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完全に満足する状態 全く満足しない状態
図E.3−使用性パラメータλの関数である使用性の程度μ
E.4 信頼性レベルの規定値
E.4.1 人々の安全性
構造信頼性は,第一に,破損の結果人々が死傷するかもしれないという点において重要である。そのよ
うな場合の破損確率の許容最大値は,ほかの事象が引き起こすリスクと比較することによって決められる
場合もある。
E.4.2 経済的最適化
経済的な観点から,目標信頼性水準は,破損時損失と安全対策費とのバランスに依存する必要がある。
形式的には,総ライフタイムコストCtotを最小化することを目的とすると,
Ctot=Cb+Cm+ΣPf Cf (E.4)
ここに, Cb : 建設費用
Cm : 維持管理,取壊しの期待費用
Cf : 破損時費用
Pf : ライフタイムの破損確率
総和は全ての(独立した)破損モード及び荷重組合せである。この式(E.4)は,非常に単純化されている
ので,実際に使う場合は,手を加える必要がある。
また,代わりにΣPf Cfが保険でカバーされることを考慮することもある。
E.4.3 キャリブレーションの例
一般には,上記の原則を直接実務に適用するのは非常に難しい。それは,設計段階での机上の破損確率
と実際の破損の頻度(かなりの部分はヒューマンエラーによる。)とが,本質的に異なることによる。この
ような理由から,目標信頼性水準をキャリブレーションによって決めることが多い。キャリブレーション
で求めた信頼性水準は,ある特定の構造と確率モデルとに依存していることに注意する必要がある。別の
モデルを使うと,予想外に高い又は低い信頼性水準をもたらしかねない。
信頼性の数値は,β=−Φ−1(Pf)で定義される信頼性指標βで表すことが多い。βとPfとの関係を表E.1
に示す。
表E.1−βとPfとの関係
Pf 10−1 10−2 10−3 10−4 10−5 10−6 10−7
β 1.3 2.3 3.1 3.7 4.2 4.7 5.2
――――― [JIS B 9955 pdf 51] ―――――
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表E.2は,破損時損失と安全設計に関わるコストとに依存したライフタイムの目標信頼性指標のキャリ
ブレーション例を示している。
表E.2−目標信頼性指標(ライフタイム,例)
安全性の 破損の頻度
相対コスト 小 時々 中 大
高 0 1.5 a) 2.3 3.1 b)
中 1.3 2.3 3.1 3.8 c)
低 2.3 3.1 3.8 4.3
注a) 使用限界状態では,可逆的なものはβ=0を,非可逆的なものはβ=1.5を使う。
b) 疲労限界状態では,検査の可能性に依存してβ=2.3からβ=3.1を使う
c) 終局限界状態では,安全性クラスに応じてβ=3.1, 3.8, 4.3を使う。
これらの値は,耐力については対数正規又はワイブルモデルを仮定し,一般荷重については正規モデル,
ランダム荷重についてはグンベルの極値モデルを仮定し,E.6.2に従った設計値法から導かれている。表
E.2で与えられる値を破損計算に用いる場合は,耐力及び荷重について同様の仮定を用いることが重要で
ある。
最後に,βとそれに対応する破損確率は形式的又は概念上の数値であり,構造破損の頻度を記述するよ
りも,設計則を作るための道具として意図されたものであることに留意するのが望ましい。
E.5 破損確率の計算
E.5.1 時間非依存問題
全ての基本変数Xが時間に依存しないとみなせる比較的単純なケースでは,破損確率Pfを式(E.5)によっ
て計算する。
X
Pf f Xd (E.5)
破損領域
ここに,fX(X)は,基本変数X(確率過程ではない。)の結合確率密度関数である。破損領域は,一般的に
gij(X)≦0の積集合又は和集合で与える。jは部材の数で,iは破損モードの数である。
破損確率は,次の方法で計算するか,これらの方法の組合せによって計算する。
− 厳密な解析的方法
− 数値積分方法
− 近似解法(FORM又はSORM)4)
− シミュレーション手法
注4) ORMは一次近似信頼性手法(First Order Reliability Method)の略である。SORMは二次近似
信頼性手法(Second-Order Reliability Method)を表す。詳細については,例えば,“機械構造
物の信頼性設計ガイドライン”日本機械学会(2013)を参照。
ある場合には,式(E.5)を解析的に積分できる。確率変数の数nが少ないとき,例えばnが5以下くらい
であれば,各種の数値積分をうまく適用できることもある。
FORMの主なステップを次に示す。
− 変数Xを標準正規変数Uの空間に変換し,それに相当する限界状態曲面g(X)=0もgU(U)=0へ変換す
る。
− FORMでは限界状態曲面gU(U)=0は,原点から最短距離にあるgU(U)=0の点である設計点において
――――― [JIS B 9955 pdf 52] ―――――
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接する超平面で近似する。
− FORMを用いると破損確率はPf=Φ(−β)で与えられる。ここに,βは原点から設計点までの距離であ
る。
この解析的方法は限界状態曲面gU(U)=0を設計点の二次曲面で近似することによって,精度を上げるこ
とができる場合もある(SORM)。
シミュレーション手法には次の二つがある。
− 非解析的な方法に基づく0-1指標によって,確率変数Xの原空間で計算する。
− 準解析的な方法である条件付期待値法によって計算する。
0-1指標による方法は,次を含む。
− もとの確率密度として標本密度を用いた直接モンテカルロ・シミュレーション
− モンテカルロ法に設計点近傍での密度(架空)関数を用いた重点サンプリング
− 重点サンプリングを密度関数の連続的更新に適用する適合性サンプリング
条件付期待値法には,次のような方法がある。
− 軸方向シミュレーション(和事象に適する。)
− 直交シミュレーション(積事象に適する。)
E.5.2 時間依存問題の時間非依存問題への変換
時間依存問題には,次の二つの種類がある。
− 過負荷破損
− 累積破損
時間依存性は,荷重及び/又は強度(劣化)の変動に起因する。一般に,時間に依存する量は確率過程
で表現する必要がある。
過負荷破損の場合,単一の荷重の負荷過程は,破損確率を計算する対象期間にわたる不確かさを表す確
率分布に置き換える。平均値としては,基準期間における最大値の期待値をとり,そのランダムな不確か
さを考慮する。
累積破損のうち,例えば,疲労破損の場合,限界状態関数はS-N線図とMiner-Palmgren則とによって定
式化する。この場合,限界状態関数は,ある与えられた期間について時間に依存しなくなる。
E.5.3 一般問題
一般的に,破損確率の計算は式(E.6)を決定することに関係している。
Pf P gj X,t ,0t
寰
,0t (E.6)
k j ck
ここに,ckはk番目のカットセットを示す。システムは,一般的に直列系と並列系との組合せからなる。
式(E.6)は,あるシステムが直列系をなすカットセットから構成され,更に各カットセットが並列系をなす
要素から構成される場合,いずれかのカットセット内の全ての要素が破損するとシステムが破損に至り,
要素の破損に関するこの特定の組合せの発生確率が,システムの破損確率であることを示している。また,
システムが並列系をなす要素から構成され,そのシステムに対して複数の破損モードが存在する場合,式
(E.6)は,システムの破損確率は,各破損モードによる破損確率の足し合わせであることを示している。
なお,時間依存性は,荷重及び/又は強度(例えば,強度低下によって)に関係している。幾つかの基
本変数Xは時間及び空間の関数で,微分又は積分の表現を含むことがある。
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E.6 設計値法
E.6.1 一般
対象となる限界状態は,荷重又は材料特性などの変数X1, X2, ···, Xnの,一つ又は複数の関数g(···)で表す
解析モデルによって規定できると仮定する。機械製品が破損しない条件は,式(E.7)で表される。
g(X1, X2, ···, Xn)≧0 (E.7)
そのとき,設計の要求は,次のように表される。
g(X1d, X2d, ···, Xnd)≧0 (E.8)
ここに,X1d, X2d, ···, Xndは,E.6.2で定義する設計値である。
E.6.2 FORMに従った設計値
変数Xiの設計値Xidは,次に依存する。
− 変数Xiのパラメータ
− 仮定された分布形
− 限界状態及び対象となる設計状況に関する目標信頼性指標β(E.4.3参照)
− FORMによって定義される限界状態上のXiの変動への感度を表す係数αi(E.5.1参照)
任意分布F(xi)では,設計値は式(E.9)によって与えられる。
F(xid)=Φ(−αiβ) (E.9)
xiが正規分布であれば,式(E.10)となる。
xid=μi(1−αiβVi) (E.10)
対数正規分布であれば,式(E.11)となる。
xid=ξiexp(−αiβνi) (E.11)
ここに,
μi
ξi
2
1 Vi
2
vi ln 1Vi
変動係数Viが小さいとき,例えば,Vi≦0.25のとき,ξiμi及びνiViである。
E.6.3 FORMによる感度係数
確率変数が互いに独立している場合,FORMの解析で得られる係数αiは,次の特性をもつ。
−1≦αi≦1 (E.12)
Σαi2=1 (E.13)
αiの値は,一般に,多くの代表的なFORMの計算結果に基づき設定することが望ましい(E.5参照)。一
般的にこれには,多くの繰返し計算が必要となり,手間がかかる。したがって表E.3に示すαiの標準値が
経験的に作成された。ただし,安全側に考えて,平方和は1.0より大きくなる場合がある。また,表E.3
を用いた場合の誤差を制限するために,通常0.16<σS/σR<6.6であることが要求される。ここに,Sは主た
る荷重変数,Rは主たる強度変数である。
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表E.3−αの標準値a)
Xi αi
主たる強度変数 0.8
ほかの強度変数 0.4×0.8=0.32
主たる荷重変数 −0.7
ほかの荷重変数 −0.4×0.7=−0.28
注a) αの標準値を使った考え方は,既にISO 2394:1986の附属書Bに示
されており,そこでも,表E.3と同じαの値が提案されている。
表E.3を適用するとき,どの変数が“主たるもの”かは事前には分からない。見つけ出す唯一の方法は,
全ての変数を“主たるもの”として扱い,どの変数が設計を支配しているかを調べることである。この作
業は,設計規準作成者が行う場合もあるし,設計者が行う場合もある(例えば,多くの負荷ケースを確認
して行われる。)。
例 初歩的なケースとして正規分布する耐力パラメータRと荷重パラメータSとを考える。目標信頼
性指標をβ=3.8とすると,式(E.10)から次のようになる。
Rd=μR3.04σR,及び Sd=μS+2.66σS
式(E.8)に戻って,この場合は,Rd>Sdを検証する。
E.6.4 感度解析の適用
全ての変数の確率特性が与えられる場合,破損確率は,FORM,SORMなどの近似解法,モンテカルロ
法などのシミュレーション手法を用いて求めることができる。しかし,現実の問題では複数の変数の確率
特性を与えることは困難である場合が多く,破損確率に影響を与える変数についてだけ確率特性を与え,
その他の変数については定数として取り扱うことが必要となる。
複数ある変数のうち,どの変数が破損確率に影響を与えるかを解析するのに感度解析を用いることがで
きる。ここでは,感度の定義とAFOSM(拡張一次近似二次モーメント法)とを組み合わせた感度解析の
方法について示す。
破損確率Pfを,不確実性を含む主要な変数X=X1, X2, ···, Xnの関数として,次のように表現する。
Pf=Pf (X1, X2, ···, Xn)
この場合,次の三つの感度を定義する。
Pf
物理的感度 ηi i ,2,1,n (E.14)
Xi
P Pf σXi σXi
確率的感度 ηi ηi i ,2,1,n (E.15)
Xi σPf σPf
R Pf Xi Xi
変動率感度 ηi ηi i ,2,1,n (E.16)
Xi Pf Pf
ここに, σは破損確率の標準偏差,
fP σは各確率変数の標準偏差,
Xi
fPは破損確率の平均,
Xは各確率
i
変数の平均である。
物理的感度とは,破損確率Pfのそれぞれの確率変数に対する勾配である。破損確率に対してそれぞれの
確率変数が与える影響を直接的に表現することができる一方で,変数の確率特性が考慮されていないので,
物理的感度によって,どの変数を定数として確率変数として取り扱うかの判断には用いることができない。
確率的感度及び変動率感度は,変数の確率特性を考慮した感度である。確率的感度は,破損確率Pf,確
率変数をそれぞれの標準偏差で正規化した感度であり,変動率感度はそれぞれの平均で正規化した感度で
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