JIS B 9938:2019 油圧―難燃性作動油―使用指針 | ページ 2

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4.4 高温の作動油

  適切に設計された油圧システムにおいては,ポンプ入口での作動油の温度は,通常,50 ℃を超えないこ
とが望ましい。高い温度での作動油の使用は,危険が増長することを十分に考慮しなければならない。そ
の場合,高温での使用について,作動油供給業者との間で文書による合意をすることが望ましい。高温で
の作動油の使用においては,流体の状態及び特性をより頻繁に監視することが望ましい。
高温での使用は,作動油の粘性の低下につながり,漏れ量の大幅な増加を引き起こし,システムの効率
を悪化させる。さらに,含水系難燃性作動油を高温で使用した場合,水分の蒸発によって難燃性が低下し,
かつ,作動油のその他の特性が変化する。
作動油の温度が高くなりすぎたときに作動する自動停止装置を油タンクに設置することがよい。
また,高温での作動油の使用は,化学変化による作動油の劣化を加速する。乳化形作動油が過度な高温
に長時間さらされると,不安定になり,油分を豊富に含んだエマルション(クリーム)と遊離油分とが分
離してくる。その遊離油分は,元の乳化形作動油よりも燃えやすい。低温起動時に作動油を加熱する必要
がある場合,油タンクに設置するヒータの熱容量を制限し,作動油の熱劣化を避けなければならない。

5 難燃性作動油に対する要求特性

5.1 要求特性

5.1.1  一般
難燃性作動油が油圧装置で十分に機能するためには,作動油は,装置の仕様に適した特性を備えていな
ければならない。火災の危険性によって適用可能な作動油が限定される場合,選定した難燃性作動油で適
切な運転ができるように設計された機器を選定しなければならない。
5.1.2 粘性
作動油は,クリアランスの前後に圧力差が存在する場合でも,その間に望ましくない漏れが生じること
のないよう,全ての作動温度範囲において十分な粘性をもっていなければならない。粘度が非常に低い作
動油を使用する場合,その作動油での使用に適合した機器を選定しなければならない。
しかし,作動油は,全ての作動温度範囲において装置内での流動性を維持し,速度及び圧力の急速な変
化にも対応できるような,低い粘性をもっていなければならない。
5.1.3 潤滑性
作動温度範囲で,流体潤滑及び境界潤滑の下で,しゅう動部分を効果的に潤滑するのに十分な粘度及び
油膜強度を維持しなければならない。選定した作動油の粘度が非常に低く,添加剤による潤滑性の確保も
困難な場合は,そのような作動油であっても適切な作動ができるような機器を選択しなければならない。
5.1.4 適合性
作動油は,装置部材に適合し,部材を腐食させないものでなければならない。必要に応じて装置,又は
機器製造業者は,作動油供給業者に指導を受けなければならない。
5.1.5 化学的安定性及び熱安定性
作動油は,安全で確実な装置の稼働を十分に満足するような,熱安定性,酸化安定性及び加水分解安定
性をもっていなければならない。作動油の寿命は,作動油のメンテナンスの有効性及び適切な清浄度管理
だけでなく,液温と密接に関連する。
5.1.6 放気性及び消泡性
作動油は,容易に混入空気を放出し,気泡が直ちに消滅するものでなければならない。

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5.1.7 せん断安定性
作動油は,せん断による顕著な粘度低下を防ぐために,十分なせん断安定性をもっていなければならな
い。

5.2 システム設計に影響を与えるその他の要求特性

5.2.1  一般
システム設計及び作動油選定の際には,次の作動油特性を考慮しなければならない。
5.2.2 ろ過特性
作動油は,装置内で使用される最もろ過精度が高いフィルタでろ過できるものでなければならない。装
置内フィルタのろ過精度は,作動油の種類及び作動油の状態,機器の仕様,要求される機器の寿命及び信
頼性などを考慮し選定する。
5.2.3 密度
ほとんどの難燃性作動油は,鉱物油系作動油よりも密度が高いため,装置内機器の圧力降下の増加を招
いたり,ポンプの吸込みラインに影響があるので装置設計に制限が生じる場合がある。
5.2.4 蒸気圧
難燃性作動油は,鉱物油系よりも蒸気圧が高いものがあり,特に含水性作動油の蒸気圧は,鉱物油系よ
りもはるかに高く,作動油の温度によって変化する。システムの設計,特にポンプ吸込み部周囲では,キ
ャビテーションのリスクを最小限に抑えなければならない。サクション用ストレーナを除き,ポンプ吸込
みラインへのフィルタ設置は避け,理想的にはポンプ入口の圧力を絶対圧力100 kPa(1 bar)以上にする
ことが望ましい。

6 難燃性作動油の特徴及び選択

6.1 一般

6.1.1  組成
難燃性作動油は,基油の化学組成,又は水の含有によって難燃性を得る。
水は容易に入手でき,完全に不燃性であるが,粘度が非常に低く,潤滑性が悪く,極端な温度制限をし
ない限り,壊食,キャビテーション,及び腐食の問題を引き起こす。しかし,純水,又は腐食防止添加剤
の技術によって水を作動油として使用することができる。難燃性が要求される多くの油圧設備では,純水
よりも性能を向上させた配合作動油を使用する。
6.1.2 難燃性作動油の特徴
表1は,ISO 6743-4:1999の表1及びISO 12922:1999の表に適合しており,難燃性作動油の分類及び油
圧システムの稼働温度範囲を示している。難燃性作動油には,HFA,HFB,HFC及びHFDの四つの基本
カテゴリがある。HFA及びHFDには,その化学特性によって下位区分が存在する。
6.1.3 作動油の混合
異なるカテゴリの難燃性作動油を混合してはならない。また,同じカテゴリの作動油であっても異なる
銘柄である場合は,相互の適合性が明確になっている場合を除いて混合は望ましくない。
システム内の作動油を鉱物油から難燃性作動油,又はある難燃性作動油から他の難燃性作動油に変更す
る場合は,特別な予防措置が必要であり,そのような場合は箇条8を適用することが望ましい。

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表1−難燃性作動油の分類及び特徴
分類(カテゴリ) 記号 組成及び特徴
O/W(水中油滴)エマルション形作動油 HFAE 含水率(体積分率)≧95 %a)
稼働温度範囲 : +5 ℃+50 ℃
ケミカルソリューション形作動油 HFAS 含水率(体積分率)≧95 %a)
稼働温度範囲 : +5 ℃+50 ℃
W/O(油中水滴)エマルション形作動油 HFB 一般的には40 %(質量分率)以上の水を含有する
稼働温度範囲 : +5 ℃+50 ℃
水溶性ポリマ溶液形作動油 HFC 一般的にはグリコールとポリグリコールとの混合物に
35 %(質量分率)を超える水を含有する
稼働温度範囲 : −20 ℃+50 ℃
合成作動油(りん酸エステル) HFDR りん酸エステルを基油とする
稼働温度範囲 : −20 ℃+70 ℃[+150 ℃b)]
合成作動油(りん酸エステル以外) HFDU りん酸エステル以外を基油とする
稼働温度範囲 : −20 ℃+70 ℃[+150 ℃b)]
注記1 ケミカルソリューション形作動油は,水及び水に溶ける成分によって構成され,完全に溶け合った状態の
溶液である。
注記2 エマルション形作動油は,油中に水滴が,又は,水中に油滴が分散している状態である。両者が溶け合っ
ているわけではないので,ケミカルソリューション形作動油に比べると分離しやすい。
注a) このカテゴリの作動油の中には,1 mm2/s(1 cSt)よりも著しく高い粘度をもち,75 %以上の水分を含むこと
がある。
b) 短時間の稼働の場合のおおよその上限を示す。上限値は,静的用途か動的用途かに依存する,また,HFDU
では作動油の組成に依存する。疑問がある場合は,機器製造業者又は作動油供給業者に問い合わせる。

6.2 カテゴリ別の難燃性作動油の特性

6.2.1  HFAE−O/W(水中油滴)エマルション形作動油(原液使用タイプ及び希釈使用タイプ)
6.2.1.1 一般
HFAEは,非常に高い含水率のために極めて高い難燃性があり,原液使用タイプ及び希釈使用タイプが
ある(6.2.1.2参照)。希釈使用タイプは,通常,濃縮液として供給され,使用者が体積分率2 %5 %の濃
縮液と98 %95 %の水とを混合して使用する。最適な濃度は,希釈率を変えた試験後,作動油供給業者と
協議して決定する。手動で調製する場合は,通常濃縮液を必要な量の水に,かくはんしながら,徐々に添
加する。大容量の場合は,自動かくはん機を利用する。濃縮液は,一般的には,適切な乳化剤,腐食防止
剤,pH緩衝剤,カップリング剤及び鉱物油からなり,耐摩耗添加剤,消泡剤,殺菌剤及び防かび剤が添加
されているものもある。このカテゴリの原液使用タイプの場合,添加剤パッケージ及び増粘剤は,全容量
の最大25 %となる。この作動油は,通常濃縮液ではなくあらかじめ混合された状態で供給される。
特に小さい乳化粒子径で通常鉱物油濃度が低いエマルションは,一般にマイクロエマルションといわれ,
希釈水の硬度によっては外観が半透明になる。
調製済みの作動油は,通常アルカリ性であり,一般的にはpHが9.09.5の範囲になる。
6.2.1.2 粘度
希釈使用タイプの調製済みの作動油は,含水率が非常に高いため,その粘度は純水に近い(40 ℃で約
0.8 mm2/s)。したがって,希釈使用タイプのHFAEは,低粘度作動油用に特別に設計された油圧機器を用
いた油圧システムで使用する。原液使用タイプのHFAEは,鉱物油(例えば,ISO VG 32又はISO VG 46)
と同等の粘度をもち,通常の油圧機器を使用することができる。ただし,作動油の潤滑性が低下しても,
確実に作動するものでなければならない。

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6.2.1.3 潤滑性
HFAEの潤滑特性は一般的に劣る。作動油中に存在する油分は,潤滑面の基本的な保護を提供するが,
通常,この作動油を使用するために特別に設計された油圧機器が必要である。油圧機器内の転がり軸受の
寿命は短くなる傾向がある。
6.2.1.4 耐腐食性
適切な耐腐食性を確保するためには,作動油の推奨濃度を常に維持することが重要である。
6.2.1.5 適合性
a) シール,ガスケット,ホースなど 高ニトリルのニトリルゴム(NBR)及びふっ素ゴム(FKM)は,
HFAEに適したシールのためのエラストマ材料である。他のエラストマ材料でも適合性があるものも
あるが,作動油及びシール供給業者は,作動油の適合性を確認しなければならない。一部のポリウレ
タンシール(AU及びEU)は,加水分解によって損傷することがある。皮革,紙,コルクなどの吸水
性材料は避けることが望ましい。
注記 ゴムの命名法については,JIS K 6397を参照。
b) 塗装 HFAEは,一般的な塗料には適合しない。油タンクの内部は塗装しないか,又は二液形エポキ
シ塗料で塗装することが望ましい。油タンク中の作動油に触れない箇所の腐食が問題になる場合は,
ステンレス鋼を油タンク及び天板に使用することを検討する。
c) 金属 鉱物油系作動油に使用するように設計された油圧システムの構造に使用される金属の大部分は,
HFAEとも適合する。ただし,カドミウム,鉛,マグネシウム合金は使用しないことが望ましい。陽
極酸化及び亜鉛めっきされた部品が適合する作動油の場合は,表面が不動態化されたアルミニウムが
適合する場合がある。不確かな場合は,作動油供給業者に確認する。
6.2.1.6 作動温度
過度の水分低下を避けるために,HFAEを用いる油圧システムの油タンクの温度は,通常50 ℃を超え
ないことが望ましい。作動温度は,より低い方が望ましいが,凍結の危険を回避するための最低作動温度
は5 ℃である。
6.2.1.7 作動油のメンテナンス
HFAE濃縮液の希釈は,水の硬度が特に高い場合を除き,通常は飲用水道水で行うことが望ましく,硬
度が高い場合は軟水化,又は脱塩した水を使用することが望ましい。理想的には,希釈後の作動油の特性
は,混合した作動油が全ての技術的要件を満たすことを保証するために,使用者が使用する希釈水ととも
に作動油供給業者が評価することが望ましい。
作動油の水分低下は,時間の経過とともに起こる可能性が高いため,定期的に作動油を検査して水分量
が許容範囲内に収まるようにしなければならない。このことは,通常,作動油の屈折率を測定することに
よって評価することができる。蒸発によって失われる水は,作動油中の塩濃度の増加を避けるために,脱
塩水を用いて補充することが望ましい。
長期間の使用によって,クリーム,遊離油分,及び希釈水中の金属分と濃縮物中の添加剤との間の反応
によって生成する残留物は,HFAEから分離する場合がある。著しい相分離が起こり,遊離水が認められ
る場合は,原因を調査し,速やかに調整することが望ましい。
作動油のpHは定期的に確認し,作動油供給業者の推奨範囲内に維持しなければならない。
また,作動油の微生物による汚染(例えば,細菌,酵母及びかび)についても定期的に検査することが
望ましい。未検査のままにすると,微生物の増殖によって,作動油の寿命が短くなり(例えば,作動油の
不安定化及び添加剤の消耗による),悪臭を引き起こし,使用者に健康被害をもたらす場合がある。

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6.2.1.8 ろ過
ほとんどのろ材はHFAEに使用できるが,セルロース又は布を基にしたろ材については,適合性を確認
する必要がある。フィルタのろ過精度は,用途及び油圧システムの要件によって異なる。精密なろ過を検
討する場合,作動油が不安定になる可能性があるため,事前にフィルタ供給業者に確認することを推奨す
る。
6.2.1.9 廃棄
この作動油は含水率が高いため,処分が比較的容易な場合が多い。しかし,エマルションを最初に二つ
の主要成分に分ける(乳化破壊する)必要がある。高温にして,pHを調整して,専用の乳化破壊薬剤を添
加することが,最も一般的な技術である。また,限外ろ過も,エマルションを油相と水相とに分離するた
めに使用できる場合がある。詳細については,作動油及び,装置及び薬剤の供給業者に確認することが望
ましい。
濃縮された油成分は,再利用することができない場合,焼却することができる。水相は,下水道に排出
できることがあるが,地域の規制を確認して従う必要がある。又は,水相をナノろ過又は逆浸透によって,
更に,ろ過して,排出要件を満たすか,再利用のために十分に高い品質の流体を得ることができる。
少量のHFAEを使用するほとんどの使用者にとって,廃液の最も経済的で簡単な処分は,登録済み廃棄
物業者に委託することである。
6.2.2 HFAS−ケミカルソリューション形作動油(原液使用タイプ及び希釈使用タイプ)
6.2.2.1 一般
HFASは,非常に高い含水率のために極めて高い難燃性があり,原液使用タイプ及び希釈使用タイプが
ある(6.2.2.2参照)。希釈使用タイプは,通常,濃縮液として供給され,使用者が体積分率2 %5 %の濃
縮液と98 %95 %の水とを混合して使用する。最適な濃度は,希釈率を変えた試験後,作動油供給業者と
協議して決定する。手動で調製する場合は,通常濃縮液を必要な量の水に,かくはんしながら,徐々に添
加する。大容量の場合は,自動かくはん機を利用する。濃縮物は,一般的には,水溶性腐食防止剤,pH緩
衝剤及び耐摩耗添加剤からなり,消泡剤,殺菌剤及び防かび剤が添加されているものもある。このカテゴ
リの原液使用タイプの場合,添加剤パッケージ及び増粘剤は,全容量の最大25 %となる。この作動油は,
通常濃縮液ではなくあらかじめ混合された状態で供給される。
調製済みの作動油は,通常アルカリ性であり,一般的にはpHが9.09.5の範囲になる。
6.2.2.2 粘度
希釈使用タイプの調製済みの作動油は,含水率が非常に高いため,その粘度は純水に近い(40 ℃で約
0.8 mm2/s)。したがって,希釈使用タイプのHFASは,低粘度作動油用に特別に設計された油圧機器を用
いた油圧システムで使用する。原液使用タイプのHFASは,鉱物油(例えば,ISO VG 32又はISO VG 46)
と同等の粘度をもち,通常の油圧機器を使用することができる。ただし,作動油の潤滑性が低下しても,
確実に作動するものでなければならない。
6.2.2.3 潤滑性
HFASの潤滑特性は一般的に劣るが,添加剤の配合によって,一般的なHFAEよりも高い潤滑性を与え
ることができる。通常,この作動油を使用するために特別に設計された油圧機器が必要となる。油圧機器
内の転がり軸受の寿命は短くなる傾向がある。
6.2.2.4 耐腐食性
適切な耐腐食性を確保するためには,作動油の推奨濃度を常に維持することが重要となる。

――――― [JIS B 9938 pdf 10] ―――――

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