蒸気復水の回収
率が大きいのが通例であり,定常運転状態では,ボイラ水のシリカの濃度を管理値以下に保つことは
可能である。一方,シリカの化学的キャリオーバは,ボイラの運転圧力及びボイラ水のシリカの濃度
が高くなるほど著しいので,常用使用圧力が高くなるほどボイラ水のシリカの管理値の上限を低く規
定している。
A.2.4.3 留意事項
ボイラ水のアルカリ処理の留意事項は,次のとおりである。
a) 産業用水管ボイラにおいて,常用使用圧力が7.5 MPa以下であっても,蒸発管伝熱面などでアルカリ

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腐食による減肉の可能性がある場合には,アルカリ処理を適用せず,りん酸ナトリウムによるりん酸
塩処理を適用することが望ましい。
b) 産業用水管ボイラにおいて,りん酸カリウム塩及び水酸化カリウムを使用したアルカリ処理を適用す
るのは常用使用圧力2 MPa以下までとする。常用使用圧力2 MPa以下であっても,蒸発管にアルカリ
腐食による減肉の可能性がある場合は,ボイラ水の処理方式として,りん酸ナトリウムによるりん酸
塩処理を適用することが望ましい。
A.3 りん酸塩処理
A.3.1 適用ボイラ
次のボイラ及び常用使用圧力のボイラ水に適用する。
a) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 15 MPa以下
b) 電力事業用循環ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 15 MPaを超え20 MPa以下
c) 電力事業用排熱回収ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 20 MPa以下
なお,貫流ボイラには,適用しない。
A.3.2 処理方法
りん酸塩処理は,ボイラ蒸発管のアルカリ腐食を防止するため,ボイラ水中に過剰のアルカリ成分を共
存させることなく,りん酸塩(通常,りん酸三ナトリウム及びりん酸水素二ナトリウム)の濃度とpHと
の関係を適正に維持してボイラ水の水質を調節する方式である。この方式は,りん酸塩の加水分解によっ
て生じる水酸化物イオンの濃度を適正な値に調節するために,Na/PO4のモル比が重要となる。水質管理で
は主としてりん酸三ナトリウムをりん酸水素二ナトリウムと併用して,Na/PO4のモル比が調整される。
常用使用圧力3 MPa以下のボイラでは,このモル比を3.0に維持する。一方,常用使用圧力3 MPaを超
えるボイラでは,沸騰伝熱面でりん酸三ナトリウムが濃縮,析出する場合に,Na/PO4のモル比が2.62.8
となることを考えて,ボイラ水中のNa/PO4のモル比を,3.0より小さい2.8に保持してpH調節を行う。さ
らに,圧力が高くなるほど,りん酸塩の濃度を低く保持する処理を行う。低圧ボイラでもアルカリ腐食を
起こす可能性がある場合は,りん酸塩処理を適用する。りん酸塩処理におけるボイラ水のりん酸イオンの
濃度とpHとの関係については,A.3.4 a)に記載する。
A.3.3 処理の原理
A.3.3.1 腐食抑制
ボイラ水のpHは,鉄系材料の酸化物の溶解度が小さくなるpH 8.59.7程度のアルカリ性に保持し,腐
食の抑制を図る。また,りん酸イオンは,鉄鋼面にりん酸鉄の皮膜を形成し,防食作用がある[8]。このた
め,試運転初期の段階では,りん酸イオンが選択的に消費される傾向が強く,ボイラ水中のNa/PO4モル比
が,投入薬品のモル比よりも高くなる傾向を示す。
ボイラ水に通常使用するりん酸ナトリウム塩には,ナトリウム数が1個のりん酸二水素ナトリウム
(NaH2PO4),ナトリウム数2個のりん酸水素二ナトリウム(Na2HPO4),及びナトリウム数3個のりん酸
三ナトリウム(Na3PO4)があり,水質管理では,主としてりん酸三ナトリウムを使用し,りん酸水素二ナ
トリウムを併用してNa/PO4のモル比を調整する。りん酸三ナトリウムは,次のように三段階にわたって加
水分解し,図A.10に示すようにアルカリ性を呈する[9]。

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Na3PO4+H2O Na2HPO4+NaOH (A.7)
Na2HPO4+H2O NaH2PO4+NaOH (A.8)
NaH2PO4+H2O H3PO4+NaOH (A.9)
図A.10−Na/PO4モル比が2.03.0のオルトりん酸ナトリウム溶液の濃度とpHとの関係[9]
A.3.3.2 ハイドアウト(hideout)の抑制
りん酸ナトリウムの溶解度は,図A.11に示すように,120 ℃以上の高温域では温度上昇とともに減少
し,固相を形成しやすくなり,ボイラ内で生じるりん酸塩のハイドアウト現象(ボイラ水中のりん酸イオ
ン濃度が,高負荷時には,管壁への析出によって注入濃度より減少し,一方,低負荷時には再溶解するた
めに濃度が上昇する現象)の原因となる[10]。高温下で,りん酸塩が析出する際には,常温の場合と異なっ
て,液相と固相との組成は必ずしも一致せず,複雑な相平衡状態となることが知られている。
りん酸ナトリウムのpH−PO4曲線は,図A.12に示すように,高pH側は,遊離アルカリの存在領域であ
り,りん酸ナトリウム及び水酸化ナトリウムの共存領域である。遊離アルカリ抑制上,この曲線より下側
のpH領域にボイラ水を保持するのが,1942年,Whirl及びPurcellが提唱したコーディネイト(Coordinated)
処理である[11]。

――――― [JIS B 8223 pdf 53] ―――――

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図A.11−りん酸ナトリウムの溶解度[10]
図A.12−コーディネイトりん酸塩−pH曲線[11]
その後,Ravitchなどが最初に見いだしたように,高温のりん酸ナトリウム溶液(Na/PO4=3.0)中で固相
を形成すると,液相側のNa/PO4比は3.0より大きくなり,一方,固相側のモル比は3.0より小さくなる。
すなわち,溶液側に遊離アルカリを形成する。図A.13に,固·液平衡状態における,液相及び固相のNa/PO4
モル比を示す[12]。固相と液相との組成が一致する点(コングルエント点)は,243 ℃300 ℃ではモル比
2.1及び2.8近傍に存在する。したがって,りん酸塩の析出に伴う遊離アルカリの形成を抑制するには,溶
液のNa/PO4モル比を,2.8より小さく保持する。このように,アルカリ抑制の観点からモル比を制御する
りん酸塩処理は,コングルエント(Congruent)処理と呼び,従来のコーディネイト(Coordinated)処理を
一層見直したものである。

――――― [JIS B 8223 pdf 54] ―――――

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図A.13−固相及び液相間におけるNa/PO4モル比の関係(243 ℃300 ℃)[12]
高pH側で遊離アルカリが生じ,図A.12に示すようにりん酸塩と水酸化ナトリウムとが共存する場合,
及び図A.13に示すようにコングルエントライン約2.8を超えてりん酸塩が析出し,液相中に遊離アルカリ
が生成してpHが上昇する場合には,沸騰伝熱面で遊離アルカリは著しく濃縮し,炭素鋼の腐食を加速さ
せる。すなわち,沸騰伝熱面において熱負荷の高い箇所又はスケールが付着して管壁温度が上昇する箇所
(ホットスポット)において,管内面の表面状態などによってボイラ水の濃縮が起こり,高濃度のNaOH
が生成しやすい。沸騰伝熱面における過熱度(管壁温度−ボイラ水の飽和温度の温度差)と,濃縮境膜に
おける水酸化ナトリウムの最高到達濃度との関係を,図A.14に示す。また,Na3PO4濃度,Na2HPO4濃度
及びNaOH濃度と炭素鋼の腐食量との関係を,図A.15に示す。310 ℃以上になると,NaOH水溶液中での
炭素鋼の腐食速度は,Na3PO4水溶液中及びNa2HPO4水溶液中に比べて極めて大きくなる。例えば,310 ℃
では,NaOHの濃度10 %程度から炭素鋼の腐食速度が増大し始め,20 %以上の高濃度になると腐食速度は
急速に増大する[13] [14]。一方,出力が低下すると,管壁に付着していたりん酸塩が溶け出しpHが低下す
る(図D.1参照)。実機の事例では,遊離アルカリによるボイラ管の損傷が複数報告されており,りん酸塩
の溶出よりも深刻な事象である。

――――― [JIS B 8223 pdf 55] ―――――

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