JIS B 8223:2021 ボイラの給水,ボイラ水及び蒸気の質 | ページ 12

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80
圧力(Kgf/cm2)
10
30
70 80
120
160
%
60 180
水酸化ナトリウム
50
40
30
20
10
0
0 10 20 30 40 50 60 70 80 90 100
温度差 ℃
図A.14−過熱度(管壁温度−ボイラ水の飽和温度)と
濃縮境膜におけるNaOHの最高到達濃度との関係[13] [14]
60
50 400℃,100h,鋼棒(C : 0.16%)
NaOH 水溶液
2
cm
40 Na3PO4 水溶液
/
400℃
m g
Na2HPO4水溶液
30
腐食量
310℃
20 400℃
310℃
10
0 0.1 0.4 1 2 3 4 5 8 10 15 20 30 40
NaOH濃度(%)
図A.15−NaOH濃度と炭素鋼の腐食量との関係[13] [14]
我が国の高圧ボイラでは,りん酸イオンの濃度を数mg/Lと低めにしてpHを弱アルカリ性に保持し,ア
ルカリ腐食を極力抑制する方法を採用する。この方法を,“低りん酸塩処理”という。低りん酸塩処理にお
いてもハイドアウト現象は生じるが,国内のプラントでは,水壁管自体の大きな腐食障害を経験しておら
ず,低りん酸塩処理における,りん酸塩析出に起因する遊離アルカリの形成は,水壁管の腐食の程度に対
して,ほとんど影響を与えないという見方も可能である。

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A.3.3.3 スケール付着抑制
りん酸塩処理を適用する産業用水管ボイラ,電力事業用循環ボイラ及び電力事業用排熱回収ボイラのボ
イラ水にイオン交換水を使用することによって,海水漏えいなどを除いて硬度成分がもち込まれる可能性
が低くその結果,スケールの付着が抑制される。
A.3.3.4 海水漏えい時の緩衝作用
海水の成分には,塩化ナトリウムのほかに,塩化マグネシウムが0.5 %程度含まれており,海水漏えいの
場合に塩化マグネシウムは,式(A.10)に示すように加水分解によって揮発性の塩酸を生じる。
MgCl2+2H2O → Mg(OH)2+2HCl (A.10)
この反応によって,ボイラ水のpHが下がり,腐食及び孔食の発生·成長が促進される。
りん酸塩処理の場合には,りん酸三ナトリウム(Na3PO4)の加水分解によって,主にりん酸水素二ナト
リウム(Na2HPO4)及び水酸化ナトリウムがボイラ水中に存在する。その結果,Na3PO4とNa2HPO4との解
離平衡によって,酸性成分又はアルカリ性成分の影響を弱め,緩衝作用を示す。
Na2HPO4+HCl → NaH2PO4+NaCl (A.11)
このように,りん酸塩処理の場合には,海水漏えい時の塩化マグネシウムの加水分解によって生じたHCl
とNa2HPO4とが反応するため,ボイラ水中のNaOHの濃度変化は少ない。
A.3.4 管理項目
りん酸塩処理は,産業用水管ボイラのイオン交換水を使用する場合のボイラ水,電力事業用循環ボイラ
のボイラ水及び電力事業用排熱回収ボイラのボイラ水に適用する(A.3.1を参照)。各々のボイラ水の管理
項目は,次のとおりである。
a) 産業用水管ボイラのイオン交換水を使用する場合のボイラ水 管理項目は,pH,酸消費量,電気伝導
率,塩化物イオン,りん酸イオン,亜硫酸イオン又はヒドラジン,及びシリカの7項目である。pHに
ついては,次のとおりである。
りん酸塩処理は,ボイラ水中のNa/PO4のモル比を3.0以下に調節して管理する水処理で,ボイラ水
のpHは,りん酸イオンの濃度に依存する。この関係について,Marcyらの実績値を,図A.10に示す
[9]。しかし,実際のボイラ水中には,給水のpHを調節のために注入したアンモニアなどの揮発性物
質が共存している。そのため,ボイラ水中には,分配(気相/液相)係数に応じた量の揮発性物質が
存在し,ボイラのpH上昇に寄与している。アンモニアの分配係数は,図A.24に示すように,例えば,
15 MPaでは約2.5,7.5 MPaでは約4である。ボイラ水中のアンモニア濃度は,ボイラの起動後に経時
的に上昇し,通常は数時間程度で定常状態となる。実ボイラのボイラ水中のアンモニア濃度は,プラ
ントの運転条件を考慮して計算すると,おおむね(給水中濃度)/(分配係数)となる[15]。給水のpH
をアンモニアで調整している系において,25 ℃におけるpHが10.3(アンモニア濃度NH3: 43 mg/L)
とすると,115 MPaのボイラ水中のアンモニア濃度はNH3: 17.3 mg/L(pH=10.1),27.5 MPaのボイ
ラ水中のアンモニア濃度はNH3: 10.8 mg/L(pH=10.0)となる。また,給水の25 ℃におけるpHが9.4
(アンモニア濃度NH3: 1.05 mg/L)のときは,315 MPaのボイラ水中のアンモニア濃度はNH3: 0.42
mg/L(pH=9.1),47.5 MPaのボイラ水中のアンモニア濃度はNH3: 0.26 mg/L(pH=9.0)となる。同
様に,給水の25 ℃におけるpHが9.0(アンモニア濃度NH3: 0.26 mg/L)のときは,515 MPaのボイ
ラ水中のアンモニア濃度はNH3: 0.11 mg/L(pH=8.7),67.5 MPaのボイラ水中のアンモニア濃度は
NH3: 0.07 mg/L(pH=8.5)となる。ただし,これらは確実に気液が分離している実験系においてであ
り,実ボイラにおいて蒸気ドラム内のサンプリングポイント周囲では蒸気とボイラ水との混合がある

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ため,ボイラ水中に高いアンモニア濃度が検出され,見かけの分配係数は小さな値となる場合がある。
図A.16は,上記の1から6までの条件でアンモニア共存時のボイラ水中の25 ℃におけるpHとり
ん酸イオン濃度(Na/PO4モル比)との関係を示したものであり,ボイラ水中のりん酸イオン濃度が数
mg/L以下の場合は,ボイラ水のpHには,給水中のアンモニア濃度が大きく影響する。したがって,
おおむね,7.5 MPaを超えるボイラ水のpHは,給水中にボイラ水のpHを低下させるような因子が少
ない場合は,りん酸イオンの濃度を数mg/L以下に抑制して,アンモニアなどの揮発性物質だけで調
整可能となる。
図A.16−アンモニア共存時のりん酸イオン濃度とpHとの関係
b) 電力事業用循環ボイラのボイラ水 管理項目は,pH,電気伝導率,塩化物イオン,りん酸イオン及び
シリカの5項目である。
c) 電力事業用排熱回収ボイラのボイラ水 管理項目は,pH,電気伝導率,塩化物イオン,りん酸イオン
及びシリカの5項目である。pH,電気伝導率及びりん酸イオンについては,次のとおりである。
1) pH 電力事業用排熱回収ボイラは,一般的に,起動·停止の回数が多く,短い時間でプラントを起
動させる運用が要求されるため,停止時及び起動時の防食を考慮し,ボイラ水のpH及びりん酸イ
オンの濃度を同圧力区分の水管ボイラの規定より高めに保持すること,さらに,蒸発管伝熱面の熱
負荷が低く定常運転時のりん酸イオンのハイドアウトが少ないことなどを勘案し,常用使用圧力15
MPa以下の圧力区分においては,管理値の上限を表9の産業用水管ボイラの水質よりも高めている。
2) 電気伝導率 1) のようにpHは産業用水管ボイラの管理値より高めに規定している。このため,ボ
イラ水の電気伝導率も表9の産業用水管ボイラの管理値より高くなるが,その値は,Na/PO4モル比
2.5及び2.8におけるりん酸濃度,pH及び電気伝導率の理論計算から,pHの上限値に対応する電気
伝導率として,常用使用圧力10 MPa以下については40 mS/m以下に,10 MPaを超え15 MPa以下

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では15 mS/m以下となる。
3) りん酸イオン 常用使用圧力15 MPa以下の圧力区分におけるりん酸イオンの濃度は規定しないで,
表15の注a)に示すように,ボイラ水のpHを維持できるように濃度を調整する。例えば,Na/PO4の
モル比を2.6とするとき,pH 9.810.7に相当するりん酸イオン濃度は,PO4: 5 mg/L70 mg/Lとな
る。また,比較的りん酸塩のハイドアウトの可能性が高い常用使用圧力15 MPaを超え20 MPa以下
の高圧圧力区分では,過剰のりん酸塩の注入を防止するため,同圧力区分の水管ボイラの水質に準
拠し,PO4: 3 mg/L以下となる。
A.3.5 留意事項
A.3.5.1 キャリオーバ
りん酸塩処理の場合,りん酸ナトリウムの一部は蒸気に溶解し,移行する。ボイラ水中のりん酸水素二
ナトリウム(Na2HPO4)と蒸気中のNa2HPO4との関係を図A.17,ボイラ水中のりん酸三ナトリウム(Na3PO4)
と蒸気中のNa3PO4との関係を図A.18に示す。亜臨界圧ボイラの温度及び圧力条件の場合,Na2HPO4及び
Na3PO4気液分配係数(蒸気中の物質の濃度/液相中の物質の濃度)は,10−210−3とごく小さく,蒸気中
のりん酸ナトリウム濃度は,1 μg/L0.1 μg/Lと無視可能な程度である[16]。このため,通常の低りん酸塩
処理の場合,ドラム内の汽水分離器が,飛まつ(沫)同伴が起こらないように正常に機能していれば,り
ん酸ナトリウムのキャリオーバは,実質上,起っていないとみることが可能である。逆に,タービンにり
ん酸ナトリウムの析出が起こるような場合には,汽水分離器の性能などを確認する必要がある。
図A.17−ボイラ水中のNa2HPO4の蒸気中へのキャリオーバ[16]

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図A.18−ボイラ水中のNa3PO4の蒸気中へのキャリオーバ[16]
A.4 揮発性物質処理
A.4.1 適用ボイラ
次のボイラ及び常用使用圧力の給水及びボイラ水に適用する。
a) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラの給水 常用使用圧力 : 5 MPaを超え15 MPa以下
b) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 5 MPaを超え15 MPa以下
c) 電力事業用循環ボイラの給水 常用使用圧力 : 15 MPaを超え20 MPa以下
d) 電力事業用循環ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 15 MPaを超え20 MPa以下
e) 電力事業用排熱回収ボイラの給水 常用使用圧力 : 20 MPa以下
f) 電力事業用排熱回収ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 20 MPa以下
g) 電力事業用貫流ボイラの給水 常用使用圧力 : 7.5 MPaを超え20 MPa以下,及び20 MPaを超えるも

A.4.2 処理方法
A.4.2.1 共通事項
揮発性物質処理は,アルカリ腐食の懸念がない上に,ボイラ水の全蒸発残留物の濃度を可能な限り低く
抑えるので,蒸気純度の向上が可能である。揮発性物質処理のうち,ヒドラジンなどの脱酸素剤を用いる
水処理方法をAVT(R)という。
脱酸素剤を使用せず,極微量の酸素(O: 7 μg/L以下)の存在を許容する水処理方法をAVT(LO)という。
極めて低い酸化性環境であるが,pHが高く(pH 9.2以上)なるとO: 5 μg/L未満の溶存酸素濃度下でも酸
化性環境となる[17]。我が国の火力発電プラントでは,諸外国のプラントと比べ,復水器の真空度及び脱気
器の脱気性能が優れていることから,ヒドラジン注入を取りやめた多くの場合で,溶存酸素濃度がO:7g/L
以下のこのような水質環境になる[AVT(LO)]傾向にある。
AVT(LO)同様に脱酸素剤を使用せず,微量の酸素(O: 7 μg/Lを超え20 μg/L以下)の存在を積極的に許

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