JIS X 0170:2020 システムライフサイクルプロセス | ページ 13

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X 0170 : 2020 (ISO/IEC/IEEE 15288 : 2015)
利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義プロセスは,定義された環境において,利用者及び他の
利害関係者によって必要とされる能力を提供できるように,システムに対する利害関係者の要求事項を定
義することを目的とする。
このプロセスでは,システムのライフサイクルを通じて,システムに関係している利害関係者又は利害
関係者の集まり,及びそれら利害関係者のニーズを識別する。このプロセスでは,これらのニーズを分析
し,利害関係者要求事項の共通集合に変換する。利害関係者要求事項は,システムがその運用環境との間
にもつように意図された相互作用を表現する。さらに,利害関係者要求事項は,運用したときに結果とし
て得られる運用の能力の妥当性を確認するために対比して参照する対象となる。対象システムをシステム
及びイネーブリングシステムと接続して相互運用する状況を考慮して,利害関係者要求事項を定義する。
6.4.2.2 成果
利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義プロセスの実施に成功すると次の状態になる。
a) システムの利害関係者が識別されている。
b) ライフサイクルの段階の中で,能力及び概念に要求される特性,並びに能力及び概念を利用する状況
が,システムレベルの運用概念を含めて定義されている。
c) システムに課された制約が定義されている。
d) 利害関係者ニーズが定義されている。
e) 利害関係者ニーズが優先順位付けされ,明確に定義された利害関係者要求事項に変換されている。
f) 重大なシステムの遂行能力・性能・運用時の実績の測定量が定義されている。
g) 利害関係者のニーズ及び期待が要求事項へ必要十分に反映され,利害関係者の合意に到達している。
h) 利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義の実施を可能にするために必要な全てのイネーブリン
グシステム又はサービスが利用可能になっている。
i) 利害関係者要求事項と,利害関係者及びそれらの利害関係者ニーズとの間のトレーサビリティが確立
されている。
6.4.2.3 アクティビティ及びタスク
プロジェクトは,利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義プロセスに関する,適用可能な組織の
方針及び手順に従って,次に示すアクティビティ及びタスクを実施しなければならない。
a) 利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義の準備を行う。このアクティビティは,次のタスクか
らなる。
1) システムのライフサイクルを通じて,システムに関係する利害関係者を識別する。
注記 これには,利害関係者の個人及び集まりを含む。こうした利害関係者の個人及び集まりは,
利用者,運用操作者,支援者,開発者,制作者,教育訓練指導者,保守者,廃棄担当者,
取得者及び供給者の組織,インタフェースを介して接続している外部の様々な実体につい
て責任のある団体,規制機関,並びにシステムについて合法的に正当な利害をもつその他
の人たちからなる。意思伝達を直接行うことが現実的ではない場合(例えば,不特定多数
の一般消費者向け製品又はサービス)は,代表者又は指定されて委任を受けた代理人とな
る利害関係者を選定する。
2) 利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項の定義戦略を定義する。
注記 システムに反対しているか,又は互いに対立している利害関係者がいる場合がある。利害
関係者が,それぞれの利害関係者間で互いに対立しているが,システムには反対していな
い場合は,このプロセスでは,利害関係者の集まりの中で共通合意を得て,受入れ可能な

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要求事項の共有集合を確立するようにする。利害関係者の意図若しくは要望がシステムに
反対するものである場合,又は利害関係者がシステムの価値を落としめようとする者であ
る場合は,リスク管理プロセス,システム分析プロセスでの脅威分析によって,又はセキ
ュリティ,適応性若しくは危機に弾力的な対応ができる復元性(resilience)についてのシ
ステム要求事項によって取り扱う。このような場合は,反対する利害関係者のニーズを満
たすのではなく,システムの価値を落としめようとする者からの行動に遭遇したときに,
システムのアシュアランス及び完整性を確実にすることを援助する方法によって取り組む。
3) 利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項の定義を支援するために必要とするイネーブリングシス
テム又はサービスを識別し計画する。
注記 これには,イネーブリングシステムに対する要求事項及びインタフェースの識別を含む。
利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項定義のためのイネーブリングシステムには,定
義を促進するツール及び要求事項を管理するツールも含む。
4) 利用されるイネーブリングシステム若しくはサービスを,獲得する又はそれらへのアクセスを取得
する。
注記 利害関係者ニーズ及び利害関係者要求事項の定義の実現を支援するイネーブリングシステ
ムの支援機能が,意図したように利用できるかを客観的に確認するために,妥当性確認プ
ロセスが用いられる。
b) 利害関係者ニーズを定義する。このアクティビティは,次のタスクからなる。
1) 組織レベルの運用概念及び予備的なライフサイクル概念の範囲内で,利用する状況を定義する。
注記 利用する状況は,ISO/IEC 25063にあるような利用状況の記述によって,捕捉して形ある
ものとして記録することもよくある。事前準備のための予備的なライフサイクル概念が,
ビジネス又はミッション分析プロセスによって開発される。
2) 利害関係者ニーズを識別する。
注記1 利害関係者ニーズの識別には,利害関係者から直接的にニーズを引き出すこと,領域の
知識及び利用状況の理解に基づくが明示されない暗黙の利害関係者ニーズを識別するこ
と,並びにそれまでの活動とのギャップを文書化することを含む。ニーズに,有用性の
測定量を含めることがよくある。ニーズの引出しを助けるために機能分析を行うことが
よくある。また,利害関係者が明示しない,暗黙のニーズとなりがちな非機能要求事項
の品質要求事項を引き出し,かつ,識別するために,JIS X 25010にある品質モデルの品
質特性を用いて,JIS X 25030にあるように要求分析へ適用することが役立つ。
注記2 利害関係者ニーズは,識別された利害関係者がもつ必要性,欲求,要望,期待及び認知
された制約を記述する。運用環境に必要となる,最小限のセキュリティ及びプライバシ
ー要求事項に対する利害関係者ニーズを理解することが,運用の計画,スケジュール及
び重大な遂行能力・性能・運用時の実績を損なう潜在的な可能性を最小限に抑える。
利用者及びその他の利害関係者,並びにそれらの人がシステムの一部に含まれて関与
するか又はシステムと対話操作することに関して,重要な課題が発生しそうな場合は,
人間とシステムとの間の課題を識別して対処するための推奨事項がある。それは,
ISO/TS 18152を参考にできる。
3) ニーズを優先順位付け,選定して絞り込む。
注記 意思決定管理プロセスが優先順位付けを支援するために通常用いられる。システム分析プ

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ロセスを用いて,実現可能性又は他の要因に対してニーズを分析する。
4) 利害関係者のニーズ及び根拠を定義する。
注記 ニーズは,システムの目的及び振る舞いに着目したものに集中させて,それらの運用の環
境及び条件についての状況と合わせて記述する。ニーズの提供元及びニーズの理由を示す
根拠までトレースすることが役に立つ。
c) システムレベルの運用概念及びその他のライフサイクル概念を開発する。このアクティビティは,次
のタスクからなる。
注記 その他のライフサイクル概念には,システム取得の概念,展開配備の概念,運用・保守の支
援概念,セキュリティの概念及び廃棄の概念を含めることができる。このアクティビティで
は,ビジネス又はミッション分析プロセスの中で定義された予備的なライフサイクル概念を,
利害関係者に関連するシナリオ及び対話操作・相互作用が定義されるような,特定の利害関
係者ニーズが存在する状況下で更に発展させた概念を開発する。要求エンジニアリングに関
するJIS X 0166の箇条5及び箇条6ではシステムレベルの運用概念について,並びにその附
属書Aで運用概念の情報項目の概要について,追加情報が参照できる。
1) 想定されるシステムレベルの運用概念及びその他のライフサイクル概念に対応付けた,全ての要求
される能力を識別するために,シナリオ群の代表的な集合を定義する。
注記1 利害関係者の誰からもまだ明示的に識別されていない可能性がある,追加のニーズ又は
要求事項(例えば,法律,規則及び社会的な制約など)を識別する目的で,意図された
環境におけるシステムの運用を分析するために,シナリオ群を用いる。システムを利用
する状況は,次を含めて識別及び分析する。
− 利用者がシステムの目標を達成するように実行する活動
− システムの最終利用者に関連した各種の特性(例えば,期待される教育訓練,疲労
の程度)
− 物理的環境(例えば,利用可能な照明,温度)
− 利用する全ての機器(例えば,防護機器又は通信機器)
システムの利用に影響を及ぼすか,又はシステムの利用法の設計に制約を与える可能
性があるような,利用者へ波及するような社会的及び組織的な影響は,該当するものが
あれば分析する。攻撃者,攻撃者の環境,ツール,技法及び能力に焦点を当てたシナリ
オ群を考慮することはシステムレベルの運用概念の開発にとって重要である。様々な運
用ニーズの重要度を重み付けして反映するために,シナリオ群に優先順位を付ける。
注記2 これらのシナリオ群は,システムレベルの運用概念又はライフサイクル概念を更新する
動機付けとなることがよくある。誤使用及び故障発生のシナリオ群は,各シナリオによ
って識別される誤使用又は故障発生のリスクを軽減するための,追加の機能要求事項の
ニーズ(又はそのようなリスクを軽減するために導出される,より特定の要求事項)を
見つけやすくする。
2) 利用者とシステムとの間の対話操作・相互作用を識別する。
注記1 使用性(ユーザビリティ usability)の要求事項では,人間の能力及びスキルの限界を考
慮する。可能な場合には,例えば,人間工学に関するJIS Z 8511,JIS Z 8520,JIS Z 8530
などのISO 9241シリーズの適用可能な規格及び受け入れられた専門的な実践方法を用
いて次を定義する。

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− 身体面,心理面及び学習面での能力
− 利用状況における,作業場所,環境及び機器を含む設備
− 通常の正常な状況,通常でない状況及び緊急状況
− 運用操作者及び利用者の採用,教育訓練及び組織文化
注記2 使用性が重要なときは,ライフサイクルプロセスを通じて使用性の要求事項を計画,仕
様化及び実装する。人間とシステムとの間の課題に関する情報についてはISO/TS 18152
を,使用性に関する情報についてはISO/IEC TR 25060:2010をそれぞれ参照。
d) 利害関係者ニーズを利害関係者要求事項へ変換する。このアクティビティは,次のタスクからなる。
1) システムソリューションにおける制約を識別する。
注記 次の結果から,制約がもたらされる。
− 利害関係者の定義されたソリューションの事例又は領域
− システムの階層構造の上位レベルで判断される実装についての意思決定
− 定義されたイネーブリングシステム,資産となっているシステム,若しくはインタフ
ェースを介して接続するシステム,又はそれらのシステム要素,資源及び要員につい
ての,要求された利用法
− 利害関係者によって定義された,費用面での容易さの目標
既存の合意,管理面及び技術面の意思決定がもたらす不可避の帰結も制約に含める。
2) アシュアランス,安全性,セキュリティ,環境,人の健康など,重大な品質特性に関係する利害関
係者要求事項及び機能を識別する。
注記1 システム及びソフトウェアのアシュアランスについての追加情報は,JIS X 0134-2を含
むISO/IEC 15026シリーズを参照。
注記2 安全性のリスクを識別することが,安全要求事項及び安全機能の識別を促進する。安全
性リスクには,運用及び支援の方法,人の健康及び安全性,資産への脅威,並びに環境
への影響に関連する事項を含む。例えば,JIS C 0508規格群のような適用可能な規格及
び広く受け入れられている実践方法を用いる。
注記3 セキュリティのリスクを識別することが,追加のセキュリティ要求事項及びセキュリテ
ィ機能の識別を促進する。契約で保証される場合は,物資,手順,通信,コンピュータ,
プログラム,データ及び排出物質を含め,システムセキュリティが該当する領域を含む。
これには,保護対象となる人員,資産及び情報へのアクセス及び損傷,機密情報を危
うくすること並びに資産及び情報に対して認められたアクセスへの拒否を含む。
また,必須又は適切な場合に,適用可能な標準及び受け入れられた専門的な実践方法
への参照を基にした,軽減及び抑制を含め,要求されたセキュリティ機能も含む。
注記4 利用時の品質の観点をもった品質特性に関する,更なる情報についてはJIS X 25030を
参照。
3) ライフサイクル概念,シナリオ,相互作用,制約,及び重大な品質特性との一貫性をもたせるよう
に,利害関係者要求事項を定義する。
注記1 利害関係者要求事項の,更なる情報についてはJIS X 0166の箇条5及び箇条6を,利害
関係者要求事項仕様書の記述及び注釈を含む概要については,箇条8及び箇条9を参照。
注記2 どのようなニーズの変更も考慮することを確実に行うことを援助するため,ライフサイ
クル中の重要な意思決定の時点で,利害関係者要求事項をレビューする。

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注記3 ライフサイクルを通じて要求事項管理を行うという目的に合った様式で,利害関係者要
求事項を記録する。これらの記録は,利害関係者要求事項ベースラインを確立し,ライ
フサイクルの初めから終わりまで,ニーズの変更及び利害関係者要求事項の起源を保持
する。これらの記録は,利害関係者のニーズ,システム要求事項及び導かれる結果とな
るシステム要素へのトレーサビリティと同様に,ビジネス又はミッション分析プロセス
によって実施された意思決定へのトレーサビリティの基礎になる。
注記4 利害関係者要求事項は,システム及びシステム要素に対する妥当性確認のための基準の
基礎となる。
e) 利害関係者要求事項を分析する。このアクティビティは,次のタスクからなる。
1) 利害関係者要求事項の全ての集合を分析する。
注記1 利害関係者要求事項を,要求事項の集合としての特性に対して分析するとともに,個々
の要求事項の特性に対しても分析する。個々の要求事項に関して,潜在的な可能性につ
いて分析される特性には,次の全てが含まれる。
− 要求事項が必要なものであること
− 実装方法に依存しないものであること
− 曖昧性がないこと
− 矛盾なく一貫性があること
− 抜け漏れなく完全にそろ(揃)っていること
− 単独性があり他の要求事項との重複がないこと
− 実現可能であること
− トレース可能であること
− 検証可能であること
− 費用面で可能であること
− 定義範囲を示す境界が明確にされていること
要求事項の特性についての追加情報がJIS X 0166で提供されている。
注記2 実現が可能か,及び適切な費用で入手しやすいかどうかをアセスメントするためには,
システム分析プロセスが用いられる。利害関係者要求事項のレビューにおいては,検証
プロセス及び妥当性確認プロセスが用いられる。
2) 技術面での達成度をアセスメントできるようにする,重大な遂行能力・性能・運用時の実績の測定
量を定義する。
注記 これには,技術及び品質の測定量,並びに有効性の各測定量に関連する,重大な遂行能力・
性能・運用時の実績のパラメータを,利害関係者要求事項から識別して定義することを含
む。重大な遂行能力・性能・運用時の実績の測定量(例えば,有用性の測定量及びシステ
ムの目的への適合性の測定量)を定義,分析及びレビューし,利害関係者要求事項に合致
させることを確実にし,何らかの不適合につながるようなプロジェクトのコスト,スケジ
ュール又はプロジェクト実行の実績及びシステムの遂行能力・性能・運用時の実績に関す
るリスクの識別を確実にすることを助ける。JIS X 0141では適切な測定量を識別,定義及
び利用するためのプロセスを提供している。技術面での測定量に関するINCOSE
TP-2003-020-01では,重大な遂行能力・性能・運用時の実績の測定量の選定,定義及び実
装についての情報を提供している。JIS X 25000シリーズでは関連する品質測定量を提供し

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