JIS B 8223:2021 ボイラの給水,ボイラ水及び蒸気の質 | ページ 13

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容し,酸化性環境を保つ水処理方法をAVT(O)という。諸外国の火力発電プラントでは,ヒドラジン注入を
取り止めた場合,真空度,脱気度が我が国ほどよくないため,溶存酸素濃度が7g/Lを超え20g/L以下と
なり,このような水質環境状態になる[AVT(O)]傾向にあるという報告が多い。
A.4.2.2 水質調整剤
揮発性物質処理は,pH調整剤として,アンモニア又はアミン類を給水に注入するのが一般的である。
AVT(R)の場合,脱酸素剤としてヒドラジン(ヒドラジン一水和物)を用いる場合が多く,アンモニア同
様,給水に注入している。ヒドラジンは高温下では分解してアンモニアを生成し,pH調整にも寄与するこ
とから,pH調整剤として用いる場合もある。
なお,AVT(LO)及びAVT(O)の場合は,脱酸素剤の注入を行わない。
アミン類としては,2-アミノエタノール,シクロヘキシルアミン,モルホリン,2-アミノ-2-メチル-1-プ
ロパノール,3-メトキシプロピルアミン,2-ジエチルアミノエタノールなどを使用している。表A.1に代
表的なアミンの種類及び性質を示す。
表A.1−代表的なアミンの種類及び性質[18][19][20][21]
化学名又は一般名 化学式/構造式 塩基解離定数 分配比 極限モル伝導率
pKb値 (1.0 MPa時) λ∞
(mS·m2/mol)
アンモニア NH3 4.75[18] 7.9[19] 7.35[18]
2-アミノエタノール 4.59[18] 0.14[19] 4.22[18]
シクロヘキシルアミン 3.47[18] 20[19] 4.0[18]
モルホリン 5.68[18] 1.0[19] 4.7[18]
2-アミノ-2-メチル-1-プロパ 4.50[19] 0.59[19] 3.7[20]
ノール
3-メトキシプロピルアミン 3.99[21] 2.4[21] 5.8[20]
(200 psig)
2-ジエチルアミノエタノー 4.18[21] 4.5[21] 3.8[20]
ル (200 psig)
A.4.2.3 水質調整
水管ボイラの場合,pH調整剤·脱酸素剤は,給水入口点(復水ポンプ出口など)で注入して,給水系統
の水質を制御する。図A.19に示すように,各pH調整剤濃度と電気伝導率との相関から,濃度制御する。
溶存酸素は,脱気器などによって脱気されるとともに,脱酸素剤によって消費される。ボイラ水は,一
般的には給水をそのまま補給しており,その水質の影響を受ける。

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電力事業用排熱回収ボイラの場合,溶存酸素は復水器にて脱気する。その後,給水入口点(低圧給水ポ
ンプ出口など)でpH調整剤·脱酸素剤が注入され,給水系統の水質を制御する。ボイラ水は給水をその
まま補給することになるが,ほとんどのプラントはりん酸塩処理を行っている。
貫流ボイラの場合,薬液注入点の上流側に復水脱塩装置を設置し,給水中の不純物を極力除去する。pH
調整剤·脱酸素剤を,復水脱塩装置出口に注入し,給水系統の水質を制御する。水管ボイラ同様,溶存酸
素は,脱気器にて脱気し,脱酸素剤によって更に消費される。
なお,AVT(LO)及びAVT(O)については,脱酸素剤の注入を行っていない。
図A.19−各pH調整剤濃度と電気伝導率との関係(25 ℃における)
A.4.3 処理の原理
A.4.3.1 揮発性物質処理(還元形)[AVT(R)]
AVT(R)処理法は,給水及びボイラ水のpHをpH調整剤を用いて,鉄系材料の酸化物であるマグネタイ
ト(Fe3O4)の溶解度が小さくなるpH 8.510.3程度のアルカリ性に保持するとともに,ヒドラジンなどの
脱酸素剤を用いて溶存酸素を化学的に除去し,還元雰囲気中で腐食を抑制する。
ただし,系統に銅系材料を使用している場合,アンモニアによる腐食影響を考慮して,銅材使用範囲に
合わせてpH上限値を設定する。
A.4.3.2 揮発性物質処理(低酸化形)[AVT(LO)]及び揮発性物質処理(酸化形)[AVT(O)]
AVT(LO)及びAVT(O)処理法は,給水及びボイラ水のpHをpH調整剤を用いて,鉄系材料の酸化物であ
るマグネタイトの溶解度が小さくなるpH 8.510.3程度のアルカリ性に保持する点は,AVT(R)と同様であ
る。しかし,AVT(LO)及びAVT(O)処理法は,AVT(R)と異なり,ヒドラジンなどの脱酸素剤を使用しない
場合であっても,溶存酸素濃度を低く保持可能である水処理法であり,産業用水管ボイラ,電力事業用循
環ボイラ,電力事業用排熱回収ボイラ及び電力事業用貫流ボイラに適用する。

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図A.20及び図A.21に示すように,溶存酸素濃度がO: 0 μg/LからO: 20 μg/L程度へと増加するに伴い,
腐食電位は上昇する[22] [23]。
AVT(LO)の場合,給水中の溶存酸素がO: 7 μg/L以下の低酸化性の水質条件である。図A.20に示すpH
9.0のAVT(LO)条件下では,O: 2 μg/Lにおいて,腐食電位は若干上昇するがヘマタイト(Fe2O3)皮膜は生
成しない。しかし,O: 5 μg/Lになると微量の溶存酸素濃度でも,Fe2O3皮膜を形成する可能性があること
を示唆する[22]。図A.21では,pH 9.2のAVT(LO)条件下では,溶存酸素濃度O: 2 μg/L以上になるとFe2O3
皮膜が生成し,それに伴うFACによる腐食抑制効果の報告もあり,AVT(LO)水質条件下の腐食抑制効果は,
AVT(R)と同等又は優位であると評価可能である[23]。同報告によると,pHが上昇すると,極微量の溶存酸
素でもFe2O3皮膜が生成するようになるという記載がある[17][23]。
図A.20−炭素鋼の腐食電位と流速との関係[22]
溶存酸素濃度(g/L)
図A.21−炭素鋼の腐食電位に及ぼす溶存酸素の影響[23]
(試験温度 : 180 ℃,pH : 9.2,流速 : 5 m/s)
我が国の火力発電プラントでは,諸外国のプラントと比べ,復水器の真空度及び脱気器の脱気性能が,

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ヒドラジン注入を取りやめた多くの場合で,給水中の溶存酸素濃度がO:7g/L以下のこのような水質環境
になる[AVT(LO)]傾向にある。
また,図A.22は全鉄系の750 MWの超臨界圧貫流ボイラへのAVT(LO)適用の海外事例であり,脱酸素
剤の注入から無注入条件へと変換した前後の鉄イオン,溶存酸素濃度の変化を示す。脱酸素剤を無注入と
することによって溶存酸素濃度が4.7 ppb(O: 4.7 μg/L)から6.5 ppbへと増大し,一方,鉄イオン濃度は,
5.3 ppbから1.2 ppbへと減少した[24]。脱酸素剤の注入を停止すると,溶存酸素の濃度が微量増加し,酸化
雰囲気となり,そのため,鉄の溶出を抑制できたことを示す。
[AVT(R)からAVT(LO)への変換に伴う節炭器入口における給水鉄及び溶存酸素濃度の
変化(750 MW超臨界圧貫流ボイラ,全鉄給水系システム)]
図A.22−海外火力発電プラントにおけるAVT(LO)適用に伴う鉄濃度の低減例[24]
AVT(O)の場合は,水処理方法はAVT(LO)と同様であるが,純水装置及び復水脱塩装置の設置によって給
水の酸電気伝導率を酸素処理並みに抑制できていることを条件に,給水中の微量の溶存酸素(O: 7 μg/Lを
超え20 μg/L以下)の存在を許容し,酸化雰囲気の中で腐食を抑制する方法である[22]。諸外国の火力発電
プラントでは,ヒドラジン注入を取りやめた場合,真空度,脱気度が我が国ほどよくないため,溶存酸素
がO: 7 μg/L以上を超え20g/L以下となり,このような水質環境になる[AVT(LO)]傾向にあるという報
告がある[24]。AVT(O)の方が,AVT(LO)よりも確実にFe2O3皮膜を形成することから,腐食抑制効果に関
して優位性があると考えられる。
全鉄系の電力事業用の超臨界圧及び超々臨界圧貫流プラントでは,脱ヒドラジンの観点から還元剤を使
用しないAVT(LO)及びAVT(O)の適用が進められている[25]。ただし,一部の超臨界貫流プラントにおい
て,AVT(LO)適用時に過熱器スプレノズル弁にスケールが付着する事象が発生している。このような場合

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は,脱酸素剤を用いたAVT(R)が適用されている。
また,電力事業用循環ボイラにおいて,構成材料に鉄系と銅系との混合材料が使用され酸素による銅合
金の溶出可能性があるプラント及び産業用ボイラでは,脱酸素剤を用いたAVT(R)が適用されている。
国内外の産業用ボイラでは,脱ヒドラジン対策として,カルボヒドラジドなどの代替還元剤を用いた
AVT(R)が適用されており,特性評価研究がなされている[26]。なお,近年,産業用ボイラでは,カルボン
酸アミン塩処理,皮膜形成アミン処理など有機物を用いた水処理も適用されている。
AVT(R),AVT(LO),AVT(O)及び酸素処理(OT)についてまとめた結果を,表A.2に示す。
表A.2−AVT(R),AVT(LO),AVT(O)及び酸素処理(OT)の比較
水処理 水質 還元剤 溶存酸 pH 酸電気伝導率 鉄酸化物形態 補足説明
環境 素 (貫流ボ mS/m(常用使
μg/L イラの場 用圧力20 MPa
合) を超える貫流ボ
イラの場合)
AVT(R) 還元性 使用 7以下 8.510.0 0.025以下 Fe3O4 −
AVT(LO) 低酸化 不使用 7以下 8.510.0 0.025以下 pH値及び溶存酸素濃度 我が国でヒド
性 が低いとFe3O4皮膜だ ラジン注入を
けが形成する場合が多 止めた場合,
い。pH値及び溶存濃度 AVT(LO)の水
が高くなるとFe3O4皮 質状態になる。
膜の上に極めて薄い
Fe2O3皮膜が形成する。
一般にpH値が高くなる
に従い,少量の溶存酸素
濃度でもFe2O3皮膜が
形成する傾向にある。
AVT(O) 酸化性 不使用 7を超え 8.510.0 0.02以下 Fe3O4皮膜の上に薄い 諸外国でヒド
20以下 Fe2O3皮膜が形成する。ラジン注入を
止めた場合,
AVT(O)の水質
状態になる。
(参考) 酸化性 不使用 20を超え 8.010.0 0.02以下 酸素注入制御
給水·ボイラ系統全体に
OT 200以下 おいて,Fe3O4皮膜上に設備が必要で
安定で緻密なFe2O3皮 ある。
膜が覆う。
A.4.4 管理項目
A.4.4.1 産業用水管ボイラ,電力事業用循環ボイラ及び電力事業用排熱回収ボイラの給水
産業用水管ボイラ,電力事業用循環ボイラ及び電力事業用排熱回収ボイラの給水の場合,次のpH,酸電
気伝導率,溶存酸素,鉄,銅及びヒドラジンの6項目が管理項目である。また,産業用水管ボイラだけ,
硬度を設定する。
a) pH pHの調整は,系統を構成する材料の腐食を抑制するために行うものであり,管理値の設定に対
する基本的な考え方は,アルカリ処理の場合と同じで,産業用水管ボイラ及び電力事業用循環ボイラ
の場合,給水pH 8.510.3を管理値とする。これは給水加熱器の管材が鋼管·銅合金管の両者の場合を
包括して表した範囲であり,実際のpH管理に当たっては,系統内の材質,温度,圧力などの使用条

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