JIS F 0600-1:2015 船舶及び海洋技術―船舶の防汚方法に関するリスク評価―第1部:船舶の防汚方法に用いる殺生物性活性物質の海洋環境リスク評価法 | ページ 3

                                                                                              9
F 0600-1 : 2015 (ISO 13073-1 : 2012)
PECを算出する場合,シナリオで定義した全てのパラメータを考慮に入れることによって環境負荷を判
断できる適切な数学的モデルを選ぶことが望ましい。通常PECはMAMPECなどの専用のコンピュータプ
ログラムで計算される。附属書Hに使用される有効なモデルの例を記載している。
懸濁物質における有機炭素分配係数(KOC)は,吸着試験(OECD TG106)又はHPLC法(OECD TG121)
で求められる。
浮遊物質における海水の体積分率,懸濁物質における固体の体積分率,固相密度及び懸濁物質における
有機炭素の重量分率の平均値・標準値の例が技術ガイダンス文書(European Commission, 2003)に記載さ
れている。
必要に応じ,BCF,平均魚消費率及び海水PEC(PECSW)などのパラメータを用いて捕食者・哺乳類に
対する環境予測濃度(PECpred)を決定することが望ましい。
PECの決定に使用するモデル自体が適切に検証されていることが重要である。モデルの検証報告書をリ
スク評価報告書の一部として提供することが望ましい。PEC決定のための検証されたモデルの例を附属書
Hに示す。

6 有害性評価

6.1 PNECの設定

6.1.1  海水のPNECの設定(PNECSW)
6.1.1.1 慢性試験結果からのPNECSWの推定
慢性試験結果を使用する場合,次の式でPNECSWを求める。
sw NOECC
PNEC (1)
AF
ここに, PNECSW : 海水のPNEC(mg/L)
NOECc : 慢性試験で得られた最も低いNOEC(mg/L)
AF : アセスメント係数(6.2参照)
各慢性試験で得られた最も低いNOECCはPNECSWの計算に使用する。AFは6.2で検討した様々な要因
に基づいて決定する。
多くのOECDテストガイドラインによれば,関連試験ガイドラインで特に指定のない限り,試験濃度は
幾何数列的に設定する必要がある。例えば,OECD TG 210では3.2以下の公比が必要である。試験によっ
ては,試験濃度間の比率が有効試験法で定めた係数を超えることがある。この場合,NOECとLOECとの
平均値(最大許容毒性濃度,MATC)をNOECとして用いる場合がある。
6.1.1.2 急性試験結果からのPNECswの推定
急性試験データを使用する場合,次の式でPNECswを求める。
L(E) C50
PNECsw (2)
AF
ここに, PNECSW : 海水のPNEC(mg/L)
L(E) C50 : 半数致死濃度(LC50)又は半数影響濃度(EC50)(mg/L)
AF : アセスメント係数
急性試験データで得られた最も低いL(E) C50はPNECSWの計算に使用する。AFは6.2で検討した様々な
要因に基づいて決定する。
6.1.1.3 種の感受性分布(SSD)アプローチによるPNECの設定
多くの物質,特に金属では,多くの試験が繰り返し行われており,公開情報及び非公開のデータベース

――――― [JIS F 0600-1 pdf 11] ―――――

10
F 0600-1 : 2015 (ISO 13073-1 : 2012)
などで利用可能なデータが非常に豊富にある。したがって,幅広く集積されたデータの評価には,利用さ
れた試験の複合的な選別及び評価が必要である。例えば,確率論的方法(6.1.1.4)は,当該物質の使用に
よる環境リスクの確実な評価を構築するために使用することができる。
6.1.1.4 典型的な統計的外挿手法の使用
統計的外挿の最良の方法は,生態系に属する多くの種で観測される様々な慢性環境毒性データ(無影響
濃度 : NOEC)のパラメータ分布を前提とするモデルである。限られたデータセットの使用に伴う不確実
性を数値化するために,95 %の生物種に対して影響が出ない濃度(HC5)に対する95 %及び50 %の信頼
限界を計算することができる。PNECは,通常HC5の50 %信頼下限値のレベルに設定されている。これ
らの統計的外挿手法は,技術ガイダンス文書(European Commission, 2003)などの既存のガイダンスに記
載されている。
6.1.2 底質生物PNECの設定(PNECsed)
6.1.2.1 慢性試験結果からのPNECsedの推定
慢性試験結果を使用する場合,次の式でPNECsedを求める。
sed Chronicsed
PNEC (3)
AF
ここに, PNECsed : 底質生物PNEC(mg/kg)
Chronicsed : 慢性試験で得られた最も低いNOEC,10 %致死濃度
(LC10)又は10 %影響濃度(EC10)(mg/kg)
AF : アセスメント係数
各慢性試験で得られた最も低いNOECsed,又は各急性試験で得られた最も低いLC10又はEC10をPNECsed
の計算に使用する。AFは6.2で検討された様々な要因に基づいて決定する。
6.1.2.2 急性試験結果からのPNECsedの推定
急性試験結果を使用する場合,次の式でPNECsedを求める。
L(E) C50
PNECsed (4)
AF
ここに, PNECsed : 底質生物PNEC(mg/kg)
L(E) C50 : 半数致死濃度(LC50)又は半数影響濃度(EC50)(mg/kg)
AF : アセスメント係数
急性試験データで得られた最も低いL(E) C50をPNECsedの計算に使用する。AFは6.2で検討された様々
な要因に基づいて決定する。
6.1.3 鳥類及び哺乳類のPNECの設定(PNECpred)
魚類より高次の栄養段階にある生物のPNEC(PNECpred)は次の式で求める。
predToxpred
PNEC (5)
AF
ここに, PNECpred : 高次の栄養段階にある生物のPNEC(mg/kg)
Toxpred : 高次の栄養段階にある生物の毒性値(mg/kg)
AF : アセスメント係数
鳥類のLC50又はNOEC若しくは哺乳類のNOECのいずれかの最も低い値をToxpredとして設定し,PNEC
(PNECpred)の計算に使用する。AFは6.2で検討された様々な要因に基づいて決定する。

6.2 アセスメント係数の検討

  限られた種類の水生生物に対する試験からPNECを計算する際の不確実性を考慮するために,試験タイ
プ,試験種の数,及び試験種の属する栄養段階の数に基づいて,PNEC算出時にアセスメント係数を適用

――――― [JIS F 0600-1 pdf 12] ―――――

                                                                                             11
F 0600-1 : 2015 (ISO 13073-1 : 2012)
する。
幾つかのアセスメント係数の設定例が附属書Fに記載されているが,これらの複数の方法及び考え方を
組み合わせてもよい。

6.3 リスクキャラクタリゼーションに使用するPNECの算出

  リスクキャラクタリゼーションに使用するPNECは,実験的に決定した慢性試験データからのNOEC又
は急性試験データからのL(E) C50のいずれかの低い方の値から得られる。このNOEC又はL(E) C50は,全て
の環境毒性データから得られた適切なアセスメント係数とともに使用する。

7 リスクキャラクタリゼーション

7.1 概要

  有機物質のリスクキャラクタリゼーションは,附属書Bに記載した段階的プロセスに従って行う。無機
物質のリスクキャラクタリゼーションは,附属書Cに従って行う。有機物質のPNECは,プロセスの各段
階及びレベルのために取得された毒性データを用いて計算する。リスクのレベルはPNECに対するPECの
比(PEC/PNEC)を計算することによって決定する。無機物質及び有機物質のリスク評価は,次に記載す
る共通のアプローチを利用して,リスクキャラクタリゼーションへの段階的なアプローチを採用している。
有機化合物の金属錯体に対しては,附属書B及び附属書Cの両方のリスクキャラクタリゼーションを行
うことを推奨する。

7.2 データ及び情報

7.2.1  データ及び情報の収集及び取得
適切に評価を行うためには,殺生物性活性物質の物理化学的特性,環境挙動及び有害性に関するデータ
及び情報が必要である。附属書B及び附属書Cに適切な試験を記載する。
7.2.2 収集したデータの信頼性評価
7.2.2.1 データの信頼性評価
データを評価するための信頼性スコアを決定する標準的手法は既に存在している。そのような手法の一
つは,クリミッシュ(Klimisch)スコア法(D.4参照)である。また,このアプローチでは,“証拠の重み
付け”解析を検討する必要がある。
7.2.3 データ欠落の判断
必要に応じ,データ欠落は,OECD(2009)に記載されている例を適用することによって,既存の試験・
研究から得られる情報をできる限り多く用いて補うことが望ましい。例えば,次のような例がある。
− 定量的構造活性相関QSAR : 化学構造及び/又は物理化学的特性を表現する数量と,影響及び活性と
の定量的(数学的)関係。QSARはしばしば回帰式の形を取り,連続尺度又は分類尺度による影響及
び活性の予測が可能である。したがって,“QSAR”という用語の中の修飾語“定量的”は,関係が定
量的であることを意味しているのであって,予測される評価項目が定量的であるということではない。
物質の種類(例 有機物又は無機物)に対応する適切なQSAR手法だけを用いることに注意が必要で
ある。
− リードアクロス法 : データ欠落を補う手法。未試験の化学物質に対する評価項目の情報を,試験した
化学物質についての同じ評価項目のデータを用いて予測する。試験した化学物質は,ある着目点(例
えば,活性,特性,構造など)について未試験の化学物質と“同等”とみなされるものである。評価
対象の物質と類似した物質の試験が存在する場合にリードアクロス法が適用できる。こうした論拠が
実証化できるようであれば,例えば,ある無機物質の塩に関する試験を同じ物質のその他の塩に使用

――――― [JIS F 0600-1 pdf 13] ―――――

12
F 0600-1 : 2015 (ISO 13073-1 : 2012)
することも可能となる。
− グループ化手法 : グループ全体が十分な類似性を示す物質グループに共通の特性を使用する方法
有効とみなされる試験・研究結果だけを使用し,PNECを導き出す場合には,それらの試験のなかで最
も保守的な値を使用する必要がある。“信頼できない”又は“信頼性が非常に低い”と評価されたデータは
リスク評価に使用しないほうがよい。データ品質の評価法に関するガイダンスの例を附属書Dに記載する。
7.2.4 試験要件
7.2.4.1 試験方法
試験は,優良試験所基準(GLP)の要件を満たすか又は同等の資格をもつ組織又は研究所が,試験を国
際的に認知された試験方法又は国際的に認知された方法と同等の試験方法(附属書E参照)に従って行わ
なければならない。
7.2.4.2 試験生物種の選択
試験生物は,評価対象の環境区画に対応する種を選ぶことが望ましい。例えば,主に海水で使用するこ
とを目的とした製品の場合,海洋生物種の使用が望ましい。しかしながら,これは附属書Eに記載した試
験方法で定めた淡水種の使用を除外するものではなく,その場合には,PNECの決定のために導出した
NOEC又はL(E) C50に対して適用されるアセスメント係数の決定に際して淡水種であることを考慮すれば
よい。淡水での評価については,淡水種の使用が望ましい。
7.2.4.3 試験の省略
ある特定の状況下では,幾つかの試験について,省略,他の試験結果又は手法で代替してもよい。いか
なる場合においても,試験の省略・代替には科学的根拠のある理由が必要である。次にその例を示す。
− 化学的に類似の物質について試験が行われている場合
− 対象物質を試験することが現実的でない場合
7.2.5 提出すべきデータ又は情報
リスク評価を受ける者は,“証拠の重み付け”の根拠又は試験省略の理由として,データ又は情報に関す
る信頼性評価文書の添付を条件として,附属書Dに記載されている信頼性評価によって“信頼性なし”又
は“分類不能”と評価されるデータ又は情報を提出することができる。
リスク評価を受ける者は,海洋環境の保護に対して重大な意味をもつ悪影響を示す全てのデータ又は情
報については,その信頼性にかかわらず,提出しなければならない[例えば,内分泌かく(攪)乱特性に
関する情報など]。
7.2.6 動物保護の考慮
追加試験の実施計画の立案に当たり,最小限の数の脊椎試験動物を使用するなどの,動物保護を考慮に
入れなければならない。新たな試験を行うべきかどうかの検討において,その実施前に当該試験がNOEC
の精度を大きく向上させるかどうかを判断することが望ましい。精度向上の可能性が低いのであれば試験
を実施してはならない。

7.3 評価結果

  殺生物性活性物質の使用に対するリスクキャラクタリゼーションにおいて,次の用語を使用する。
7.3.1 低リスク
“低リスク”と評価された場合,その殺生物性活性物質を使用する防汚方法を船舶に適用することは,
海洋環境に対して無視できる程度の低いリスクをもつとみなされる。
7.3.2 リスク懸念
“リスク懸念”と評価された場合,海洋環境への生態系リスクが高い(無視できない)とみなされ,そ

――――― [JIS F 0600-1 pdf 14] ―――――

                                                                                             13
F 0600-1 : 2015 (ISO 13073-1 : 2012)
の殺生物性活性物質を使用する防汚方法の適用についての懸念がある。
7.3.3 比較的低リスク
殺生物性活性物質を“比較的低リスク”と評価した場合,この物質を使用する船舶の防汚方法の生態リ
スクは海洋環境において無視できないが,許容範囲内であるとみなされることを意味する。

7.4 最後に行ったリスクキャラクタリゼーションの後で得た追加情報

  ある海洋環境において“低リスク”,“比較的低リスク”又は“リスク懸念”と評価された殺生物性活性
物質について,最後に行ったリスクキャラクタリゼーションの後で新たに追加情報が得られた場合は,リ
スクキャラクタリゼーションの修正を行う。

8 リスク評価報告書

  この規格に従って行われたリスク評価については,評価に使用された情報及びその結果を含むリスク評
価報告書を作成する。リスク評価報告書には,附属書Gで記載された最低限必要とされる情報を記載する。

――――― [JIS F 0600-1 pdf 15] ―――――

次のページ PDF 16

JIS F 0600-1:2015の引用国際規格 ISO 一覧

  • ISO 13073-1:2012(IDT)

JIS F 0600-1:2015の国際規格 ICS 分類一覧