JIS G 0558:2020 鋼の脱炭層深さ測定方法 | ページ 2

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はJIS Z 2251に従ったヌープ硬さ試験を行って,脱炭層深さ(全脱炭層深さ及び実用脱炭層深さ)を
測定する。この方法は,主として焼入状態及び焼入焼戻し状態のものに適用する。過共析鋼では,表
層が共析成分まで脱炭しても生地と硬さがほとんど変わらないので,硬さ試験による測定方法よりも
顕微鏡による測定方法の方がよい。
c) 炭素含有率による測定方法 試験片の切断面若しくは研磨面,又は機械加工によって採取された切粉
について炭素分析を行って,脱炭層深さ(全脱炭層深さ)を測定する。この方法は,全ての供試材の
状態に適用してよい。

5 試験片

  試験片は,通常,試験の対象となる鋼材そのものから採取する。ただし,試験の対象となる鋼材自体か
らの採取が難しい場合は,鋼材と同一条件で処理した同一鋼種の鋼材を用いてもよい。試験片の個数及び
採取位置は,材料規格による。規定のない場合は,受渡当事者間の協定による。

6 測定方法

6.1 顕微鏡による測定方法

6.1.1 一般事項
特に指定がない限り,この方法は,炭素含有率によってミクロ組織変化が生じるような場合にだけ適用
する。特に焼なまし又は焼ならし組織(フェライト·パーライト組織)を示す鋼材に有効である(附属書
A参照)。
なお,組織変化の判定が難しい焼入れ又は焼入焼戻しの組織をもつ鋼材でも,組織変化が明瞭な場合に
は,適用してよい。
6.1.2 試験片調製
供試材を圧延方向に垂直に切断し,その切断面を研磨仕上げして試験片の被検面とする。圧延方向に垂
直以外に切断する供試材の被検面は,受渡当事者間の協定による。
なお,小さな試験片(4 cm2未満の断面積)の場合は,できる限り試験片の全外周を測定する。大きな試
験片の場合は,試験片が対象とする鋼材を代表するように幾つかの部分から採取する。この場合,指定が
ない限り,異常な脱炭を示す可能性のあるすみ角部を含まないようにする。また,試験片の数及び位置に
ついては,受渡当事者間の協定によって決める。
切断又は研磨の際,被検面の端部が丸くならないように,十分注意する。被検面の端部の丸み防止には,
合成樹脂などに埋め込むか,留め金などで押さえて研磨するのがよい。全自動又は半自動試験片調製装置
を使用するのがよい。
体積分率1.5 %4 %ナイタル1)又は体積分率2 %5 %ピクリン酸アルコール溶液によって,被検面を鋼
の組織が現れるように腐食する。
注1) 指定された体積分率の硝酸(質量分率60 %62 %)を含むエタノール溶液。
6.1.3 測定方法
通常,炭素含有率の減少は,次によって決定する。
− 亜共析鋼(フェライト·パーライト組織) : パーライトの減少から求める。
− 共析鋼(パーライト組織) : パーライトの減少から求める。
− 過共析鋼(パーライト·初析セメンタイト組織) : パーライト又は初析セメンタイトの減少から求める。
− 分散炭化物組織(フェライト素地に炭化物が分散した組織) : フェライト素地中の炭化物の減少から求

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める。
測定方法は,次による。
a) 脱炭層深さは,読取り寸法のある接眼鏡を用いるか,スクリーングラスに投影するか又は写真を用い
るかのいずれかの方法で測定する。測定倍率は,特に規定のない場合,脱炭層深さによって,適切な
倍率を選定する。通常の標準組織状態では100倍がよく,100倍では判定し難い組織(例えば,球状
化焼なまし組織など)では200倍500倍を使用するのがよい。
b) 脱炭層深さは,被検面の中で,脱炭層帯が最も深く一様に存在している位置を測定する。ただし,脱
炭層深さが極端に深い部分は,受渡当事者間の協定によって除外できる。
c) 脱炭層が明瞭に判別できない場合は,受渡当事者間の協定によって,脱炭層深さに変化を与えない雰
囲気中で焼なまし又は焼ならし処理を行ってもよい。
焼入焼戻し後の組織状態では,脱炭層の判定が非常に困難なので,焼なまし又は焼ならしを行い,
標準組織の状態で判定することが望ましい。
球状化焼なましを行う鋼種(軸受鋼,工具鋼など)で,球状化焼なまし状態で判定が困難な場合は,
焼なまし又は焼ならしを行い,標準組織の状態で判定することが望ましい。標準組織とは,通常,焼
ならしで得られるフェライト·パーライト組織,又はパーライト·初析セメンタイト組織で,組織変
化によって脱炭層の測定が容易な組織をいう。

6.2 硬さ試験による測定方法

6.2.1 一般事項
測定は,ビッカース硬さ試験又はヌープ硬さ試験によって行う。二つの方法はいずれも,供試材表面に
垂直な直線又は斜めの直線に沿って,供試材の断面の硬さの変化を測定する。
なお,この方法は,焼入焼戻し又は他の熱処理を施した亜共析鋼及び顕微鏡による測定方法では,脱炭
層深さが明瞭に判別できない,焼入れ処理を行った鋼材に適用する。
6.2.2 試験片調製
供試材を表面に垂直に切断し,その切断面を研磨仕上げして試験片の被検面とする。切断又は研磨する
場合は,被検面の硬さに影響を及ぼさないように,又は端部が丸くならないように,十分注意する。
なお,試験片調製時の留意点は,6.1.2による。
6.2.3 測定方法
6.2.3.1 硬さ測定方法
研磨のままの被検面についてビッカース硬さ試験又はヌープ硬さ試験を行い,表面から生地の硬さが得
られる位置又は指定された硬さが得られる位置までの硬さ推移曲線を作成する。鋼種,生地の硬さ,脱炭
層深さの程度などに応じて,ビッカース硬さ試験の試験力は,0.98 N9.8 Nの中から選択し,ヌープ硬さ
に対しては,適切な範囲のものから選択する。
測定は,直角測定法(図2)又は斜め測定法(図3)による。
直角測定法は,脱炭層深さが大きい場合に,斜め測定法は,小さい場合に用いるとよい。直角測定法の
場合,直角一列法でなく,直角千鳥法を採用すれば測定間隔を更に細かくすることができる。いずれの場
合も,表面からの距離を,測微顕微鏡又はマイクロメータのついた支持台その他適切な装置及び方法によ
って正確に測定することが必要である。

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注記 破線は測定線を示す。 注記 破線は測定線を示す。
図2−直角測定法 図3−斜め測定法
6.2.3.2 硬さ推移曲線の作成
硬さ推移曲線の作成は,次による。
a) 被検面の測定する位置について,その表面に対し垂直な直線又は斜めの直線に沿って順次ビッカース
硬さ又はヌープ硬さを測定し,硬さ推移曲線を作る。
b) ビッカース硬さ試験による硬さ推移曲線を作る場合の測定点の表面からの間隔は,通常,0.1 mm以下
とする。その場合,隣り合うくぼみの中心の間隔は,JIS Z 2244-1又はJIS Z 2251の規定を満たさな
ければならない。
c) ただし,必要のある場合は,表面の1.5 mmの範囲内に2点5点をとり,それぞれの点から表面に垂
直な直線上で硬さ測定を行い,1本の硬さ推移曲線を作ってもよい(図4参照)。
単位 mm
l2−l1,l3−l2,l4−l3··は,いずれも0.1以下とする。
図4−硬さ測定点の配置(直角千鳥法)
6.2.3.3 脱炭層深さの求め方
硬さ推移曲線からの脱炭層深さの求め方は,次による。
a) 全脱炭層深さは,1本の硬さ推移曲線上で表面から生地の硬さが得られる位置までの距離で表す。
b) 実用脱炭層深さは,1本の硬さ推移曲線上で表面から指定された硬さが得られる位置までの距離で表
す。ただし,推移曲線によらず,指定した硬さが規定した深さの位置で得られるかどうかによって判
定する場合もある。
なお,実用脱炭層深さで鋼材の合否を判定する場合には,受渡当事者間の事前の協定による。

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受渡当事者間の協定によって,できるだけ離れた場所で作成された最低2本の硬さ推移曲線から得られ
た値の平均値として,全脱炭層深さ及び実用脱炭層深さを求めてもよい。ただし,硬さ試験による測定方
法で脱炭層深さが判定できない場合は,受渡当事者間の協定によって,脱炭層深さに変化を与えない条件
で焼入れ処理を行ってもよい。

6.3 炭素含有率による測定方法

6.3.1 一般事項
6.3.26.3.6に規定する方法によって,表面から垂直方向の炭素含有量変化を決定する。これらの方法は,
鋼の組織に関わりなく適用できる。
6.3.2 化学分析
6.3.2.1 一般事項
化学分析は,単純な形状(円筒状又は平面で囲まれた多面体)をもち,かつ,機械加工に適した大きさ
の製品で,表面全体が脱炭されている場合だけに適用する。
6.3.2.2 試験片の選択及び試験
汚染の影響がないようにしながら,試験片の表面と平行に乾式機械加工2)で0.1 mm厚ごとの層を連続的
に採取する。酸化物層は,あらかじめ取り除く3)。
鋼材が硬くて切削し難い場合は,受渡当事者間の合意によって,脱炭層深さに変化を与えない雰囲気を
用いて,適切な温度で熱処理を行ってから切削してもよい。
注2) 切粉試料の炭素含有率への影響がないように,バイト刃先の著しい摩耗及び脱落に十分注意す
る必要がある。
3) 酸洗が一般的な方法である。
各試料採取ごとに,JIS G 1211-3又はJIS G 1211-4に従って,炭素含有率を分析する。
6.3.3 発光分光分析(Spectrographic analysis)
6.3.3.1 一般事項
発光分光分析は,十分な大きさをもち,かつ,平たん(坦)な表面の製品だけに適用する。
炭素の定量分析は,JIS G 1253を適用し,その分析方法は受渡当事者間で協定した方法によって行う4)。
注4) 対応国際規格では,具体的な分析方法について特に規定していないが,測定時の混乱を避ける
ためJISの引用を追加している。
6.3.3.2 試験片の選択及び試験
深さ0.1 mmごとに連続的に研削作業して,平面の被検面とする。各深さの炭素含有量を放電が重なら
ないようにして,発光分光分析によって,測定する。
6.3.4 結果の解釈(化学分析法及び発光分光分析法)
6.3.2及び6.3.3に規定する方法によって,表面から炭素含有量が規定された最小値になった位置までの
距離を測定することによって,実用脱炭層深さを決定してよい。また,全脱炭層深さは,表面から炭素含
有量が一定となる位置(例えば,製品中心部)までの距離を測定して決めることができる。ただし,分析
値の許容変動を考慮して,実際には,測定した炭素含有率と生地の炭素含有率との差が,式(1)に規定する
最大許容偏差以下になる位置までの距離とする。
A=0.05×B (1)
ここに, A : 最大許容偏差(質量分率 %)。Aの最小値は,0.03とする。
B : 生地の炭素含有率(質量分率 %)

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6.3.5 電子プローブマイクロ分析(Electron probe microanalysis : EPMA)
6.3.5.1 一般事項
この方法は,JIS K 0189によって行う。
この方法は,特に単層組織で,硬化又は調質された鋼材に適している。複層構造の製品に対して,炭素
含有量変化の解釈が難しくなる場合に,適用してもよい。
6.3.5.2 試験片調製
炭素含有量の測定を円滑にするためには,エッチングしてはならないが,試験片調製は,顕微鏡による
測定方法(6.1参照)と同様にしなければならない。
6.3.5.3 測定
被検面に垂直方向にEPMAの線分析又は点分析を連続的に行って,炭素含有量を求める。脱炭層の表面
から生地の炭素含有率が得られる位置までの炭素含有率推移曲線を作成する。脱炭層深さは,この推移曲
線から決定する。
全脱炭層深さは,表面から炭素含有量が一定となる位置(例えば,製品中心部)までの距離を測定して
決めることができる。ただし,分析値の許容変動を考慮して,実際には,測定した炭素含有率と生地の炭
素含有率との差が,式(1)に規定する最大許容偏差以下になる位置までの距離とする。
全脱炭層深さは,受渡当事者間の協定によって,少なくとも4本の推移曲線から得られた値の平均値と
してもよい。
6.3.6 グロー放電発光分光分析(Glow discharge optical emission spectrometry : GD-OES)
6.3.6.1 一般事項
この方法は,JIS K 0144によって行う。
この方法は,適切な大きさの平面表面の製品で,脱炭層深さが0.1 mm未満の製品だけに適用する。試
験片の大きさは,使用するグロー放電源に適したものであることが望ましい。通常,20 mm100 mm(直
径,幅及び/又は長さ)の円形又は長方形が適している。
6.3.6.2 試験片調製
油分又は付着物を除去するために,適切な溶剤(高純度アセトン又はエタノール)で試験片表面を洗浄
する。不活性ガス(アルゴン又は窒素)又は清浄で油分を含まない圧縮空気を吹き付けて,表面を乾かす。
その際に,送風チューブが試験片表面に触れないようにする。表面が湿っている場合は,油分又は付着物
を除去しやすいようにするため,湿らせた柔らかくて糸くずが出ないような布又は紙で,軽く拭き取って
もよい。拭き取った後,溶剤で流し,上記の方法で乾かす。
6.3.6.3 測定
アルゴンイオン流によって,試験片表面をスパッタリングする。スパッタされた原子は,低圧プラズマ
中で励起され,その結果生じる発光を試験片の成分定量に用いる。脱炭された表面から製品中心部の炭素
含有量を示す位置までの,深さ方向の炭素含有率推移曲線を作る。脱炭層深さは,この推移曲線から決定
する。
全脱炭層深さは,表面から炭素含有量が一定となる位置(例えば,製品中心部)までの距離を測定して
決めてよい。ただし,分析値の許容変動を考慮して,実際には,測定した炭素含有率と生地の炭素含有率
との差が,式(1)に規定する最大許容偏差以下になる位置までの距離とする。
全脱炭層深さは,受渡当事者間の協定によって,少なくとも2本の推移曲線から得られた値の平均値と
してもよい。

――――― [JIS G 0558 pdf 10] ―――――

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