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図A.29−スケール生成速度[38]
また,揮発性物質処理では,しばしばボイラ系統にマグネタイトの波状スケールによって,圧力損
失が増大する。一方,酸素処理では,一般に波状スケールの生成は少ない。このため,揮発性物質処
理から酸素処理へ変更すると,波状スケールが平滑化し,図A.30に示すように,揮発性物質処理で上
昇した圧力損失が初期の値以下に緩やかに減少する傾向も見られる[38]。
図A.30−圧力損失及び運転時間[38]
e) 銅 平衡条件での水と接触する銅の表面に生成する銅酸化物の溶解度を図A.27に示す。a)で記載した
ように,酸化銅(II)は酸化銅(I)に比べ溶解度が大きいため,酸素処理では,揮発性物質処理と比
較して,給水中の銅の濃度が高い値となる可能性があった。しかし,実機での運用実績ではこの値を
十分満足する結果を示していることから,より低い管理値を設定した。
f) シリカ シリカの給水及びボイラ水中での挙動は,溶存酸素の有無にほとんど影響を受けないため,
揮発性物質処理と同一の基準で管理する。
A.5.5 留意事項
酸素処理の留意事項は,次のとおりである。
a) 酸素処理適用プラントにおけるトラブル事例を図A.31に示す[39]。ただし,酸素処理の導入に当たり,
設備·運用対策を行うことによって,運用の支障となるトラブルはないことが知られている。
――――― [JIS B 8223 pdf 76] ―――――
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図A.31−酸素処理適用プラントにおけるトラブル事例[39]
b) 給水処理に酸素処理法を適用しているプラントでは,近年,酸素処理適用後に,低圧給水加熱器ドレ
ン系統の鉄濃度が上昇する事象が発生し,火炉壁管メタル温度上昇の要因となるパウダースケールが
火炉壁管内面へ生成·付着している幾つかの事例が確認された。
水壁管へのスケール生成は,メタル温度を上昇させ,過熱損傷又は周方向亀裂(エレファントスキ
ン)の原因となり,場合によっては,高温腐食による減肉,クリープ破断などに至る。このため,水
質及び運転データの管理を着実に行う必要がある。
ボイラへもち込む鉄量を低減する(主に低圧給水加熱器ドレン系統の鉄濃度を低減させる)ための
運用面での対策として,低圧給水加熱器ベント弁を閉止しドレン系統の溶存酸素を確保すること又は,
給水pHを上昇させ系統からの溶出鉄量を低減することが挙げられる。酸素処理法を用いた石炭貫流
ボイラにて低圧給水加熱器ベント弁を閉止し,給水pHを8.9から9.4へ上昇させたことで,低圧給水
加熱器ドレン系統の鉄濃度が1/5に低減されたことが報告されている[40]。
A.6 低濃度水酸化ナトリウム処理
A.6.1 適用ボイラ
次のボイラの圧力区分のボイラ水に適用する。
a) イオン交換水を使用する産業用水管ボイラ : 常用使用圧力3 MPaを超え15 MPa以下
b) 電力事業用循環ボイラ : 常用使用圧力15 MPaを超え16.5 MPa以下
c) 電力事業用排熱回収ボイラ : 常用使用圧力3 MPa以下,及び3 MPaを超え16.5 MPa以下
低濃度水酸化ナトリウム処理は,海外で実用化され十分な使用実績をもつが,国内では使用実績がない
ため,低濃度水酸化ナトリウム処理の適用に当たっての留意点などについて記載する。
A.6.2 処理方法
低濃度水酸化ナトリウム処理は,ボイラ水の注入薬品をりん酸ナトリウムに替えて,水酸化ナトリウム
(NaOH)で調整する処理方式である。また,注入点は,りん酸塩処理の場合とほぼ同様で,一般に,ドラ
ム入口(降水管)である。
この低濃度水酸化ナトリウム処理では,水酸化ナトリウムの濃度を,0.4 mg/L4 mg/L,すなわち,pH
――――― [JIS B 8223 pdf 77] ―――――
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910の範囲を中心にして調整する。NaOHは強電解質であり,水酸化物イオン(OH−)として解離しやす
い。このため,常温下において,アンモニア(NH3)又はりん酸三ナトリウム(Na3PO4)よりも,pH上昇
効果が大きい。また,アンモニアと比較した場合,高温水中においても解離しやすいこと,気相側への分
配比が小さいことなどから,高温水中においてもpHは低下しにくく,ボイラ水のpHはアルカリ性を保持
しやすい。
一方,水酸化ナトリウム及びりん酸ナトリウム塩の濃度とpH(25 ℃)との関係を図A.32に示す[9][41]。
図A.32−水酸化ナトリウム及びりん酸ナトリウム塩の濃度とpH(25 ℃)との関係
この図によって,水酸化ナトリウムの場合には,りん酸三ナトリウムの場合と比較して,例えば,pH 9
10程度の弱アルカリに保持するために必要な濃度は,数分の一程度でよいことが分かる。このことは,
水質調整の面からは,有利な点の一つと考えられる。
A.6.3 処理の原理
A.6.2に記載したように,低濃度水酸化ナトリウム処理では,水酸化ナトリウムの濃度を,0.4 mg/L4
mg/L(pH 910)程度に保持し,また,溶存酸素については低く管理する。低濃度水酸化ナトリウム処理
は,十分に脱気した,弱アルカリ性の高温水環境下において,式(A.13)に示すように,炭素鋼の表面に安定
なマグネタイトから成る保護皮膜を形成して,腐食を抑制する水処理方式である。
なお,低濃度水酸化ナトリウム処理の腐食抑制作用は,りん酸塩処理及び揮発性物質処理(還元形)
[AVT(R)]と基本的に同様である。
3Fe+4H2O → Fe3O4+4H2 (A.13)
低濃度水酸化ナトリウム処理の主な特徴のうち,長所は次のとおりである。
− りん酸塩の場合とは異なり,高温水中で水酸化ナトリウムの溶解度が高く,りん酸塩処理時にしばし
ば経験する,いわゆるハイドアウト現象を生じにくい。
− このハイドアウトによる水質変化を生じにくく,また,強電解質でpH上昇効果が大きいことなどか
ら,pHの管理が容易になる。
− 薬剤中にりん(P)成分を含まないため,りん酸塩処理の場合よりも,環境に対する負荷が少ない。
これらの特徴のうち,主なものについて,次に詳細に記載する。
――――― [JIS B 8223 pdf 78] ―――――
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a) 溶解度の温度特性 水酸化ナトリウムの水に対する溶解度を,表A.3に示す[42]。この表から明らか
なように,水酸化ナトリウムは,100 ℃300 ℃の温度領域において,温度上昇とともに溶解度が増
加する性質をもっている。このため,りん酸塩処理時にしばしば経験する,負荷上昇に伴ってりん酸
イオンの濃度が減少する,いわゆるハイドアウト現象は,この水処理では生じにくいものと判断可能
である。
表A.3−水酸化ナトリウムの水に対する溶解度の温度による変化(抜粋値)[42]
温度(℃) 25 50 100 150 200 250 300
溶解度(g/100 g H2O)113 146 337 418 554 920 2 841
b) 気液分配特性 りん酸三ナトリウム,水酸化ナトリウムなどの無機物質における液相中の濃度に対す
る蒸気中の濃度の比(気液分配比)を,ドラム圧力の関数で示した気液分配特性のデータの一例を,
図A.33に示す[43]。
この図から,各物質の気液分配比は,ドラム圧力(温度)との関係で決まることとなり,高温,高
圧下になるほど大きな値となり,蒸気中に移行しやすいこと,また,各物質間の差異が少なくなるこ
とを示している。また,このほか,水酸化ナトリウムは,350 ℃から臨界温度付近で気液分配比が急
激に増大することから,この温度領域では水酸化ナトリウムが蒸気中に移行しやすくなることを示し
ている[44]。
図A.33−りん酸三ナトリウム,水酸化ナトリウムなどの無機物質のドラム圧力と気液分配比との関係
(Ray diagram)[43]
一方,図A.33においては,水酸化ナトリウム及びりん酸三ナトリウムの両者の比較が可能である。
――――― [JIS B 8223 pdf 79] ―――――
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この場合には,例えば,12.16 MPa(120 atm)程度の圧力条件下では,りん酸三ナトリウムの気液分配
比は約3×10−5であるのに対して,水酸化ナトリウムの気液分配比は約1×10−4程度であり,数倍程
度高いことが分かる。しかし,図A.32に示したように,同一pHの水中では,りん酸三ナトリウムの
方が水酸化ナトリウムより数倍濃度が高い。
したがって,蒸気中に存在するナトリウム濃度で比較した場合には,両者の比較では,ほぼ同程度
となるものと考えられる。また,濃度も低いことが推定される。ただし,A.6.5 a)に記載するように,
りん酸三ナトリウムと比較して水酸化ナトリウムは腐食性が大きい。このことから,蒸気系統に移行
した場合の腐食への影響を低減するため,低濃度水酸化ナトリウム処理においては,りん酸塩処理の
場合と比較して,ナトリウム成分のキャリオーバには,より留意する必要がある。
なお,ボイラ水中の化学成分の化学的キャリオーバは,一般にドラム圧力16 MPa以上で顕著にな
ることから,低濃度水酸化ナトリウム処理の場合に,ドラム圧力が17 MPaまでに限るという報告が
ある[45]。したがって,低濃度水酸化ナトリウム処理では,適用可能なボイラの常用使用圧力を16.5
MPa以下としている。
c) 塩化物イオンに対する腐食抑制効果 低濃度水酸化ナトリウム処理のその他の特徴の一つは,塩化物
イオンに対する腐食抑制効果の度合いである。例えば,海水漏えい時においては,塩化マグネシウム
の加水分解によって生じた酸性の塩化物を水酸化ナトリウムで中和するため,塩化物イオンに起因す
る酸腐食に対する許容度をもつ。
海水漏えい時には,A.3.3.3の式(A.10)で示したように,塩化マグネシウムの加水分解反応によって,
ボイラ水のpHが低下し,腐食が促進されやすくなる。
この場合に,A.3.3.3で記載したとおり,りん酸塩処理の場合には,りん酸三ナトリウム(Na3PO4)
の加水分解によって生成するNa2HPO4が,式(A.11)で示した中和反応を生じ,酸性成分の影響を抑制
するため,ボイラ水中のNaOHの濃度変化は少ない。
これに対して,低濃度水酸化ナトリウム処理の場合には,ボイラ水中に存在する水酸化ナトリウム
によって,次の式(A.14)の中和反応によって,pHの低下を一定程度防止可能である。
NaOH+HCl → NaCl+H2O (A.14)
しかし,HClを中和するために,当量のNaOHを消費することで,ボイラ水の緩衝作用は,りん酸
塩処理の場合よりも低くなる。
一方,AVT(R)の場合には,同様な反応によって,強酸−弱塩基から成る塩(塩化アンモニウム)を
生成することになるが,中和反応は期待できない[46]ことから,緩衝作用は乏しい。
このように,低濃度水酸化ナトリウム処理は,AVT(R)との比較では優位であるが,一方,りん酸塩
処理と比較すると,pHの変動又は硬度成分に対する緩衝作用は,低い。
A.6.4 管理項目
低濃度水酸化ナトリウム処理の管理項目は,次のとおりである。
a) pH 低濃度水酸化ナトリウム処理の適用時においては,アルカリ濃縮による腐食を防止することが不
可欠である。アルカリ腐食は高温·高圧になるほど,その危険性が高まることから,いずれの圧力区
分においても,pHが10以下となるように設定している。特に,常用使用圧力が10 MPaを超える産
業用循環ボイラ,15 MPaを超える電力事業用循環ボイラ,及び排熱回収ボイラについては,この点を
考慮して,pH 9.19.5の範囲に設定している。一方,常用使用圧力10 MPa以下の圧力区分の産業用
循環ボイラ及び排熱回収ボイラについては,いずれの圧力区分においても同一の値として,pH 9.4
10.0の範囲に設定している。
b) 電気伝導率 電気伝導率については,ボイラ水のpHの上限値及びナトリウム濃度の上限値に相当す
――――― [JIS B 8223 pdf 80] ―――――
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JIS B 8223:2021の国際規格 ICS 分類一覧
- 27 : エネルギー及び熱伝達工学 > 27.060 : バーナ.ボイラ > 27.060.30 : ボイラ及び熱交換器
JIS B 8223:2021の関連規格と引用規格一覧
- 規格番号
- 規格名称
- JISB0126:2018
- 火力発電用語―ボイラ及び附属装置
- JISB0127:2012
- 火力発電用語―蒸気タービン及び附属装置並びに地熱発電設備
- JISB8224:2016
- ボイラの給水及びボイラ水―試験方法
- JISK0410-3-7:2000
- 水質―サンプリング―第7部:ボイラ施設の水及び蒸気のサンプリングの指針
- JISK0556:1995
- 超純水中の陰イオン試験方法