JIS B 9955:2017 機械製品の信頼性に関する一般原則 | ページ 9

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注記3 ある構造特性が,系統的には変動しない一つ又は幾つかの荷重効果に依存する場合,これ
らの荷重効果を設計値によって規定するのがよい。それらが載荷経路のほかのパラメータ
と独立していれば,想定される荷重組合せの値に関わる設計値を使うことができる。
h) 試験準備(載荷装置及び支持装置が十分な強度と剛性があること,変形に対して十分なクリアランス
があることなどを確認する方策も含まれる。)
i) 観測点及び観測・記録方法(例えば,変位・速度・加速度・ひずみ・力・圧力の時刻歴,必要な計測
頻度・計測精度,計測装置)
D.5 強度試験結果の直接評価
D.5.1 一般
D.5では,強度試験データから設計強度を評価するための手法を示す。評価に当たっては,次の二つの
条件を仮定する。
a) 構造要素の強度又は材料強度が強度試験によって直接評価される。
b) 供試体強度は単一の量で代表され,考慮する破損メカニズムは全ての強度試験に対して最も厳しい。
部分係数による設計に対しては,D.5.2に示すように古典的方法とベイズ法との二つの手法がある。通常,
これらの方法による評価結果はあまり変わらないが,両方の方法で試験結果の評価を行い,その結果を比
較することが望ましい。両者の値が大きく異なる場合は,より保守的な値を採用することが望ましい。
一方,一般的な確率に基づく設計に対しては,D.5.3に示すようにベイズ法における強度の統計的パラメ
ータに関する事前分布を更新するために強度試験データを使用することができる。
D.5.2 部分係数による設計の場合
D.5.2.1 古典的方法
この方法では,設計強度Rdを式(D.1)で計算する。
Rk,estη
Rd (D.1)
γm γRd
ここに, Rk, est : 強度試験によって統計的に決定された強度の下限特性値Rkの
推定値
γm : 材料強度の部分係数
変換係数又は修正係数の平均値
γRd : モデルの不確かさを考慮する係数
部分係数γmは,材料の種類及び破損モードを考慮して適切な値を採用する。ただし,信頼できる部分係
数を選択することができない場合には,ベイズ法を採用することが望ましい。
モデルの不確かさ係数γRdは,試験の目的,限界状態の要求事項,破損モード,及び製造現場の状況に
関する情報を考慮して,研究者が事前に定義するが,一般にはγRd≧1.0である。ただし,事前に定義され
たγRdの値は,製造現場の状況に関する判断に基づいて設計者が修正してもよい。
強度の下限特性値の推定値Rk,estは,正規分布を仮定し,少なくとも0.75の信頼水準で強度試験結果から
式(D.2)によって求める。
mR
Rk,est kssR (D.2)
ここに, mR : 標本平均値
sR : 標本標準偏差
ks : 標本数に応じた係数
ksの値は試験数n,非超過確率P,及び選択した信頼水準に依存するが,ほかの情報がない場合は,非超

――――― [JIS B 9955 pdf 41] ―――――

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過確率を0.05とする。信頼水準0.75の場合の非超過確率0.01,0.05,0.10に対するksの値を表D.1に示す。
表D.1の値は,非心t-分布3)に基づいている。
注3) 詳細については,ISO 12491:1997参照。
式(D.2)の標本標準偏差sRが事前に既知であるとみなせる場合には,式(D.3)で推定する。
σk
Rk,estmR R (D.3)
ここに, mR : 標本平均値
σR : 分布の標準偏差
kσ : 標本数に応じた係数
信頼水準0.75の場合のkσの値を表D.2に示す。
注記1 上記の手順では,正規分布を仮定している。この仮定は,相対的に安全側の仮定とみなされ
る。現実に近い分布として,対数正規分布又はワイブル分布を使用することも可能であり,
その場合にはより経済的な設計値が得られる可能性がある。ただし,そのような分布形を使
う際には,多くの試験による証明が必要である。それらの試験の評価の際には,分布形全体
の形[特にひずみ(歪)度]と下側の裾野の形とに特に注意する必要がある。
注記2 この方法では,特性値の評価にだけ統計的不確かさが考慮されており,特性値から設計値を
決定するステップには,統計的不確かさは含まれていない。このような取扱いは,ある種の
状況下では楽観的過ぎるかもしれない。
表D.1−ksの値 : σRが未知の場合(信頼水準=0.75)
確率 試験数,n
P 3 4 6 8 10 20 30 100 ∞
0.10 2.50 2.13 1.86 1.74 1.67 1.53 1.47 1.38 1.28
0.05 3.15 2.68 2.34 2.19 2.10 1.93 1.87 1.76 1.64
0.01 4.40 3.73 3.24 3.04 2.93 2.70 2.61 2.46 2.33
表D.2−kσの値 : σRが既知の場合(信頼水準=0.75)
確率 試験数,n
P 3 4 6 8 10 20 30 100 ∞
0.10 1.67 1.62 1.56 1.52 1.50 1.43 1.40 1.35 1.28
0.05 2.03 1.98 1.92 1.88 1.86 1.79 1.77 1.71 1.64
0.01 2.72 2.66 2.60 2.56 2.54 2.48 2.45 2.39 2.33
D.5.2.2 ベイズ法
ベイズ法では,D.5.3に示すように強度の設計値Rdが試験データから直接式(D.4)で推定される。
1
Rd ηdmR tνd sR
1 (D.4)
n
ここに, mR : 標本平均
sR : 標本標準偏差
tνd : t-分布の係数(表D.3から決定)
n : 標本数
ηd : 変換係数の設計値
tνdの値は表D.3に示されており,自由度ν=n−1,超過確率Φ(−βR)に基づいて決定する。ここに,βR
は目標信頼性β,FORMの影響係数αの設計値αdを用いて,βR=αdβで算出される。特に指示がない場合,

――――― [JIS B 9955 pdf 42] ―――――

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Rの不確かさが支配的な場合はαd=0.8,その他の場合はαd=0.3とする。
式(D.4)は,Rの分布形状として正規分布を仮定し,標準偏差及び平均値は事前情報がない場合の事前分
布に基づいている。標準偏差が既知の場合は,標本標準偏差を分布標準偏差に置き換えて,ν=∞とする。
ほかの種類の事前情報に対しては,D.5.3の式を使うことができる。
式(D.4)のRdを部分係数法で用いるためには,次の二つの方法がある。
a) Φ(−βR)=0.05(βR=1.64)として,式(D.4)から特性値Rkを評価し,部分係数をγm=Rk/Rdで算出する。
b) 用いている材料及び破損モードに対して通常使われるγmの値を使う。この方法では,特性値RkはRk
=γmRdで定義される。ただし,この場合の特性値Rkの超過確率は0.95とは異なることに注意する必
要がある。
いずれの方法を用いても照査の段階では同じ設計値Rdを用いるため,結果は同じになる。
式(D.4)では,Rは正規分布で,標準偏差及び平均値は無情報事前分布に基づいている。標準偏差が既知
の場合は,標本標準偏差を分布標準偏差に置き換えて,ν=∞とすればよい。ほかの種類の事前情報に対し
ては,D.5.3の式を使うことができる。分布の選択に関するD.5.2.1の注記1は,ベイズ法にも適用できる。
この細分箇条に記載するベイズ法は,標準偏差を未知として推定を行う場合には,観測された標準偏差
sRに非常に敏感である。不安全側及び非経済的な結果を避けるためには,小さ過ぎたり,大き過ぎたりす
る事後の標準偏差は選択しない方がよい。そのための一つの方法は,たとえ明確な情報がなくても,標準
偏差に対して適切な事前分布を選ぶことである。これについては,D.5.3で詳細な手順について説明する。
表D.3−tνの値
自由度,ν
βR Φ(−βR) 1 2 3 5 7 10 20 30 ∞
1.28 0.10 3.08 1.89 1.64 1.48 1.42 1.37 1.33 1.31 1.28
1.64 0.05 6.31 2.92 2.35 2.02 1.89 1.81 1.72 1.70 1.64
2.33 0.01 31.8 6.97 4.54 3.37 3.00 2.76 2.53 2.46 2.33
2.58 0.005 63.7 9.93 5.84 4.03 3.50 3.17 2.84 2.75 2.58
3.08 0.001 318 22.33 10.21 5.89 4.78 4.14 3.55 3.38 3.09
注記 σRが既知の場合は,ν=∞を使う。
例 n=3の供試体のサンプルを考え,標本平均mは100 kN,標本標準偏差sRは15 kNのとき,5 %
の特性値は次の式で計算する(ν=2)。
1
Rk mR .292 sR1 mR .337sR 100 .337 15 495. kN
3
一方,古典的方法では(表D.1参照),Rk=mR−3.15sR=52.8 kNとなり,ほぼ等しくなる。
D.5.3 一般的な確率論的設計に対するベイズ法
完全に確率論的な取扱いをする場合には,ベイズ法に基づき強度Rの予測値の分布を求め,これを設計
に用いることができる。事前分布関数を決め,試験データの統計量を用いて式(D.5)で事後分布を決定する。
試験データを得る前に,統計的パラメータθについての知識の程度を表す確率分布,すなわち事前分布を
設定する。事前分布は,得られた試験データに基づき,式(D.5)を用いて事後分布に更新される。
f CL data f (D.5)
ここに, f''(θ) : θの事後分布
f'(θ) : θの事前分布
L(data|θ) : ゆう(尤)度関数
θ : 分布パラメータのベクトル

――――― [JIS B 9955 pdf 43] ―――――

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(例えば,平均値及び標準偏差)
C : 規準化係数
事前情報及び試験データに基づき得られる事後分布f''(θ)を用いて,更新後のRの分布は,式(D.6)で与え
られる。
fR'' R (D.6)
f Rθ f'' θ dθ
ここに, f(R|θ) : θが与えられた条件下でのRの分布
fR''(R) : 更新されたRの分布
式(D.6)によるRの分布は,確率論的設計で直接使うことができる。また,式(D.6)に基づいて設計値を導
出することも可能である。
Rが正規分布の場合,事前分布が式(D.7)で表されるとする(平均値μ,標準偏差σ)と,式(D.5)及び式(D.6)
の積分を解析的に取り扱えるようになる。
ν' δ n' 1 1 2 2
f' μ,σkσ exp ν' s n' μm' (D.7)
2σ2
ここに, δ(n')=0 (n'=0のとき)
δ(n')=1 (n'>0のとき)
式(D.7)の事前分布に含まれる四つのパラメータm',n',s'及びν'は,次のとおりである。
まず,パラメータs'及びν'は,標準偏差σに関する事前情報を表しており,標準偏差σに対して与える
確率分布の期待値及び変動係数は,近似的に(大きなν'に対して)次のように表現可能である。
Eσ s' (D.8)
1
Vσ (D.9)
2ν'
一方,m',n'及びs'は平均値μに関する事前情報を表しており,平均値μに対して与える確率分布の期
待値及び変動係数は,近似的に(大きなν'に対して)次のように表現可能である。

(D.10)
s'
Vμ (D.11)
m' n'
これらの事前情報は,平均値及び標準偏差のそれぞれについての仮想的な事前試験の結果と解釈するこ
ともできる。この場合,標準偏差については,
s' : 仮想試験の標本標準偏差
ν' : s'についての仮想試験の自由度数
があり,平均値に関する情報には,二つの追加パラメータが必要である。
m' : 仮想試験の標本平均
n' : m'についての仮想試験の標本数
言い換えると,m'及びs'は,平均値及び標準偏差の最良推定値を表す。n'及びν'の選択によって,推定値
に関する不確かさを表現することができる。
試験については,ν=n−1という関係がある。ただし,事前パラメータn'及びν'とは,互いに独立に選
んでもよい。
注記1 情報がほとんどない場合は,n'及びν'は0を選ぶ。この場合は,最終結果は,D.5.3と同じに
なる。
注記2 多くの場合,平均値に関する事前情報はほとんどないが(したがって,n'=0),σ'については
かなりよい推定値が得られると仮定するのが妥当である。

――――― [JIS B 9955 pdf 44] ―――――

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注記3 事前分布のパラメータn'及びν'を0以外とする場合には,事前分布パラメータの設定値及び
その根拠を明確に記録するのが望ましい。
式(D.7)で表現される事前分布と,標本平均m及び標本標準偏差sをもつn個の観測結果を用いて,式(D.5)
によってRの未知の平均値及び標準偏差の事後分布を求めた場合,事後分布もまた式(D.7)で表現できる。
その際のパラメータは,次の更新規則によって与えられる。
n''=n'+n (D.12)
ν''=ν'+ν+δ[{n'}] (D.13)
m''n''=n'm'+nm (D.14)
[ν''(s'')2+n''(m'')2]=[ν'(s')2+n(m')2]+[νs2+nm2](D.15)
ここに,n'=0の場合ν=n−1; δ(n')=0,その他の場合δ(n')=1
式(D.6)を使うと,Rの予測値は式(D.16)で得られる。
1
R m'' 1
tν''s'' (D.16)
n''
tν''は中心t-分布で,与えられた超過確率に対するtν''の値は表D.3で与えられる。
例 D.5.2.2の例と同じ条件で,事前情報として次の事項が分かっている。
− 標本平均についてのはっきりした情報がない。
− 標本標準偏差は平均20 kNで,標本標準偏差についての変動係数Vは30 %
式(D.8)式(D.11)によって,この事前情報から次の事前分布パラメータを与える。
n'=0,s'=20 kN,ν'=1/(2V2)=1/(2×0.32)=5
次に,この事前情報をD.5.2.2の例と同じ試験結果(標本平均m=100 kN,標本標準偏差s=15
kNをもつ三つの供試体)によって更新すると,式(D.12)式(D.15)から事後分布のパラメータが
次のように導かれる。
n''=0+3=3
ν''=5+2=7
m''=100 kN
7(s'')2+3×1002=5×202+0+2×152+3×1002
したがって,s''=18.7 kN
式(D.16)と表D.3を使うと,5 %超過確率に対する特性値は,次の結果となる。
1
Rk 100 .189 187.1 100 .218 187. 592. kN
3
試験結果よりも標準偏差が大きい事前情報を与えたことで,特性値が49.5から59.2 kNに増加
したことが分かる。
D.6 解析モデルに基づく評価
対象とする構造特性に対して,試験から決める一つの未知係数θを除いて,完璧な解析モデルの表示式
は,式(D.17)によって求まる。
Y θ g X,W (D.17)
ここに, X : 確率変数ベクトル
W : 測定可能な確定値の集合
g( ) : モデル

――――― [JIS B 9955 pdf 45] ―――――

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