JIS A 3305:2020 建築・土木構造物の信頼性に関する設計の一般原則 | ページ 20

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A 3305 : 2020 (ISO 2394 : 2015)
ALARPに加えて,いわゆる予防原則にも触れるべきである。欧州におけるリスク規制の枠組みで形成
されたこの原則を,今日では世界中の多くの国が適用している。この原則は,いろいろと議論はあるもの
の,社会にとって不釣合いに大きい結果をもつ(技術的)開発に対して社会を守るための手段と解釈する
ことが可能である。予防原則は,経験がなく,そのうえ,受容できない負の結果をもつ可能性について疑
いがある活動の評価に関して適用する。そのような状況においては,既存の最良な実践の技術を用いて十
分な形で管理し,マネジメントがなされることができることを保証するように,より多くの知見を集める
ことが求められる。
一般的なALARPの枠組みは,追加人命救助費用の原則と非常に近いことが理解できる。しかし,これ
を確かなものにするためには,ALARPの枠組みについて具体的な解釈が必要である。
表G.1−EUにおける年当たり死亡率に関するリスク基準の概要
年当たり死亡率 英国 オランダ ハンガリー チェコ共和国
10−4 公衆の受忍不可能な限界
10−5 ALARP領域 既存の場合の限界(ALARP) 上限 既存の場合の限界
リスクの低減がなされ
なければらない
3×10−6 土地利用計画規準 下限 新規導入の場合の限界
10−6 広く受容可能 新規導入の場合の限界,2010
年以降の一般限界(ALARP)
ALARP形式における追加人命救助費用の原則の実装は,次のように定式化が可能である。
a) リスクが他の仕様規定的な規準等によって規制されていると文書化できるか,リスクが無視できるこ
とが文書化できる場合を除き,後述する原則に関して人命リスクに関わる決定及び活動を評価するこ
とが望ましい。
b) リスク分析は,Risk Assessment in Engineering−Principles, System Representation & Risk Criteria(JCSS,
2008参照)及び関連するISO規格などに示される最良な実践に従って行われなければならない。
c) 諸活動は,追加人命救助費用の原則に従って社会的な受容に関して評価されなければならない。人命
リスクは,最良の技術的,組織的及び手続的な方策で,更なる人命リスクの低減が追加人命救助費用
(G.4に記載)を超える水準まで低減されていることを実証することが望ましい。一般的に,リスク
低減の方策は,与えられた状況において不適切である又は不十分であると証明される場合を除き,規
格規準にて記載するような最良の実践の中から探されなければならない。
d) 該当する人命リスクの絶対値の水準を考慮して,受容可能と判断される活動を評価することが望まし
い。人命リスクの絶対値の水準がしきい(閾)値を超える場合には,アセスメントの全段階で最良の
実践に従っているかどうかについて特に評価することが望ましい。その上で,考慮されている事例が
最良な実践手法で適切に取り扱われているか又は予防原則に従う更なるアセスメントを実施するべき
かについて評価することが望ましい。これらが当てはまらなければ,その活動が受容可能であると考
えられる。
追加人命救助費用の原則は,受容可能な人命リスクについて,絶対値を規定することを強制するもので
も認めるものでもないが,実用において実装する場合には,受容可能なリスクの境界を要求することが可
能である。受容可能な境界を守るために,第一に,リスクが十分小さく,人命リスクを,特定の(しばし
ば仕様規定的な)規制及び規格規準によって十分に管理していると理解する状況においては,全体的な定
量的リスクアセスメントを要求しない。第二に,リスクの絶対値が一般的なリスクと比較して高い場合に

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は,最新知見に準拠してそれ自身のアセスメントを実施し,その活動が予防原則の下でアセスメントを行
うことが望ましい活動には分類しない。最後に,人命の安全に対する必要投資額に対応するリスク水準は,
G.5で記載するように構造物の設計規格のキャリブレーションの根拠として活用することが可能である。
G.3 最適化の根拠となる便益の期待値の計算方法
G.3.1 一般事項
便益の期待値の計算に関して,二つの状態,すなわち,1) 民間企業又は個人所有者が構造物の設計に関
する決定を最適化する場合と,2) 公共機関又は規格策定委員会が構造物の設計を最適化したり最適な設計
規格をキャリブレーションしたりする場合とを(附属書Eに記載されるように)区別する必要がある。
G.3.2 民間所有の場合
民間所有の場合,便益の計算に何を含めどのように計算するかという問題は,自由市場の原理及び時と
して行われる行政による奨励に完全に委ねられている。構造物から得られる収益としては,プロジェクト
の資金繰り及び適用される契約の枠組みのスキームなど,目下の特定の状況に強く依存する。費用面では,
次の費用項目を含めるとよい。
− 設計及び品質保証の費用
− 建設費用
− 検査及び維持管理費用
− 稼働停止の費用
− 修復費用
− 再建設費用
− 補償費用(人命及び負傷,環境への被害並びに第三者に対するその他の不便及び被害)又は代替とし
ての保険料
− 評判喪失に関わる費用
− 撤去費用
ライフサイクルに基づくリスクアセスメントにおいて,上記の費用項目を含めることを推奨する。そこ
では,想定するライフサイクルの期間中に費用が発生する確率を考慮に入れた費用の期待値を計算し,適
切な形で現在価値に割り引く。
G.3.3 公共所有の場合
公共の所有の場合(例 規準化の作業も同様の状況である。),考慮の対象となる構造物(関心の対象と
なる特定のプロジェクトである又は設計規格及び関連する規制によって規定されるプロジェクトである。)
から生じる社会的便益に関して,入手可能な最良の知識に基づいて,その便益を計算することを推奨する。
この場合,それらの発生に関する確率を適切に考慮に入れた上で,上記の全ての費用項目をライフサイ
クルにおける便益の計算に含めることが望ましい。この目的のために,リスクアセスメント及び信頼性評
価を用いることが望ましい。対象となる構造設計の特徴をよく考慮に入れてライフサイクルを評価するこ
とが望ましい。特定の1品生産のプロジェクトの場合には,ライフサイクルを対象となる特定の構造物の
プロジェクトの供用期間と一致させて考えることが合理的である。しかし,一般の場合及び特に設計規格
の場合,ライフサイクルとして個々の構造物の供用期間に着目するのではなく,構造物が全うすることを
目指すよう要求する期間に着目することを推奨する。これは,実際には,100年を超える供用期間に相当
する可能性もある。
社会経済学的持続性を保証するために,ライフサイクルコストの現在価値の計算において,割引は慎重

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に評価した長期にわたる経済成長率に基づくことが望ましい。今日では,最も成長した経済圏においては
年13 %程度,多くの発展途上の経済圏においては58 %程度である。
G.4 LQIに基づく人命救助費用の限界値の計算方法
G.4.1 一般事項
生活の質指標(LQI)は,1997年に提案された[11]。LQIの背景となる根本原理は,健康及び人命の安全
の向上への投資に対する社会的な選好が,出生時平均寿命,1人当たりの国民総生産(GDP)及び労働時
間と余暇時間との比で記述することができるということにある。LQIは,もともと社会経済学的な理論的
考察に基づき提案されたものではあるが,その妥当性については,それ以降経験的に証明されている。LQI
は,人命の安全への投資に関する社会的な選好との整合性に関する決定についての評価を容易にするもの
である。LQIに基づけば,人命救助費用に関する限界値,すなわち,1人の命を追加で救助するために必
要かつ支払い可能な支出を導出することが可能である。仮想人命価値評価などの経済学の分野におけるそ
れ以外の方法論においても,LQIの結果と同等の結果を得ることが明らかとなっている。
LQIを通して評価する追加人命救助費用は,対象とする社会における人命の安全への投資に対する経済
的能力及び選好並びに人命救助のための方策の人口全体に対する効果に依存する。これによって,次の疑
問が提起される。
− 社会的な経済的能力及び選好がどのように追加人命救助費用に影響するか。
− 人口全体に対する人命救助の方策の効果をどのように説明するか。
これらの疑問に答えるため,LQIの背景にある基本的な方法論を,次に要約して記載する[11]。
G.4.2 LQIに基づく追加人命救助費用の評価
LQIは,次の基本的形式で表すことができる。
L(g,e) gqe (G.1)
ここに, g : 1人当たりのGDP
e : 平均寿命
q : 消費に使用できる資金と健康寿命とのトレードオフに関する
尺度
qは,経済活動に割り振られる時間の比w(自由時間に対する勤務時間の比,一般的には0.18から0.2)
に依存し,さらに,GDPの一部が労働によって実現し,その他の部分を投資の利益として得るという事実
による。e及びwは,国の規模で評価する。定数qは,次のように評価する。
w
q (G.2)
1( w)β
ここに, β : コブ・ダグラス型の弾力性の定数(ここでは0.7と設定)
社会的支払意思額(SWTP,Societal Willingness To Pay)及び社会における統計的生命価値(SVSL,Societal
Value of a Statistical Life)は,次のように評価する。
g ded g
SWTP Cxdm Gxdm (G.3)
q ed q
g
SVSL ed (G.4)
q
ここに, ed : 平均寿命を割り引いた年齢
Cx : 特定の死亡率の集団xに対する人口動態定数

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Gx : WTPの死亡率mに関する単位変化
edの評価に当たっては,異なる人命の安全性改善の戦略が,様々な年齢集団に対して異なる影響を与え
る可能性があるということを考慮するために,年齢の平均化を導入する。人命を救うのは将来であるとい
うことを考慮するために現在価値への割引を導入する。
SWTPは,人命リスク低減活動によって1人の人命を救うために投資することが望ましい金額に相当す
るものである。SVSLは,1人の死亡に対して補償されることが望ましい金額に相当するものである。ここ
で規定されるSVSLは,指針値とみなすことが可能である。国ごとに異なる実際の法体系では,補償に対
する慣例も異なる。
人命リスク低減策を個別構造物の枠組み及び設計規格のキャリブレーションの枠組みにおいて設計戦略
の一部として実装する場合には,リスク低減策の影響は,上記のように,社会における年齢集団ごとに異
なる可能性がある。これは一方で,社会的観点から見た人命リスク低減の効率性に影響する。これを評価
に含めるためには,様々な設計戦略の人命リスク低減策について,人口全体に対する評価として,現在価
値に割り引いた平均余命の年齢平均を計算することが可能である。これを死亡率低減計画と呼ぶ。
ここでは,SWTP及びSVSLの計算のために,二つの異なる死亡率低減の枠組みを考えるが,他の適切
な形式がある場合にはそれを用いてもよい。第一は枠組み パイ)で,人命リスク低減に関する設計戦
略が全年齢の死亡率に比例的変化を与える。枠組みΔ(デルタ)は,設計戦略におけるリスク低減が全年
齢に対して一様であるような場合である。リスク低減策が年齢に関係なく全個々人へ同様に影響をするの
で,構造物の安全性に関しては大抵の場合,枠組みΔが適切である。コホート生存率表から得られる情報
に基づきSWTP G 圀 算する方法の詳細は,文献[5]が示している。
表G.2に年割引率を2 %,3 %及び4 %とした場合の様々な国における結果を示す[5]。対応するSVSLの
値も併せて示す。計算においては,全GDPが人命リスク低減のために利用可能であると仮定している。

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表G.2−国ごとの,異なる人命リスク低減計画,異なる割引率に対する追加人命救助費用
(全数字の単位 : 千ppp米国ドル)[5](pppとは,主要購買力平価を指す。)
国 2008年1人 SWTP−G SWTP−GΔ SVSL
当たりGDP 2% 3% 4% 2% 3% 4% 2% 3% 4%
オーストラリア 35624 3061 2614 2279 4840 4298 3843 6551 5261 4356
ブラジル 9517 548 470 399 804 712 634 1074 864 724
カナダ 36102 2821 2369 2038 4062 3636 3236 5494 4412 3679
中国 5515 252 213 184 353 314 279 482 397 335
コロンビア 8125 390 330 285 475 424 380 443 362 304
コンゴ共和国 290 11 9 8 16 14 12 20 17 14
デンマーク 34005 2334 2007 1704 3842 3431 3064 3127 2549 2113
フランス 30595 1969 1677 1459 2935 2601 2307 2233 1820 1523
ドイツ 33668 2090 1785 1544 3219 2849 2527 2625 2158 1824
香港 40599 1864 1592 1384 2875 2561 2300 2243 1805 1511
インド 2721 128 110 96 175 156 139 172 140 118
日本 31464 1435 1227 1045 2286 2036 1812 1702 1404 1178
マリ 1043 40 34 29 54 48 43 70 56 47
モザンビーク 774 33 28 25 40 36 32 51 42 35
オランダ 38048 2329 1,989 1700 3812 3385 3016 2967 2406 2016
ノルウェー 49416 2794 2380 2038 3937 3500 3129 3531 2839 2348
ポーランド 16418 1006 846 729 1369 1218 1080 1221 989 819
シンガポール 45553 2114 1799 1554 2735 2448 2191 2771 2267 1893
スウェーデン 33769 2249 1891 1630 2710 2406 2137 2561 2113 1743
スイス 37788 2943 2517 2134 4206 3727 3332 3464 2792 2332
イギリス 34204 2600 2178 1873 4105 3665 3270 3127 2505 2117
アメリカ合衆国 42809 2488 2100 1822 3187 2833 2542 4293 3508 2953
表G.2に示す数値に基づき,人命の安全に対する一般的な社会的選好の観点から構造物に関する決定の
整合性を評価する。このため,Risk Assessment in Engineering−Principles, System Representation & Risk
Criteria(JCSS 2008参照)に記載されるような,全リスクのアセスメントが一般に必要となる。決定の代
替案が離散的特徴及び連続的特徴をもつ場合,双方においてどのようにリスクをアセスメントするかにつ
いては,JCSS [8]に例を示しているが,追加人命救助費用が大部分の構造物に対して十分に簡潔な形で直ち
に適用できる方法の概要を,次に記載する。
G.5 実務において本原則を利用する方法
G.5.1 一般事項
要約すると,構造設計のプロセスは制約条件下における便益(の期待値)の最適化又は費用(の期待値)
の最小化であると考えることが可能である。制約条件によって人命の安全に対する十分かつ支払い可能な
投資が確実なものとなる(図G.2参照)。

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JIS A 3305:2020の引用国際規格 ISO 一覧

  • ISO 2394:2015(IDT)

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