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2.3
摩耗(wear)
接触する2面が相対的に滑るとき,又は腐食によって時間の経過とともに材料の一部が取られ,逐次減
量していく現象。
歯車ではそうした摩耗形態のうちでも,スカッフィング及び表面疲労は多く見られる損傷形態であると
同時に,歯車の寿命に重大な影響を与えるため,2.4及び2.6に独立して取り上げる。
したがって,ここに含まれる損傷形態は,次による。
− 正常摩耗
− スクラッチング
− アブレシブ摩耗
− 凝着摩耗
− 摩滅
− 干渉摩耗
− 腐食
歯車における摩耗の分類法は,損傷の発生原因を基にしたものと,損傷部の見かけ上の違いを基にした
ものとが混在している。その分類の概略を表1に示す。
表1−摩耗の分類
損傷名 原因を基に定義される分類 見かけを基に定義される分類
正常摩耗 軽度の摩耗 実用上無視できる軽度な摩耗。
ポリッシング 歯面の一部又は全面が鏡面。
スクラッチング 歯面に線条痕が目立つ。
アブレシブ摩耗 異物など硬いものによる切削作用。
凝着摩耗 接触面が凝着,引きがし合う。
摩滅 歯が摩耗のためになくなってしまう。
干渉摩耗 かみ合う歯面が干渉し合って発生。
腐食 周辺の流体との化学的又は物理的作用で
歯面が逐次減量する。
スカッフィング 凝着摩耗の一種。歯面の広範囲にわたっ
て一瞬に発生。
表面疲労 接触歯面が繰り返し負荷を受け,疲労に
よって,一部が離,脱落。
――――― [JIS B 0160 pdf 16] ―――――
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2.3.1
正常摩耗(normal wear, running-in wear)
歯車の運転とともに発生する摩耗による歯形変化が,設計の許容値以内の摩耗。
歯面の摩耗は,潤滑油膜の形成状態がよい場合又は軽負荷の場合には摩耗の進行速度が遅く,仕上げ加
工された加工目が長時間にわたって残存する。摩耗が進行するにつれて加工目はなくなる。歯先歯元の修
整量が不足の場合には,主として歯先及び歯元が摩耗する。
損傷を表す用語に“正常”という形容詞を付けるのは異様であるが,摩耗の存在が認められるにもかか
わらず,歯車の機能として何ら劣化している要因はなく,損傷としてみなす必要のないことを表明するた
めに付けたものである。こうした正常摩耗と呼ばれる軽微な摩耗は,歯車の運転に悪い影響を及ぼさない
ばかりか,むしろ摩擦損失動力を低減させるなど恩恵を与えることもある。
運転初期に強い当たりを示す部分だけが脱落し,以降表面に変化の起きない“なじみ”と称する現象も
ここに含まれる。
ここに含まれる損傷形態は,次による。
− 軽度の摩耗
− ポリッシング
図13−正常摩耗の例
図13は,大歯車の歯面に生じた正常摩耗の例である。この正常摩耗は,更に細分化して呼ばれることも
ある。歯形方向の微細な線条傷の密集している領域が軽度の摩耗に相当し,明瞭な線条傷がある場合は,
そのきずをスクラッチングという。歯末面における黒く広がった領域は,加工目がなくなり光沢面をなし,
ポリッシングと呼ばれる。
――――― [JIS B 0160 pdf 17] ―――――
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2.3.1.1
軽度の摩耗(moderate wear)
しゅう動の激しい部分で,摩耗していることが歯形検査によって分かる程度の僅かな摩耗。
歯形修整が施されていない歯車では,歯先及び歯元が最も激しいしゅう動部となる。歯形修整及び歯形
にクラウニングが与えられている歯車では,歯先及び歯の端面から幾分内側に入ったところによって軽度
の摩耗が始まり,歯先近傍及び歯の端面周辺では加工目がそのまま残っている場合が多い。かみ合いピッ
チ点領域は摩耗しないので,ある程度摩耗が進むとピッチ点が歯すじ方向に線となって目視で観察できる
ようになる。
軽度の摩耗とは,このように歯面の状況が使用前の状態から変化するものの,歯車の機能に悪影響を及
ぼすことのない程度のものを指す。
図14−軽度の摩耗の例 [1]
図14は,2年間運転された後の歯面に見られる軽度の摩耗の例である。歯たけ方向の中央部に見える白
い線のところがピッチ点に相当し,運転前からの変化が少ないのでほかと区別して見える。このピッチ点
の上下の黒ずんでいるところが歯当たりの強い領域で,軽度の摩耗をしている。歯先及び歯の端面周辺は
当たりを弱めるためにクラウニングが与えられているので,初期歯面が保存されている。
――――― [JIS B 0160 pdf 18] ―――――
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2.3.1.2
ポリッシング(polishing)
接触面の粗さが少しずつ削られ,きれいな表面になっていく,非常にゆっくりと進行する摩耗。
表面が鏡面に近い状態になることを特徴とする。その程度も,加工目がまだ残っているようなごく僅か
なもの又は歯の一部だけのものから,歯面全体が極めて平たんになり,ときには僅かな波打を伴う場合な
どがある。正常摩耗が長期間にわたり進行し,歯面全体が鏡面に近い状態に達する場合もある。
発生が見られるケースとして,軽度の摩耗が進行する場合以外に,油膜の形成が不十分であったり,潤
滑油中に気泡若しくは水分が混入することによって潤滑状態が悪化する場合又はアブレシブ摩耗が発生
するような条件で運転される場合などがある。
ポリッシング自体は表面が平滑化することで,歯車にとって不都合なことはなく,損傷とみなされない。
しかし,発生原因によっては,ちょっとした外乱因子でスカッフィング,表面疲労などの損傷を引き起こ
しやすい。
図15−ポリッシングの例 [1]
図15は,ポリッシングの例で,歯面は鏡面に近い状態になり,加工目は見当たらない。手前から2枚目
の歯はピッチ点が白く線状に見える。次の歯には前の歯の背面の一部が黒っぽく写って見える。
――――― [JIS B 0160 pdf 19] ―――――
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2.3.2
スクラッチング(scratching)
運転中に滑り方向に付く細かい線条のきず。
滑り面で最も容易に見られる擦過傷がこれに該当する。スクラッチングの発生原因には,歯面同士の凝
着摩耗による場合とアブレシブ摩耗による場合とがある。
凝着摩耗の軽度な場合に見られるスクラッチングは,線条傷の発生が局所的であったり,大きくて深い
きずが入っていることが多く,きずの長さはまちまちで,発生する場所も特定されず,ときには歯面全体
のあちこちに生じることもある。軽度のスクラッチングは,その後の運転に支障がないが,スクラッチン
グの発生状況が時間とともに増加したり,歯面が変化する場合には注意が必要である。
アブレシブ摩耗の初期段階はスクラッチングとなる。アブレシブ摩耗を生じた歯面には,しゅう動方向
にひっかききずが付き,進展するにつれ,表面の荒れることが多いが,ときには磨かれたようにきれいに
なることもある。
a) b)
図16−スクラッチングの例 [1]
図16 a) は,最も軽度なスクラッチングの例である。ほぼ全域に仕上げ加工面が見られる中,滑り方向
の細かいきず(白色)が多数出ている。この線条傷がスクラッチングであり,全体の歯面の状況は軽度の
摩耗に分類される。
図16 b) は,スクラッチングが生じた歯面の一部を拡大したものである。運転時間とともに,加工目で
ある横方向の黒い線が徐々に消え,スクラッチングである白い縦方向の線が増えていくが,その変化が小
さければ正常摩耗でおさまり,損傷に至らない。しかし,加工目が完全に取れて,鏡面状態になったり,
しゅう動傷が徐々に顕著になる場合は本格的な摩耗,又は何らかのきっかけでスカッフィングなど別の損
傷の引き金となりやすいので注意を要する。
――――― [JIS B 0160 pdf 20] ―――――
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JIS B 0160:2015の引用国際規格 ISO 一覧
- ISO 10825:1995(MOD)
JIS B 0160:2015の国際規格 ICS 分類一覧
- 21 : 一般的に使用される機械的システム及び構成要素 > 21.200 : 歯車
- 01 : 総論.用語.標準化.ドキュメンテーション > 01.040 : 用語集 > 01.040.21 : 機械的システム及び構成要素(用語集)