JIS T 9210:2020 馬乗り形電動車椅子―安全要求事項 | ページ 2

           4
T 9210 : 2020
b) 安全防護及び付加保護方策
c) 使用上の情報
箇条4の安全要求事項を満たしているかは,次の検証方法のうち一つ以上の方法によって検証及び妥当
性確認を行うことが可能である。
− A : 検査
− B : 実地試験
− C : 測定
− D : 運転中の観察
− E : 回路図の精査
− F : ソフトウェアの精査
− G : タスクに基づいたリスクアセスメントのレビュー
− H : 配置図及び関連文書の精査

4.2 使用時の安全要求事項

4.2.1 移乗(乗車·降車)における安全要求事項
4.2.1.1 重要な危険源
移乗に関する重要な危険源を,次に示す。
a) 移乗のときに,機体後部のフットサポートと移乗元·移乗先(ベッド,トイレなど)との間に足が挟
まれることによる圧迫。
b) 移乗のときに,座面後部に着座したことで後方に重心がかかることによる,機体の後方への転倒。
c) 降車のため,後ろ向きに移乗先と位置合わせ及び高さ合わせを行うとき,振り向いての後方確認が難
しいために,位置合わせ及び高さ合わせが不十分なことによる衝突及び転落。
d) 乗車姿勢及び座面昇降のときに,無理な姿勢及び膝関節,股関節などの過度な屈曲による,とう(疼)
痛発生,足及び下肢への圧迫,使用者の転落など。
e) クラッチ手動モードを解除せずに,使用者が移乗を始めて機体が動くことによる転落。
f) 使用者又は介助者が機体を移乗元·移乗先へ十分に近付けず,隙間ができた状態のままで移乗するこ
とによって,使用者が隙間から転落。
g) 移乗のときに,使用者又は介助者が誤って操作レバーに接触して機体が動くことによって,移乗でき
ずに転倒。
h) 移動元·移乗先との機体座面の高さ調整が十分でないことによって,移乗のときに使用者が隙間から
滑り落ち。
i) 傾斜面で移乗しようとすることによる使用者の転落。
j) 移乗元·移乗先(車輪付きの椅子など)が容易に移動,転倒などすることで,機体座面と離れること
によって,移乗のときに使用者が転落。
k) 移乗元·移乗先(ベッド,トイレなど)の高さが通常よりも低い場合,足を伸ばした状態で移乗する
必要がある身体の固い使用者などにとってそのような姿勢維持が困難であるとき,上体が後方に倒れ
かかる姿勢になってそのまま動き出すことによる後方への転落。

――――― [JIS T 9210 pdf 6] ―――――

                                                                                             5
T 9210 : 2020
4.2.1.2 本質的安全設計
4.2.1.1に示した各危険源に対する本質的安全設計として,次の事項を考慮しなければならない。
注記 次に示す細別符号は,4.2.1.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) 移乗のときに,機体後部のフットサポートと移乗元·移乗先(ベッド,トイレなど)との間に足が挟
まれて圧迫されないように,足を床に置いても機体に挟まれない必要な空間を確保する構造とする。
b) 移乗のときに,座面後部に着座して後方に重心がかかっても,後方に転倒しない構造とする。
c) 降車のため,後ろ向きに移乗先との位置合わせ及び高さ合わせを行うとき,転落及び衝突しないよう
座面後部に座っても,身体を保持できる位置に両サイドグリップが取り付けられている構造とする。
d) 使用者の身体各部位への屈折及び圧迫が最小となるよう構造設計する。
e) クラッチの切替え操作は介助者が行い,使用者がクラッチを,電動から手動に簡単かつ誤って切り替
えないように,手の届かない位置にクラッチ切替えスイッチがある構造とする。
f) 移乗時に,使用者が身体を保持しやすい位置に両サイドグリップを取り付ける。
g) 操作レバーに一瞬触れただけでは起動しない設定とする。
h) 降車のため,後ろ向きに移乗先との位置合わせ及び高さ合わせを行うために,座面後部に座ったとき,
身体を保持できる位置に両サイドグリップを取り付ける。
i) 室内での規定最大斜面及び座面最高位での乗車した姿勢で静的安定性を保持できる構造とする。
j) [4.2.1.1 j)は,移乗先·移乗元の問題であるため,馬乗り形電動車椅子としての本質的安全設計では考
慮できない。]
k) 低い位置での移乗の際には,使用者が座面を上昇させて身体が座面後部から正規の位置に移乗完了す
るまでは動き出さないよう,操作レバーは,機体後部から簡単に手が届かない位置にある構造とする。
4.2.1.3 安全防護及び付加保護方策
4.2.1.1に示した各危険源に対する安全防護及び付加保護方策として,次の事項を考慮しなければならな
い。
注記 次に示す細別符号は,4.2.1.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) フットサポートを柔らかな素材で覆う。
b) 移乗のときに,座面後部に座っても後方に転倒しないように,必要に応じて,座面後部下にバランス
支持部材を取り付ける。
c) バックミラー,バックモニターカメラなど後方確認する器具を取り付けるか,又は前向きに移乗先と
位置合わせし,その場で旋回できる機構を取り付ける。
d) 使用者の試乗によって,事前に使用に関する適正·不適正のスクリーニングをする。
e) クラッチの手動·電動状態の表示をする。
f) バックミラー及び/又はバックモニターカメラを取り付ける。
g) 距離センサーによって,移乗元と移乗先との距離が離れたことを警告として発する装置を取り付ける。
h) バックミラー及び/又はバックモニターカメラを取り付ける。
i) [4.2.1.1 i)の傾斜面での移乗は禁止事項であるため,馬乗り形電動車椅子としての安全防護及び付加
保護方策では考慮できない。]
j) [4.2.1.1 j)は,移乗先·移乗元の問題であるため,馬乗り形電動車椅子としての安全防護及び付加保護
方策では考慮できない。]

――――― [JIS T 9210 pdf 7] ―――――

           6
T 9210 : 2020
k) 移乗時,身体を保持できる位置に両サイドグリップを取り付ける。
4.2.1.4 使用上の情報
4.2.1.1に示した各危険源に対する使用上の情報は,B.2に規定する事項として,箇条6によって使用者
への情報提供をしなければならない。
4.2.1.5 検証及び妥当性確認
4.1の検証方法の中から適切な方法を選択し,検証及び妥当性確認を行う。
4.2.2 移動(始動時,移動中及び停止時を含む。)における安全要求事項
4.2.2.1 重要な危険源
移動に関する重要な危険源を,次に示す。
a) 移動時(始動時·停止時を含む。)に使用者が誤った操作などによって機体座面から後方に転落。
b) 移動中に長い衣服,マフラー,ガウンなどを車輪が引き込むことによる,後方への転倒。
c) 座面位置が高いまま,胸当てがなく前傾姿勢を取って移動することによる,前方への転倒及び転落。
d) 座面最高位で,重心位置が高くなったまま移動し,重心バランスを崩すことによる転倒及び転落。
e) 普段取らない姿勢が続くことによる疲労及びストレス。
f) 移動中に使用者が誤って操作レバーを操作し,使用者又は介助者の足の上に車輪が乗り上げることに
よる,足の挟み込み。
g) 後進時に後方が見えにくいこと,視点が高いために床周りが見えにくいことなど,視線角度及び視界
範囲に起因する衝突及び転倒。
h) 座面後部に移乗して,正しい乗車位置·姿勢にならないまま移動操作及び旋回を行い,加速力及び遠
心力で身体が振られることによる転落。
i) 移動時(始動時走行時停止時)に生じる加速及び減速に伴う身体バランスの崩れによる転落。
j) 着座が不完全なまま移乗を終えたと思い込んだ状態で発進することによる,後方への転倒及び転落。
4.2.2.2 本質的安全設計
4.2.2.1に示した各危険源に対する本質的安全設計として,次の事項を考慮しなければならない。
注記 次に示す細別符号は,4.2.2.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) 移動時に使用者が後方に転落しにくい座面の構造とする。
例1 座面の高さを上げるに従って座面角度が前傾姿勢となる。
転落しない十分な長さとするなど。
b) 移動中に長い衣服,マフラー,ガウンなどを車輪が引き込み,後方に転倒しないように,移動のとき
の着座位置は,身体状況に合わせ,可能な限り前方で,かつ,高い座位を標準とした設計とする[で
ん(臀)部から座面後方までの距離を保ち,長い衣服,マフラー,ガウンなどを巻き込みにくくする。]。
c) 座面位置が高く,前傾姿勢を取っても前方に転倒及び転落しないようにチェストサポートが取り付け
られており,機体のバランスが取れる設計とする。
d) 室内における規定最大斜面での座面最高位で動的安定性を維持できる構造とする。
e) チェストサポート及びアームサポートによる身体保持機構を備える。

――――― [JIS T 9210 pdf 8] ―――――

                                                                                             7
T 9210 : 2020
f) 操作レバーに一瞬触れただけでは起動しないタイムラグを設定する。
g) 後進のときは,移動速度が自動的に遅くなるように設定する。
h) 旋回時には,旋回速度及び加速度を自動的に低くなるように設定する。
i) 加速時·減速時·停止時に身体バランスを崩し,転落しないように加速度調整される装置を備えるこ
と,並びにチェストサポート及びアームサポートを取り付ける。
j) 移乗後,発進の加速時に後ろに転落しにくい構造設計とする。
例2 乗車時,座面を高くするのに併せて座面の前方方向へ傾斜する構造
4.2.2.3 安全防護及び付加保護方策
4.2.2.1に示した各危険源に対する安全防護及び付加保護方策として,次の事項を考慮しなければならな
い。
注記 次に示す細別符号は,4.2.2.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。
b) [4.2.2.1 b)は,使用者の衣服の種類·形状によるリスクが主なため,馬乗り形電動車椅子としての安
全防護·付加保護方策では考慮できない。]
c) シートベルト(前方への転落防止用を含む。)を取り付ける。
d) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。
e) 長時間使用時の休憩アラームを取り付ける。
f) 使用者又は介助者の足の上に乗り上げても負荷の少ないゴムタイヤを採用する。
g) バックミラー及び/又はバックモニターカメラを取り付ける。
h) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。
i) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。
j) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。
4.2.2.4 使用上の情報
4.2.2.1に示した各危険源に対する使用上の情報は,B.3に規定する事項として,箇条6によって使用者
への情報提供をしなければならない。
4.2.2.5 検証及び妥当性確認
4.1の検証方法の中から適切な方法を選択し,検証及び妥当性確認を行う。

4.3 構造・機構面の安全要求事項

4.3.1 身体保持機構に関する安全要求事項
4.3.1.1 重要な危険源
身体保持機構に関する重要な危険源を,次に示す。
− 過放電及び電源喪失によって移動機能及び上下動機能が停止し,降車不能となって長時間乗車を強い
られた場合に,身体を保持できなくなることによる転落。

――――― [JIS T 9210 pdf 9] ―――――

           8
T 9210 : 2020
4.3.1.2 本質的安全設計
4.3.1.1に示した危険源に対する本質的安全設計として,次の事項を考慮しなければならない。
− 座面以外にアームサポート,チェストサポート,ニーサポートなど身体を保持する機構を備える。
4.3.1.3 安全防護及び付加保護方策
4.3.1.1に示した危険源に対する安全防護及び付加保護方策として,次の事項を考慮しなければならない。
− バッテリー残量を表示する,及び追加の身体保持機構,バックサポート,シートベルトなどを取り付
ける。
4.3.1.4 使用上の情報
4.3.1.1に示した危険源に対する使用上の情報は,B.4に規定する事項として,箇条6によって使用者へ
の情報提供をしなければならない。
4.3.1.5 検証及び妥当性確認
4.1の検証方法の中から適切な方法を選択し,検証及び妥当性確認を行う。
4.3.2 重心バランスに関する安全要求事項
4.3.2.1 重要な危険源
重心バランスに関する重要な危険源を,次に示す。
a) 座面が高くなることで重心が高くなり,重心バランスを崩すことによって,斜面走行時及び旋回時に
転倒及び転落。
b) 使用者が高所へ手を伸ばすことによって重心が移動し,それとともにバランスを崩すことによって,
機体が傾斜して転倒及び転落。
c) 右左折時及び旋回時に,重心に遠心力が働き,バランスを崩すことによって,転倒及び転落,並びに
機体が周囲に衝突することによる機体と周囲との間への身体の挟み込み。
4.3.2.2 本質的安全設計
4.3.2.1に示した各危険源に対する本質的安全設計として,次の事項を考慮しなければならない。
注記 次に示す細別符号は,4.3.2.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) 規定最大斜面での座面最高位で動的安定性を保持できる構造設計とする。
b) 規定最大斜面での座面最高位で静的安定性が保持できる構造設計とする。
c) 旋回時の座面最高位で動的安定性が保持できる構造設計とし,せん(尖)鋭部がない外装で,衝撃を
吸収する構造及び素材とする。
4.3.2.3 安全防護及び付加保護方策
4.3.2.1に示した各危険源に対する安全防護及び付加保護方策として,次の事項を考慮しなければならな
い。
注記 次に示す細別符号は,4.3.2.1の細別符号に対応するものとなっている。
a) シートベルト及び/又はバックサポートを取り付ける。

――――― [JIS T 9210 pdf 10] ―――――

次のページ PDF 11

JIS T 9210:2020の国際規格 ICS 分類一覧

JIS T 9210:2020の関連規格と引用規格一覧

規格番号
規格名称
JIST0102:2011
福祉関連機器用語[支援機器部門]