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場合がある。
A.5 酸素処理
A.5.1 適用ボイラ
次のボイラ及び常用使用圧力の給水及びボイラ水に適用する。
a) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラの給水 常用使用圧力 : 10 MPaを超え15 MPa以下
b) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 10 MPaを超え15 MPa以下
c) 電力事業用循環ボイラの給水 常用使用圧力 : 15 MPaを超え20 MPa以下
d) 電力事業用循環ボイラのボイラ水 常用使用圧力 : 15 MPaを超え20 MPa以下
e) 電力事業用貫流ボイラの給水 常用使用圧力 : 7.5 MPaを超え20 MPa以下,及び20 MPaを超えるも
の
注記1 産業用水管ボイラヘの酸素処理の適用例は少ないが,貫流ボイラにおいて良好な実績を得てい
たので,常用使用圧力10 MPaを超える産業用水管ボイラに対して適用可能であることとした。
ただし,この処理方法の適用は,高純度な水質である必要があることから,復水脱塩装置を設
置し,系統には銅系材料を使用しないことが望ましい。
注記2 我が国の事業用大容量貫流ボイラヘの酸素処理の適用例としては,1990年(平成2年)8月か
らの中部電力知多第二火力発電所1号機が初めてであるが2020年3月現在,56ユニットにこ
の処理方式が適用され,良好な実績を得ている[29] [30]。
電力事業用循環ボイラ及び電力事業用排熱回収ボイラヘの酸素処理の適用例はまだないが,水質·材料
面の条件が整った場合には,適用することは可能である。
A.5.2 処理方法
酸素処理(OT)は,高純度水中に微量の酸素ガスなどの酸化剤及び揮発性アルカリ薬品を復水系統(復
水昇圧ポンプ出口など)及び給水系統(脱気器出口など)に注入することによって,水中の鉄成分を2価
からより溶解度の低い3価の状態に維持して水質管理を行う方式である。
この処理方式を用いることによって,スケール成長速度抑制による化学洗浄頻度の低減,波状スケール
生成抑制によるボイラ差圧上昇の低減,アンモニア使用量抑制による環境保全の向上,構成機器へのスケ
ール付着の低減,FACの低減などの利点がある。
A.5.3 処理の原理
従来の水処理方式においては,溶存酸素は最も腐食性のある水質成分とみなしていたので,溶存酸素の
濃度をできるだけ低く保持し,pH調節を行うことによって腐食を防止することを基本にしていた。その一
方で,酸素処理は,高純度の水中で酸素ガス及び揮発性アルカリ薬品,又は酸素ガスだけを用いて,難溶
性の腐食生成物を鉄の表面上に均一に生成させることによって,その後の鋼の腐食及び腐食生成物の水中
への放出を抑制させることが可能であるとの考え方に基づいたものである。
酸素処理は,現在では,アンモニアなどによってpH 8.010.0程度のアルカリ性を条件とし,溶存酸素
の共存によって腐食を抑制させる水処理方法を指し,複合水処理(CWT)ともいう[25] [31]。一方,高純
度水中に酸素だけを添加する水処理方法は,中性水処理(NWT)といい,1970年代から海外で適用されて
きたが,不純物に対するpH緩衝作用が乏しいこと,ドレン系の腐食抑制対策を要することなどから,世
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界的に見て適用実績が少なく,アルカリ薬品が使用できないなどの条件下で使用する方法である[31] [32]。
なお,ドレン系統の鉄の溶出制御に特化した対策としては,ドレン系へのアンモニア注入,低合金鋼又
はステンレス鋼の採用などがあり得る。
これらの処理方式及び揮発性物質処理における鉄−水系の電位−pH図を,図A.26に示す[33]。図A.26
から,AVT(R)の条件では,鉄の安定な酸化物はマグネタイト(Fe3O4)であり,酸素処理の条件ではヘマタ
イト(Fe2O3)が安定であることが分かる。これらが腐食生成物として,鉄の表面上に皮膜として保持され
ることによって腐食抑制作用を得る。一方,鉄(III)イオンの溶解度は,図A.27に示すように,鉄(II)
イオンより10桁程度低く,無視可能な程度である[34]。
水の純度が低い場合には,良好な保護皮膜を形成しにくくなるので,この処理の場合は,特に電気伝導
率の厳しい管理が必要となる。また,溶存酸素による鉄の保護皮膜の形成には,流動条件が必須となる。
この限界流速については,25 ℃の高純度水(空気飽和水)の場合には,0.1 cm/s以上の流速で不動態化し
たという報告がある[35]。このことから,酸素処理条件下で腐食抑制効果を維持するためには,最低,数
cm/s程度の比較的低い流動条件を与えればよい。
図A.26−鉄−水系の電位−pH図(25 ℃)[33]
図A.27−酸化物,水酸化物の溶解度に対するpHの影響(25 ℃)[34]
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銅合金に対しては,酸素の共存条件において生成する酸化銅(II)(CuO)の皮膜の溶解度は,脱気条件
における酸化銅(I)(Cu2O)の皮膜の溶解度より一般的に高いため,酸素の共存は好ましくない。この場
合には,pHを8.59.0のアルカリ性にするなど,鉄系材料と銅系材料との両者を考慮した最適の濃度条
件,注入方法の設定及び運用面での慎重な対応が必要となる。
A.5.4 管理項目
A.5.4.1 産業用水管ボイラ及び電力事業用循環ボイラの給水
産業用水管ボイラ及び電力事業用循環ボイラの給水の場合,次のpH,酸電気伝導率,溶存酸素,鉄及び
銅の5項目が管理項目である。
a) pH 鉄系酸化物の溶解防止にはpHを高くすることが望ましく,A.2.4.2 a)から給水の温度において鉄
イオン濃度が最も低くなる値を上限値に設定する。
b) 酸電気伝導率 管理値の設定では,溶存酸素による腐食抑制効果を保持するため,りん酸塩処理及び
揮発性物質処理の管理値よりも厳しい値で管理する。
酸素処理では,A.5.4.3 b)で記載するように,給水及びボイラ水中に不純物をほとんど含まない高純
度の水が要求され,塩化物イオン,硫酸イオンなどの陰イオンが増加すると3価の鉄化合物による保
護皮膜を破壊し,腐食が進行する。このため,水管ボイラの酸素処理においても,復水処理装置の設
置が望ましい。
c) 溶存酸素 酸素処理では,A.5.4.3 c)で記載するように,鉄系材料の表面の緻密な保護皮膜の形成には,
溶存酸素が20 μg/L200 μg/L必要である。しかし,水管ボイラにおいては,給水中の溶存酸素濃度の
上限値からボイラ水への影響を考慮すると,溶存酸素濃度の上限値を低くする必要があるため,管理
値を50 g/L以下としている。
d) 鉄 酸素処理では,A.5.4.3 d)で記載するように,各系統の鉄の濃度は,酸化鉄の溶解度の減少に伴い
低下する。このため,給水の鉄の濃度は,従来の水処理に比べ抑制可能と考えられる。国内での水管
ボイラでは実績が少ないが,海外の実績では,貫流ボイラと同様な水質を維持できていることから,
貫流ボイラの酸素処理の管理値を用いる。
e) 銅 酸素処理では,A.5.4.3 e)で記載するように,揮発性物質処理と比較して給水中の銅の濃度は高い
値となる可能性もある。しかし,水管ボイラの場合は,実績が少なく,銅の挙動が不明確であること
から,水管ボイラの該当する圧力区分の揮発性物質処理の管理値を用いる。
A.5.4.2 産業用水管ボイラ及び電力事業用循環ボイラのボイラ水
産業用水管ボイラ及び電力事業用循環ボイラのボイラ水の場合,次のpH,酸電気伝導率,塩化物イオン
及びシリカの4項目が管理項目である。
a) pH ボイラ水のpHは,給水に含まれてボイラに流入し,ボイラ水中に残留するアンモニウムイオン
などの揮発性塩基だけによって保たれる。このため,A.4.4.2 a)で記載したように,給水とボイラ水と
のpHとの差は,ボイラの運転条件その他の影響を受けて一定ではないので,ボイラ水のpHは,給水
のpHと同じ範囲を目標にして管理することが望ましい。
なお,鉄系酸化物の溶解防止にはpHを高くすることが望ましく,A.2.4.2 a)からボイラ水の温度に
おいて,鉄イオン濃度が最も低くなる値を上限値に設定する。
b) 酸電気伝導率 給水系統に酸素処理を適用する場合,給水及びボイラ水のpHを調節するために,通
常,アンモニアなどの揮発性物質を添加するが,この管理値はこれらの影響を除去するために,水素
イオン形の強酸性陽イオン交換樹脂層を通した後の値である。酸素処理において,ボイラの鋼材表面
に形成する酸化鉄の皮膜は,水中の塩化物イオンなどの陰イオンの増加によって皮膜を破壊するので,
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それらの総量に相当する酸電気伝導率もより低い値が好ましく,実績から判断して0.01 mS/m以下で
あることが望ましい。
c) 塩化物イオン b)に記載のように陰イオンの存在は,酸素処理において鋼材の表面に形成する酸化鉄
の皮膜に対して好ましくない。そのため,塩化物イオンの管理値を国内外の実績を考慮して低く(0.05
mg/L以下)設定した。
d) シリカ シリカ濃度の管理値設定に対する基本的な考え方は,A.2.4.2 g)を参照。
A.5.4.3 貫流ボイラの給水
貫流ボイラの給水では,次のpH,酸電気伝導率,溶存酸素,鉄,銅及びシリカの6項目が管理項目であ
る。
a) pH 酸素処理においては,鉄系材料の保護皮膜として生成が推測されるのは,低温で酸化水酸化鉄(III)
[FeO(OH)],高温でα-酸化物(III)[(α-Fe2O3) : ヘマタイト]の3価の鉄酸化物であり,これら3価
の鉄酸化物の水への溶解度は,pH 6以上では無視し得るほど小さい(図A.27を参照)[34]。しかし,
酸素処理は揮発性物質処理に比べて不純物の濃度を厳しく管理することが要求され,復水処理装置は,
H+-OH−形の運用が一般的である。JIS B 8223:2006が発行されるまでは,復水器,給水加熱器などの
系統に銅合金材料を使用していない場合には,アンモニアなどによる水質の調節は全く行わず,復水
脱塩装置の再生頻度も少なくなるpH 7付近を目標とした中性水処理が適用されていた。現在は,pH
の腐食抑制効果を考慮し,酸素ガス及びアルカリ薬品を注入する酸素処理法が適用されている。中性
水処理は,現在は酸素処理法の範ちゅう(疇)から外されており,アルカリ薬品が使用できない特殊
な条件下で使用されている。また,銅の溶解度は,図A.28に示すように,pH 8.5付近で最小となる
[36]。
図A.28−pHと銅の濃度との関係[36]
給水の溶存酸素の濃度を低い値に管理する揮発性物質処理においては,保護皮膜として酸化銅(I)
(Cu2O)が生成するが,酸素処理では酸化銅(II)(CuO)が生成される可能性もある。酸化銅(II)
の溶解度は,酸化銅(I)の溶解度より大きいことから,復水器,給水加熱器などに銅合金材料を使用
している場合は,酸化銅(II)の溶解度が最小となるpH 8.5程度に保持する必要がある。
これらのことから,酸素処理のpHは,揮発性物質処理におけるpHの範囲並びに酸素が十分に供給
されない復水器出口及びドレン系統での鉄の溶出を抑制するため系統水を高いpHで運転しているプ
ラントの実証試験[30]の結果を考慮し,A.2.4.2 a)から,鉄イオン濃度が最も低くなる値を上限値に設
定する。
なお,ドレン系統の鉄濃度の高い一部のプラントでは,給水pHを9.4程度まで上昇させて鉄の溶出
を抑制しているが,系統に銅合金を使用していなければ,特に問題にはならない。ただし,高いpH域
での給水管理は,復水脱塩装置の再生頻度を増加させ,更に復水器に銅合金を使用している場合はア
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ンモニアアタックの原因となるため,プラントの水質状況を勘案しながら,上限値をできるだけ低い
値に調節することが望ましい。復水脱塩装置の再生頻度低減のためのアンモニア形(NH4-OH形)運
用の採用については,10.1.2 c) 2)又は12.2 c)を参照。
ドレン系統の鉄の溶出制御に特化した対策としては,ドレン系へのアンモニア注入,低合金鋼又は
ステンレス鋼の採用などがある。
b) 酸電気伝導率 酸素処理で生成する鉄系酸化物は,水側からヘマタイト,マグネタイトの二層構造を
形成し,鉄系材料に対する安定した腐食抑制効果がある。ただし,これは給水及びボイラ水中に不純
物をほとんど含まない高純度の水の場合であり,塩化物イオン,硫酸イオンなどの陰イオンが増加す
ると,a)に記載した保護皮膜は破壊し,腐食が進行する。このため,揮発性物質処理(還元形)[AVT(R)]
の管理値よりも低い値(0.02 mS/m以下)に設定する。
c) 溶存酸素 酸素処理で鉄系材料の表面に生成する金属酸化物は,b)で記載したように,水側からヘマ
タイト,マグネタイトの二層構造となる。溶存酸素の共存下で,ヘマタイトの微細粒子が多孔性のマ
グネタイトの空孔を埋めること,及び生成したマグネタイトの結晶径も揮発性物質処理に比べて小さ
いことから,極めて安定な保護皮膜として材料の腐食を抑制する。また,低温側で最上層部の水酸化
鉄(III),高温側で生成する酸化鉄(III)の溶解度は,極めて小さいので,各系統の鉄の濃度は減少す
る。また,鉄系材料の表面の緻密な保護皮膜の形成には,溶存酸素20 μg/L200 μg/L程度が必要であ
る。上限値を超過した場合には,直ちに保護皮膜が不安定になるわけではないが,200 μg/L以上存在
し続けると保護皮膜が不安定になりやすく,徐々に腐食性を増す。
この溶存酸素の濃度は,これまでの炭素鋼の腐食に対する微量の溶存酸素による腐食抑制効果の研
究結果,沸騰水形軽水炉(BWR)での実績などから,酸素処理における不動態化に必要な溶存酸素の
下限値は,20 μg/L程度と考えられる。また,実機の給水系での腐食電位の測定結果においても,20
μg/L25 μg/L程度の溶存酸素の濃度でヘマタイトの安定域に移行するという報告がある[37]。酸素処
理へ転換した初期には,ヘマタイトの早期生成のため,上限の200 μg/L付近まで溶存酸素を高めて運
転することが必要であると考えられる。一方,保護皮膜を形成して定常運転が継続した場合には,低
めの値でも保護皮膜を保持することから,溶存酸素の濃度は,管理値の範囲で給水の鉄,銅などの濃
度が最小になるのに適した値とする。
d) 鉄 酸素処理では,各系統の鉄の濃度は,酸化鉄の溶解度の減少に伴い低下する。給水の鉄の濃度は,
揮発性物質処理に比べ50 %以下に抑制可能である。
なお,実機の実績では1 μg/L以下を示している場合がほとんどであることから,鉄の濃度は,でき
るだけ低い値に管理するのが望ましい。
酸素処理における火炉水冷壁管のスケール生成速度は,c)に記載した緻密な皮膜による腐食の抑制,
及び給水系統からの鉄の減少のため,図A.29に示すように揮発性物質処理の1/31/2程度となる[38]。
――――― [JIS B 8223 pdf 75] ―――――
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JIS B 8223:2021の国際規格 ICS 分類一覧
- 27 : エネルギー及び熱伝達工学 > 27.060 : バーナ.ボイラ > 27.060.30 : ボイラ及び熱交換器
JIS B 8223:2021の関連規格と引用規格一覧
- 規格番号
- 規格名称
- JISB0126:2018
- 火力発電用語―ボイラ及び附属装置
- JISB0127:2012
- 火力発電用語―蒸気タービン及び附属装置並びに地熱発電設備
- JISB8224:2016
- ボイラの給水及びボイラ水―試験方法
- JISK0410-3-7:2000
- 水質―サンプリング―第7部:ボイラ施設の水及び蒸気のサンプリングの指針
- JISK0556:1995
- 超純水中の陰イオン試験方法