JIS K 0181:2021 表面化学分析―水溶液の全反射蛍光X線分析方法 | ページ 3

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K 0181 : 2021 (ISO 20289 : 2018)
検量線(附属書B)において最も濃度の高い試料の残留質量を推定することによって算出される。

10 測定手順

10.1 一般事項

  測定手順は,ISO/TS 18507:2015の箇条4(原理)及び箇条5(装置)によるほか,10.210.6による。

10.2 装置校正

  装置校正によって,ある装置で同定が可能で,かつ,測定条件の設定が可能な全ての元素の相対感度値
が提供される。装置の校正は,熟練した測定者,又はTXRF装置の製造業者が行わなければならない。全
反射条件下では,直線校正範囲において,絶対感度が実験的に導出される。ISO/TS 18507:2015の8.2.4(相
対感度の実験的導出)に規定の手順によれば,感度は,各元素の検量線の傾きに対応する。内部標準とし
て選択された元素に対する相対感度は,二つの感度の比として得られる。
装置の校正は,少なくとも年1回,定期的に行うのがよい。

10.3 検出限界

  装置の検出限界(DL)は,元素,励起源,及び計測条件によって異なる。DL は,式(1)   [4]を使用して,
IUPAC 規則に従って求める。
C
DL 3 (1)
(2Nback )
Nnet
ここで, Nnet : 分析元素の測定強度(以下,グロス強度という。)からバ
ックグラウンド強度を減じた強度(以下,ネット強度とい
う。)
C : 試料乾燥痕中の元素の濃度
Nback : バックグラウンド強度
注記 TXRF装置の製造業者によって提供されるか,又は校正中に決定される検出限界は,実験条件下
で計算されるものとは異なる場合がある。検出限界に影響を与えるバックグラウンド強度は,試
料組成に依存して変化する可能性がある。

10.4 TXRF測定

  全ての滴下乾燥試料は,ISO/TS 18507:2015の箇条5に規定したTXRF装置を用いて,同じ装置設定及
び測定条件で計測しなければならない。全反射条件の装置設定の適合性を確認することが望ましい。視射
角は,試料基板の臨界角の約70 % にするのが望ましい。
積算時間は,各測定について600秒以上とする。要求する精度を達成するために必要なバックグラウン
ドに対する信号の比を得るために,より長い時間を選択するのがよい。
それぞれの測定用試料の乾燥痕から発生した蛍光X線を測定し,スペクトルを取得する。

10.5 スペクトルフィッティング

  それぞれのスペクトルをフィッティングの手順に従って処理し,積分強度を決定する。フィッティング
手順及びパラメータを指定し,商用ソフトウェア及びフリーソフトウェアが利用可能である。スペクトル
フィッティングの実施例を次に示す。

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実施例1 数値処理手順 : 測定したデジタル量を数値処理によって平滑化する。次に,ベースライン以
下の面積を差し引いて蛍光X線積分強度を求める。
実施例2 フィッティング手順 : 測定されたデジタル量に最も適合するガウス関数を求める。次に,ガ
ウス関数のピーク高さ及び半値幅から,カウント数の積分強度を求める。

10.6 盲検試料

  試料調製中の試薬の偶発的な汚染によって生じる分析妨害要素,及びTXRF測定における結果の誤解釈
を排除するために,盲検試料を測定することを推奨する。

11 定性分析及び定量分析

11.1 元素の同定

  DLよりも高い濃度をもつ元素だけを同定することが可能である。元素同定は,乾燥痕から発生した蛍
光X線のエネルギー(スペクトル中のピークの位置)を,各元素の蛍光X線の一覧表を比較することによ
って行う。このためにはデータベースの利用が必須である(例えば,参考文献[5]を参照)。手動及び/又は
ソフトウェア手順を適用することが可能である。K線とL線との間に存在する干渉を確認することを推奨
する。
最初に,元の水溶液試料中に存在しない内部標準元素を選択するために,滴下乾燥試料の組成を調べな
ければならない。内部標準の蛍光X線は,試料中に存在する重要元素の蛍光X線と干渉してはならない。

11.2 元素の定量化

  各スペクトルについて,各元素iの濃度は,式(2)を用いて計算される。
CIS Ni SIS
Ci (2)
NIS Si
ここで, Ci : 元素iの濃度
Ni : 元素iの蛍光X線強度
Si : 元素iの相対感度
CIS : 内部標準元素の濃度
NIS : 内部標準元素の蛍光X線強度
SIS : 内部標準元素の相対感度
定量結果を,式(3)によって求めた各元素の定量限界(LOQ)と比較する。
C
LOQ 10 (3)
(2Nback )
Nnet
LOQよりも高い濃度の元素だけ,11.3に示す計算を行う。

11.3 計算

  定量後,最終濃度を得るために,同じ試験調製試料の繰返し測定結果の平均値を求める。
ブランク試料の濃度を差し引くのが望ましい。
内部標準添加による希釈を考慮する。

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なお,他の希釈又は予備濃縮を行った場合,適切な係数で定量値を補正しなければならない。

11.4 測定の不確かさ

  拡張不確かさの値を得るためには,測定不確かさへの全ての寄与を,“測定の不確かさのガイド”に従っ
て計算しなければならない。拡張不確かさ算出の一般的な事例を,附属書Aに示す。測定手法の不確かさ
は,ラボラトリの併行精度試験によって得られた結果に基づいて推定するのがよい(箇条12参照)。拡張
不確かさと測定手法の不確かさは同等でなければならず,そうでなければ,より悪い(より高い)数値を
使用し,誤差の主な原因を理解するための調査を開始しなけばならない。
測定結果が不確かさのガイドラインの限界値に従わなければならない場合,ガイドラインの限界値と比
較して,不確かさの評価を優先しなければならない。

12 品質管理

  外部から入手した適切な品質管理試料を年1回以上分析することによって,定期的に装置校正を確認す
る。認証標準物質又は技能試験の試料を使用する。リファレンスシートが示す信頼範囲,又は技能試験の
許容範囲内にない場合には,是正措置を講じなければならない。分析を終了し,問題を是正し,装置を個
別の元素ごとに再校正した後,精度管理手順を繰り返す。
試料調製は,TXRF分析結果に強い影響を与え,その分析方法の不確かさを支配する場合がある。この
分析方法を使う前に,ラボラトリが,定量しようとしている全ての元素に対して,また認証標準物質の測
定及び試験所間の技能試験への参加を規定しているJIS Q 17025に適切に整合して,試料調製を行うこと
ができることを確認しておくことを推奨する。

13 精度及び精確さ

  精度に対する幾つかの寄与を同定することが可能である。ラボラトリの最良の併行精度を推定するため
に,検量線範囲の中央の濃度で,内部標準元素とともに測定対象元素を含む多元素標準液から少なくとも
三つの滴下乾燥試料を分析することを推奨する。この場合,次の二つの主要な寄与を区別することが可能
である。
a) 液滴乾燥痕の位置に起因する分析装置の寄与
b) 試料調製手順による液滴乾燥痕に起因する寄与
追加の重要な寄与は,内部標準の添加の手順によるものであり,これは試料調製の具体的な条件に依存
する。この寄与は,内部標準元素を最初に含まない,同じ試料の異なった試料溶液を測定することによっ
て推定しなければならない。
全ての寄与を,品質管理の間に評価することを推奨する。

14 試験報告書

  試験報告書には,試料調製及び計測手順の詳細を記載することが望ましい。試験報告書には参考資料の
提供が必要で,特に次の事項を含めなければならない。
a) 水溶液試料及び元素分析の目的の明確な同定

――――― [ pdf 13] ―――――

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b) 装置及び測定設定の記載
1) X線源の記載
1.1) 例えば,回転対陰極型W管,又はMo封入管
1.2) 励起,例えば,W-LII-MIV,又はMo Kα
1.3) 印加電圧,例えば,30 kV,又は50 kV
1.4) 印加電流,例えば,200 mA,10 mA又は0.750 mA
2) 視射角,例えば,1.8 mrad(0.10°),又は0.9 mrad(0.05°)
3) 積算時間,例えば,600 s,又は1 000 s
c) 装置校正 : 対象となる全ての元素に対する測定条件におけるDL及びLOQ
d) 精度及び精確さ
1) 対象となる全ての元素についての品質管理結果(箇条12)(例えば,B.5参照)
2) 対象となる全ての元素についての精度試験結果(箇条13)(例えば,B.6参照)
e) 定量法 : 内部標準元素及び濃度,例えば,内部標準Ga,濃度0.1 mg/L
f) 試験実施日及び場所
g) “平均±拡張不確かさ”として表した結果

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附属書A
(参考)
TXRF測定における不確かさ
A.1 一般
TXRF測定の不確かさには,主として試料調製による不確かさ及び測定装置[6]による不確かさの二つの
要因があるため,これらを考慮するのがよい。
TXRF分析は,内部標準及び試料の調製,滴下乾燥試料へのX線照射,X線スペクトルのデータ解析及
びピーク分離(ネット強度及び元素濃度の決定)といった多くの作業工程で行われる。これらの各工程が
全ての不確かさに影響を及ぼす。不確かさは,分析元素のカウント数が寄与するだけでなく,測定元素と
内部標準元素の不均質性が乾燥痕試料の作製再現性に及ぼす影響,また測定元素と内部標準元素の相対感
度との影響を考慮するのが望ましい。実際には,不確かさは,試料採取,スペクトルの干渉,環境条件及
び試験器具(天びん,全量ピペット[7]など)の他の要因が加わる可能性がある。
内部標準は,不確かさ[8]に大きな影響を及ぼす。試料と均一に混合した場合,不確かさが低下し,精度
が向上する。
同じ濃度の試料におけるカウントのばらつきは,分析試料の表面又は乾燥痕の不均質性に起因する。元
素濃度の少ない試料では,照射時間を長くすることによって不確かさを低減することが可能である。
不確かさの推定工程を示す[6]。測定量の特定では,何を測定するかを示し,また,測定量の値をそれの
基になっているパラメータに関連付ける定量的表現を示す。不確かさの要因の同定では,不確かさに影響
を及ぼす関連因子の包括的リストの作成を含む。不確かさの因子を特定した後,これらの因子から生じる
不確かさの定量を行う。このプロセスには二つの方法があり,一つは,各因子から生じる不確かさを評価
し,それを合成する方法である。他の一つは,方法性能データを用いて,これらの因子の一部又は全部か
らの結果に関する不確かさに対する合成不確かさを直接決定する方法である。不確かさの寄与は,全て標
準不確かさとして表し,次に合成標準不確かさを計算する。合成標準不確かさに選定した包含係数を乗じ
て拡張不確かさ[9]を求める。
注記 この規格では,対応国際規格の図A.1を不採用とする。
A.2 計算
不確かさの推定工程及びTXRF分析の全ての工程に基づき,不確かさを計算するのがよい。
A.3 内部標準濃度の不確かさ
内部標準の濃度(CIS)に関連する不確かさは,認証濃度[CIS±a]で報告された信頼区間から評価可能
である。内部標準の濃度が三角分布をもつ場合,不確かさuは,式(A.1)に従って計算される。
a
uCIS (A.1)
6

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JIS K 0181:2021の引用国際規格 ISO 一覧

  • ISO 20289:2018(IDT)

JIS K 0181:2021の国際規格 ICS 分類一覧

JIS K 0181:2021の関連規格と引用規格一覧