JIS B 8842:2020 クレーン―耐震設計に関する原則 | ページ 2

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地震動の最大加速度の大きさを重力加速度に対する比として表したもの。
3.1.8
刺激係数
多自由度系とみなした各振動モードがクレーン全体の応答にどれだけ寄与しているかを表す係数。刺激
係数の大きさによって地震時にどの振動モードが支配的となるかが分かる。
3.1.9
減衰比
質点·ダッシュポット(粘性減衰器)·ばねからなる振動系において,実際のダッシュポットの大きさと,
振動しないで振動量が単調減少する限界のダッシュポットの大きさである臨界減衰との比。減衰定数とも
いう。
3.1.10
リスク係数
基本地震設計荷重及びつり荷による地震設計荷重を算出するときに,人的被害の可能性,及び二次被害
の可能性を考慮した係数(附属書JCを参照)。
3.1.11
固有振動モード
振動している系内の各点が特定の振動数に対して単振動(線形系の場合)している場合,節及び腹から
なる固有の振動形状。
注記 多自由度系では,同時に二つ以上の固有振動モードが含まれることがある。
3.1.12
有効振動モード質量
各固有振動モードに対応したばね−質量系の質量成分。その総和は系の全質量に一致する。
3.1.13
稼働寿命期間
クレーンを計画したときに想定した使用期間。
3.2 主な記号
この規格で用いる主な記号を,表1に示す。
注記 この規格では垂直とは鉛直のことをいう。
表1−主な記号
記号 説明
KH 設計水平震度
KV 設計垂直震度
Abg 基本水平震度
Asg 地表面の基本震度
fcon 地震動の再現期間及びリスクに関する変換係数
β2 地盤種別補正係数
β3 加速度応答倍率
*

クレーン構造物の減衰比0.025の場合の基本加速度応答倍率
γn リスク係数

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表1−主な記号(続き)
記号 説明
η 減衰比の違いを考慮した加速度応答倍率の補正係数
δ 支持構造物による応答増幅率
ζ 減衰比(減衰定数)
c 垂直震度影響係数
FH リスク係数を考慮しない水平地震設計荷重
FV リスク係数を考慮しない垂直地震設計荷重
FRH,FRV リスク係数を考慮しないつり荷の地震設計荷重(水平及び垂直)
FHr リスク係数を考慮した水平地震設計荷重
FVr リスク係数を考慮した垂直地震設計荷重
FRHr
リスク係数を考慮したつり荷の地震設計荷重(水平及び垂直)
FRVr

4 耐震設計の概念

4.1 一般

  耐震設計に用いる応答解析には,修正震度法,応答スペクトル法及び時刻歴応答法の三つの主な方法が
あるが,この規格では,クレーンの構造特性,設置される地域,地盤性状などを勘案したレベル1地震動
に対して,修正震度法に基づく弾性域内での応力設計(限界状態設計)を耐震設計の基本とする。
ただし,修正震度法に基づく応力設計を行った際,クレーン構造部材が弾性的な応答を示す場合であっ
ても,機種又は構造によっては1次固有振動モード以外の応答が無視できないときがある。また,免震·
制振装置を設置した場合などにおいても適切な検定ができないときがある。このようなケースにおいては,
有限要素法(FEM)などを用いて詳細な解析モデルを構築し,応答スペクトル法,又は適切な地震波を用
いた時刻歴応答法による解析を行い,応力,変位などを算定し,その結果を設計限界応力などの許容値と
比較することによって,耐震性を照査するような設計方法も選択してもよい。
クレーン設置場所の地盤特性を考慮して作成されたレベル1地震動に対応した地震波が得られて,時刻
歴応答法などで安全性及び機能が評価できる環境が整っている場合は,機能を損なわない範囲でクレーン
構造部材が局所的に降伏応力を超えて塑性域に入ることを考慮してもよい。この場合,局所的に若干の塑
性化が発生しても,クレーンの基本的機能及び安全性が維持されることなどの適用する要求性能は,受渡
当事者間で協議して定める。

4.2 修正震度法

  修正震度法(箇条5参照)は,クレーン構造物を1自由度系とみなして,その振動特性から得られる震
度とクレーンの質量による荷重(垂直静荷重)との積として計算される地震設計荷重を,クレーン構造物
に作用する静的な荷重として用いる。震度は,クレーン設置場所,その地盤特性及びクレーンの動的特性,
すなわち3方向(垂直1方向及び水平2方向)の固有周期又は固有振動数,減衰などによって評価する。
この方法は比較的簡便で,その手順は,附属書Aのフローチャートに示すように設計過程の一部となる。

4.3 応答スペクトル法

  応答スペクトル法(箇条6参照)は,クレーン構造物を多自由度系とみなして,地震応答に影響する複
数の振動モードの振動特性からクレーンの地震応答を算定する方法であり,次の場合に適用する。
− 修正震度法によるものより詳細なクレーンの地震応答を必要とする場合。

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− コンピュータを使用した解析が経済的に許容される場合。
応答スペクトル法は線形システムに適用でき,応答特性に非線形性があってもそれが省略可能である非
線形システムならば適用できる。応答スペクトル法は,クレーンの固有周期又は固有振動数と各振動モー
ドの形状とを計算することから始める。地震応答は,クレーン構造物の選択した振動モードから最大応答
加速度(クレーン設置場所の地盤特性とクレーン構造物の減衰特性とを考慮した応答スペクトルから選択
する。),振動モード形状,振動数又は周期,及びクレーンの質量分布を用いて計算する。

4.4 時刻歴応答法

  時刻歴応答法(箇条8参照)は,クレーン構造物をFEMなどによってモデル化した上で,地表面に時
間とともに変化する地震動を与え,クレーンの地震応答を求める方法であり,次の場合に適用する。
− クレーンの詳細な地震応答を求める必要がある場合(附属書D参照)。
− 非線形性(塑性変形,材料の弾塑性特性及びギャップ,摩擦,車輪のレールからの浮上り,及びワイ
ヤロープの緩みなどの非線形特性)があって,これを考慮する必要がある場合。
− コンピュータの使用による高い費用が許容される場合。
時刻歴応答法では,クレーン設置場所における代表的な地震動を入力し,クレーン構造物(必要であれ
ば,クレーンの支持構造物を含む。)の運動方程式を数値的に解くことによって,時刻ステップごとの集積
による地震応答を評価する。

5 修正震度法による地震設計荷重の算定

5.1 一般

  地震時に励起されるクレーンの振動モードのうち,最も重要な1次固有振動モードに着目して震度を求
め,それに対応した地震設計荷重をクレーンの質量による荷重(垂直静荷重)などの荷重と組み合わせる
ことで,部材に生じる応力,変位などを算定し,設計限界応力などの許容値と比較検討することによって
耐震性を照査する。その手順を附属書Aに示す。
なお,修正震度法に基づく応力設計を行わない場合は,合理的な根拠がある場合に限って,例えば適切
な入力地震波を用いて動的応答解析を行うなどの方法を選択することも可能である。ただし,修正震度法
に基づく応力設計以外の方法を選択した場合にあっても,修正震度法に基づく一次評価を行い,両者の結
果を比較して差異が生じた場合,その要因を分析して,両者から得られた結果の妥当性を評価する。
クレーンに作用する地震設計荷重又は設計地震加速度は,水平及び垂直の設計震度(KH,KV)を用いて
計算する。クレーンのリスクに応じて,箇条7に規定する1以上のリスク係数γnを適用する。

5.2 設計水平震度KHの計算

5.2.1 一般
設計水平震度KHは,式(1)から求める。
KH=Abg×β2×β3×fcon=Asg×β3×fcon (1)
ここに, Abg : 基本水平震度(5.2.2参照)
Asg : 地表面の基本震度
β2 : 地盤種別補正係数(5.2.3参照)
β3 : 加速度応答倍率(5.2.4参照)
fcon : 地震動の再現期間及びリスクに関する変換係数
再現期間475年相当(5.2.2参照)の地震動を,クレーン構造物が耐えられるSLSとしての再現期間72
年相当の中地震動に変換すること,及びリスク係数を考慮することでfcon=0.16としている。

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基本震度Abg及びAsgの方向は,他の地震学的な考慮がない場合は,任意とする。すなわち,クレーン構
造物への影響が最大となる方向の地震動を適用する。
地震荷重の作用する方向がレールと平行(レール方向という。)で,クレーンが基礎地盤などに拘束され
ていない場合のKHは,滑りの摩擦係数を考慮して式(2)から求める。
b
KH 3.0 (2)
a
ここに, KH : 設計水平震度
a : 総車輪数
b : 制動車輪数
なお,全高と車輪幅とのアスペクト比が大きく,かつ,両脚の制動車輪数が等しくないクレーンにあっ
ては,モーメントを考慮してKHを決定する。ただし,KHの最小値は0.10とする。
5.2.2 基本水平震度Abgの算定
基本水平震度Abgは,附属書B及び式(3)から求める。
Abg=ag/g (3)
ここに, ag : 最大基本水平加速度(m/s2)
g : 自然落下の加速度(重力加速度)(m/s2)
5.2.3 地盤種別補正係数β2の算定
地盤種別補正係数β2は,地震動が基盤から表層地盤を伝わって地表面に達する間の増幅及び周期の影響
を表す。図1に地震動伝ぱ(播)の原理を示す。
1 地表面の加速度(記録された加速度) この規格では,最大値をAsgとする。
2 岩盤
3 軟質から中間堅さの表層地盤
4 堅い表層地盤
5 基本水平震度Abg(基盤の加速度)
図1−地盤種別補正係数β2の図解

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表2の地盤種別は,深さ30 mまでの地盤の平均せん断波速度Vs,30によって分類される。クレーン設置
場所の地盤種別によって,この表からβ2の値を選択する(附属書JA参照)。
表2−地盤種別補正係数β2の決定及び値
種別 地盤の種類 平均せん断波速度 β2
Vs,30[m/s]
地盤種別0 第三紀以前の岩盤 800超 1.0
岩盤が砂,砂利,又は堅い粘土によって覆われた堅い
地盤種別1 360を超え,800以下 1.4
砂地の土壌によって構成される堅い地盤
地盤種別2 地盤種別1と3との中間 180を超え,360以下 1.6
沖積層又はその深さが30 m以上の中間から柔らかな土
地盤種別3 180以下 2.0
壌によって構成される中間から柔らかな地盤
5.2.4 加速度応答倍率β3の算定
5.2.4.1 一般
加速度応答倍率β3は,次によって決める。
a) クレーンの支持構造物がある場合,その動特性
b) 地震によって励起される振動モードのうち,クレーンの方向を考慮して最も重要な振動モードの固有
振動数又は固有周期
c) 振動モードの減衰比
d) クレーン設置場所の地盤種別
最も地震の影響を受ける振動モードの固有振動数又は固有周期として,計測又はコンピュータを使用し
た計算で得られる1次の振動モードに着目する。
β3は,式(4)から求める。
*
β3= 3β×η×δ (4)
3β : クレーン構造物の減衰比を0.025とした場合の基本加速
ここに, *
度応答倍率(5.2.4.2参照)
η : 減衰比の違いを考慮した加速度応答倍率の補正係数
(5.2.4.3参照)
δ : 支持構造物による応答増幅率(5.2.4.4参照)
*
5.2.4.2 基本加速度応答倍率 3β
クレーン構造物の固有振動数又は固有周期及びクレーン設置場所の地盤種別による値を,図2に示す。
天井クレーン,コンテナクレーンなどの橋形クレーンの固有周期は,附属書JBに示す簡易計算法を用
いて求めてもよい。

――――― [JIS B 8842 pdf 10] ―――――

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JIS B 8842:2020の引用国際規格 ISO 一覧

  • ISO 11031:2016(MOD)

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