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に対するリスク推定は異なるという難しさのため,この細分箇条は,一般的に記載している。医療機器が
正常に機能している場合にも,また,不具合を生じている場合にも,危険状態が発生し得るため,いずれ
の状況も厳密に調査することが望ましい。実際には,リスクの構成要素である危害の発生確率及び重大さ
の両方について個別に分析することが望ましい。製造業者が危害の重大さレベル又は発生確率を体系的な
方法で分類する場合は,その分類表を定義し,リスクマネジメントファイルに記録することが望ましい。
これは製造業者が,同じレベルをもつリスクを整合的に扱うことを可能とし,製造業者がそのように実施
したという証拠になる。
系統的な故障又は一連の事象が原因となって発生する危険状態もある。系統的な故障の確率を計算する
ための広く認められた方法はない。危害の発生確率が計算可能でない場合でも,ハザードには対処する必
要があり,製造業者は,危険状態のリストを個別に作成することによって,これら危険状態によるリスク
の低減が図れることになる。
特に全く新規の医療機器を開発する際又はセキュリティリスクに対しては,十分な定量的データが利用
可能でない場合も多い。したがって,リスク推定は必ず定量的に行うことが望ましいという表現は避けた。
A.2.6 リスク評価
リスクの受容可能性について決定することが必要である。製造業者は,リスクマネジメント計画で定義
したリスクの受容可能性についての判断基準によって,推定したリスクを評価する。製造業者は,どのリ
スクをコントロールする必要があるかを判断するためにリスクを調査することが可能である。箇条6は,
この規格の利用者が不必要な作業を行わなくてよいよう規定した。
A.2.7 リスクコントロール
A.2.7.1 リスクコントロール手段の選択
リスクを低減する方法は,多くの場合,複数ある。三つの手段を列挙しているが,これらは,いずれも
標準的なリスク低減手段であり,JIS T 0063:2020[2]から抜粋した。列挙した優先順位は重要である。この
原則は,IEC TR 60513 [11]でも採用されている。設計及び製造による本質的な安全は,リスクコントロー
ル手段の選択においては,最初に検討すべき最も重要な選択肢である。なぜならば,医療機器の特性に本
来備わるような設計による解決策は,継続して有効である可能性があるが,それに対して,ガード及び保
護手段はうまく設計しても故障する又は破壊される可能性があり,安全に関する情報に従わないことがあ
ることが経験上示されているからである。実施可能な場合,医療機器は,本質的に安全であるように設計
及び製造されることが望ましい。これが実施可能でない場合には,防壁(バリア)又はアラームのような
保護手段が適切である。第三の選択肢は,文書による警告又は禁忌などの安全に関する情報を提供するこ
とである。ユーザートレーニングは,安全に関する情報を提供する上で重要な意味をもつ可能性がある。
製造業者は,意図するユーザーに対して必須のトレーニングを提供することが検討可能である。
製造プロセスは,例えば,部品の汚染,プロセスで使用する有害物質の残留又は部品の取り違えなどに
起因するリスクにつながることがある。そうしたリスクは,製造プロセスを本質的に安全に設計すること
(例えば,有害物質を使うのをやめる又は別の製造ラインを用いる)又は保護手段をとること(例えば,
プロセス内の目視検査)によってコントロール可能である。
リスクコントロール手段の選択の結果の一つとして,事前に決めたリスク受容可能性についての判断基
準に従ってリスクを受容可能なレベルまで低減するための実施可能な方法がない場合がある。例えば,全
ての残留リスクが受容可能であるような生命維持医療機器の設計は,現実的ではないかもしれない。この
場合は,患者に対する医療機器のベネフィットが残留リスクを上回るかどうかを判断するため,7.4に記
――――― [JIS T 14971 pdf 26] ―――――
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T 14971 : 2020 (ISO 14971 : 2019)
載するベネフィット·リスク分析が実施可能である。事前に決めた受容可能なレベルまでリスク低減する
ため最初にあらゆる手段を施すことを確実にするため,この選択に関して7.1に含めている。
A.2.7.2 リスクコントロール手段の実施
二つの異なる検証がある。第1の検証は,医療機器の最終設計又は製造プロセスにおいてリスクコント
ロール手段が実施されたことを確認するために要求される。第2の検証は,実施したリスクコントロール
手段(安全に関する情報を含む)が実際にリスクを低減していることを確実にするためである。場合によ
っては,バリデーションを,リスクコントロール手段の効果を検証するために用いることが可能である。
リスク推定の十分なデータ及び情報を得ることは難しく,結果として残留リスクの評価の不確かさにつ
ながる。そのため,残留リスクの評価が納得できるものになるように,製造業者は,リスクコントロール
手段の有効性の検証に労力を集中することが実際的である。労力のレベルはリスクのレベルに見合ったも
のとすることが望ましい。ユーザーに対する試験が,リスクコントロールの有効性を検証するために必要
になるかもしれない。例えば,ユーザビリティ試験(JIS T 62366-1 [13]参照),医療機器の臨床試験(ISO
14155[6]参照),体外診断用医療機器の臨床性能試験(ISO 20916[8]参照)などである。ユーザビリティ試
験によって安全に関する情報の有効性が検証可能である。試験規格に従って試験をすることで,例えば,
機械的強度などに関する,設計したリスクコントロール手段の有効性が検証可能である。
A.2.7.3 残留リスクの評価
残留リスクの評価は,実施したリスクコントロール手段によってリスクが受容可能になったかどうかを
判断するために導入された。リスクがリスクマネジメント計画で確立した受容可能性の判断基準を超える
場合には,製造業者は,追加のリスクコントロール手段を調査するように指示される。それ以上のリスク
コントロールが現実的でなく,残留リスクがリスクマネジメント計画で確立した受容可能性の判断基準を
超えることがなくなるまで,残留リスクの評価を繰り返し行うことが望ましい。
A.2.7.4 ベネフィット·リスク分析
リスクが製造業者のリスク受容可能性の判断基準を超えるような,特定の危険状態が発生する場合もあ
る。この細分箇条は,製造業者が慎重な評価を実施し,かつ,医療機器のベネフィットが残留リスクを上
回ることが示せた場合には,判断基準を上回る高い残留リスクがあっても医療機器を提供可能にするもの
である。しかし,この細分箇条は,経済的利点又はビジネス上の利点が残留リスクを上回るかの判断(す
なわち,ビジネス上の意思決定)には使用可能ではない。
A.2.7.5 リスクコントロール手段によって発生したリスク
リスクコントロール手段を単独で用いるか,又は組み合わせることによって,新たな全く異なるハザー
ド又は危険状態が発生する可能性があること,さらに,あるリスクを低減するために導入したリスクコン
トロール手段が別のリスクを増加させる可能性があるため,この細分箇条を設けた。
A.2.7.6 リスクコントロールの完了
この時点では,特定した全ての危険状態についてのリスク評価が終了していることが望ましい。複雑な
リスク分析において,全ての危険状態に関係したリスクを検討したかを確認するようにするためである。
A.2.8 全体的な残留リスクの評価
箇条5箇条7で規定したプロセスに従い,製造業者は,ハザード及び危険状態を特定し,リスクを評
――――― [JIS T 14971 pdf 27] ―――――
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T 14971 : 2020 (ISO 14971 : 2019)
価し,医療機器の設計において個々のリスクコントロール手段を実施する。製造業者は,この時点で振り
返り,残留リスク全ての組合せによる影響を検討し,医療機器の開発を続けるか否かの決定を行う。個々
の残留リスクは受容可能であっても,全体的な残留リスクが製造業者のリスク受容可能性の判断基準を上
回る可能性がある。これは,多数のリスクを伴う,複雑なシステム及び医療機器の場合に特に当てはまる。
リスクマネジメント計画で定めた,全体的な残留リスクを評価する方法には,全体的な残留リスクと医療
機器のベネフィットとのバランスをとることが含まれる。これは,リスクは高いが極めて有益な医療機器
を商品化してもよいかどうかを判断する場合に特に関係する。
製造業者は,重要な残留リスクに関連のある情報をユーザーに提供する責任があり,これによってユー
ザーは医療機器の使用について,情報に基づいて判断することが可能になる。したがって,製造業者は,
附属資料に残留リスクに関連する情報を含めることを指示されている。ただし,どの残留リスクに関する
情報を,どれくらい提供すべきかについては,製造業者が決定する。この要求事項は,多くの国及び地域
で採用されているアプローチと一致している。
A.2.9 リスクマネジメントのレビュー
リスクマネジメントのレビューは,医療機器の市場出荷前の重要なステップである。リスクマネジメン
ト計画を実行することによって得られる,リスクマネジメントプロセスの最終的な結果をレビューする。
リスクマネジメント報告書は,このレビューの結果を含み,リスクマネジメントファイルの重要な部分で
ある。この報告書は,リスクマネジメント計画が適切に実行され,製造業者が,要求された目的を達成し
たことを確認した証拠となる重要な文書である。リスクマネジメント計画を実行した後に行うレビュー及
びリスクマネジメント報告書の更新が,医療機器のライフサイクルを通して,製造及び製造後の活動の実
行結果として必要となることがある。
A.2.10 製造及び製造後の活動
医療機器が製造段階に入ってもリスクマネジメントを継続することが必要である。リスクマネジメント
は,医療機器の試作品がない,構想の段階で開始することがしばしばある。製造業者は,類似の医療機器
及び類似の技術に関する経験を含む,多くの情報源からの情報を収集する。設計プロセスを実施していく
中でリスク推定の精度が高まり,実際に機能する試作品ができると,更に正確になっていく。しかし,実
際のユーザーがどう医療機器を使うかは推定しきれない。
したがって,製造業者は,製造及び製造後情報を収集し,レビューして,その安全との関係を評価する
必要がある。その情報は,新たなハザード又は危険状態に関連することがあり,リスク推定又はベネフィ
ットと全体的な残留リスクとのバランスに影響することがある。いずれの情報も製造業者のリスクマネジ
メントにおける決定に影響することがある。製造業者は,新規又は改正された規格を含む,一般に認めら
れた最新の技術水準についても考慮することが望ましい。情報が安全に関連すると判断した場合は,リス
クマネジメントプロセスでは,その情報を医療機器の変更のインプットとして,及びプロセス自体を改善
するためのインプットとしても検討する必要がある。効果的な製造及び製造後の活動によって,リスクマ
ネジメントプロセスは,医療機器が継続的に安全であることを確実にするための,真に反復的なクローズ
ドループのプロセスとなる。
フィードバック,追加指針を求める要求及び規制要求事項の変化に応え,JIS T 14971:2020では製造及
び製造後の活動に関する要求事項を詳細に規定している。この箇条は,複数の細分箇条に分割した。一般
に認められた最新の技術水準についての情報及びサプライチェーンからのフィードバックを含む,情報源
を追加して列挙している。サプライチェーンには,部品又はサブシステムのほかにサードパーティ製ソフ
トウェアの供給者も含む。既に市場にある医療機器に関する処置の必要性の有無がより明確にされている。
――――― [JIS T 14971 pdf 28] ―――――
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T 14971 : 2020 (ISO 14971 : 2019)
フォローアップの処置を検討する必要がある状況は,安全に関係する可能性のある最新の技術水準の変化
に伴って拡張される。例えば,新しい医療機器及び/又は治療方法が市場で利用可能になる,リスクの認
知又はリスクの受容可能性に変化がある,などである。
――――― [JIS T 14971 pdf 29] ―――――
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T 14971 : 2020 (ISO 14971 : 2019)
附属書B
(参考)
医療機器のリスクマネジメントプロセス
B.1 第2版と第3版との対応
JIS T 14971:2020では,箇条及び細分箇条の番号付けを変更した。表B.1にJIS T 14971:2012(第2版)
とJIS T 14971:2020(第3版)との箇条及び細分箇条の対応を示す。この表は,この規格の利用者が第2版
から第3版へ移行することを支援し,この規格を参照している他の規格の更新を容易にするために用意し
た。
表B.1−JIS T 14971:2012及びJIS T 14971:2020の要素の対応
JIS T 14971:2012 JIS T 14971:2020
序文
序文
1 適用範囲
1 適用範囲
(新しい箇条) 2 引用規格
2 用語及び定義 3 用語及び定義
2.1 附属文書 3.1 附属資料
(新しい用語) 3.2 ベネフィット
2.2 危害 3.3 危害
2.3 ハザード 3.4 ハザード
2.4 危険状態 3.5 危険状態
2.5 意図する使用(意図する目的) 3.6 意図する使用,意図する目的
2.6 体外診断用医療機器 3.7 体外診断用医療機器
2.7 ライフサイクル 3.8 ライフサイクル
2.8 製造業者 3.9 製造業者
2.9 医療機器 3.10 医療機器
2.10 客観的証拠 3.11 客観的証拠
2.11 製造後 3.12 製造後
2.12 手順 3.13 手順
2.13 プロセス 3.14 プロセス
(新しい用語) 3.15 合理的に予見可能な誤使用
2.14 記録 3.16 記録
2.15 残留リスク 3.17 残留リスク
2.16 リスク 3.18 リスク
2.17 リスク分析 3.19 リスク分析
2.18 リスクアセスメント 3.20 リスクアセスメント
2.19 リスクコントロール 3.21 リスクコントロール
2.20 リスク推定 3.22 リスク推定
2.21 リスク評価 3.23 リスク評価
2.22 リスクマネジメント 3.24 リスクマネジメント
2.23 リスクマネジメントファイル 3.25 リスクマネジメントファイル
2.24 安全 3.26 安全
2.25 重大さ 3.27 重大さ
(新しい用語) 3.28 最新の技術水準
2.26 トップマネジメント 3.29 トップマネジメント
2.27 誤使用 3.30 使用エラー
――――― [JIS T 14971 pdf 30] ―――――
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JIS T 14971:2020の引用国際規格 ISO 一覧
- ISO 14971:2019(IDT)