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K 0150 : 2020 (ISO 16962 : 2017)
5.1.2 スペクトル線の選択
定量する元素それぞれについて使用できるスペクトル線が多数あるため,使用する分光器の波長範囲,
分析対象元素の質量分率,スペクトル線の感度,及び試料中に共存するその他の元素による分光干渉を含
む因子を考慮して適切な分析線を選択しなければならない。定量を行う元素が試料中の主成分である場合,
自己吸収に対して極めて敏感なスペクトル線(基底電子準位に遷移するスペクトル線,いわゆる共鳴線)
があることに特に留意しなければならない。自己吸収が起きると,分析対象元素の高質量分率側で検量線
の直線相関を失う原因となるため,強い自己吸収があるスペクトル線は,主成分元素の定量に使用するの
を避けることが望ましい。スペクトル線の選択に関して,附属書Bに分析線として使用できるスペクトル
線を示す。この表に記載されていない他のスペクトル線についても,それが良好な特性をもつ場合には,
分析線として使用してもよい。
5.1.3 グロー放電励起源の選択
5.1.3.1 陽極の内径
市販されているほとんどのグロー放電発光分光分析装置において,陽極の内径を選択できるような設計
が用意されており,2 mm,4 mm及び8 mmが一般的である。旧型装置には,陽極の内径が固定のものが
あるが(通常は8 mm),最近の装置では4 mmの陽極が最も普及している。陽極の内径が大きくなるほど
大きな試料を必要とし,分析中の高電力を必要とするので,試料温度が上昇する。一方,大口径の陽極に
なるほど大容量プラズマが生成し,より強く発光して検出限界がより低くなる(すなわち,分析感度がよ
り高くなる。)。さらに,陽極の大口径化は,表面の元素分布に揺らぎがある試料において,平均的な元素
濃度を求めることに寄与するが,適用する分析対象によって,この特性が有利な場合とならない場合があ
る。表面分析に適用した場合,試料の過熱が問題となる場合がある。例えば,表層の熱伝導度が小さいこ
と及び/又は試料が非常に薄いことによって,試料の過熱が問題になることがある。このような場合には,
ある程度分析感度の低下があるとしても,陽極の内径がより小さいもの(例えば,2 mm又は2.5 mm)が
望ましい。
5.1.3.2 放電用電源
放電用電源は,直流(DC)型又は高周波(RF)型のいずれかとすることができる。RF型は,導電性及
び絶縁性のいずれの試料に対してもスパッタリングすることができるため,高分子皮膜,絶縁性の酸化物
層などに使用できる。一方,DC型は,電気的パラメータ(電圧,電流,電力など)の測定及び制御が技
術的により簡単である。DC放電とRF放電との切替えができるグロー放電発光分光分析装置が市販されて
いるが,RF放電の専用装置が標準となってきている。
5.1.3.3 装置の制御モード
電源の電気的パラメータ(電流,電圧及び電力)及びプラズマガスの導入圧力に関して,DC型及びRF
型の放電の制御は,幾つかの異なる方法で行うことができる。幾つか異なった方法で行われている理由と
しては,次のようなものが挙げられる。
− “歴史的”理由によって,旧型の装置は,よりシンプルだが機能的な電源をもつ一方,技術の進化に
伴い,新型の機種では,より正確で簡単な放電制御ができる。
− 分析機器の製造業者(以下,機器製造業者という。)ごとに,放電制御に関して異なった方法を取って
きた経緯がある。
− 個々の分析事例に関わる問題点から,特定の放電制御モードが適している場合がある。
この規格では,数種の利用可能な放電制御モードに基づき,放電源の電気的パラメータの最適化を行う
方法を,箇条6に規定する。幾つかの異なった分析装置の全般にわたり,包括的に適用できる方法を示す。
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大部分の分析対象において,分析特性に関してはこれらの制御モードによる大きな差異はないが,実際の
運用及び手法の難易については差異が生じる。例えば,導入ガス圧力を能動的に制御できる測定装置では,
個々の分析操作ごとに自動的に同じ測定パラメータを用いて測定ができる。この制御機能がない場合には,
測定パラメータを最適化するために手動で圧力調整を行う必要がある。
注記 様々な放電制御モードが使われている背景として,発光収率[2][3][4][7]と呼ばれるパラメータ
が校正及び定量の基礎となっている。発光収率は,電流,電圧及び程度は低いがガス圧力によ
って変化する[4][7]。測定対象物質によってその電気的特性が変化することから,実操作におい
て,全ての分析対象試料に対して,これら三つのパラメータを一定に制御することは不可能で
ある。分析装置の中には,測定中にプラズマガス圧力を自動制御する機構を付加して,放電源
の電気的パラメータ(プラズマ抵抗)を一定に維持するものがある。その他の方法として,経
験的に得られた関係式を用いてプラズマ抵抗の変動を補正する方法[4][7]があり,この補正法を
採用している市販のグロー放電発光分光分析装置ではソフトウエアに組み込まれている。
6 グロー放電発光分光分析装置の調整
6.1 概要
分析装置の使用準備は,機器製造業者の取扱説明書又は個々に文書化した手順に従って行う。
測定の準備段階で,分光システムの調整に関する最も重要な作業は,機器製造業者から提供された手順
に従って,分光器の入口スリットが正しく調整されているかを確認することである。この調整によって,
最適な信号対バックグラウンド比及び良好な再現性を得るためのスペクトル線のピーク位置で発光強度を
測定できる(JIS K 0144参照)。
放電制御パラメータは,次の要件を満たすように選択しなければならない。
a) めっき皮膜を過度の熱を与えないような適切なスパッタリングを行う。
b) できるだけ良好な深さ分解能を得るためのクレータ形状を得る。
c) 最適な精確さ(accuracy)を得るための検量線作成及び分析における放電条件を得る。
放電制御パラメータの選択方法の詳細を6.2及び6.3に示す。
検出器に印加する高電圧(例えば,光電子増倍管の印加電圧)の設定は,放電制御パラメータに依存す
るが,設定手順は,全ての放電制御モードで同じであるので,6.2.1.2に共通の手順として記載する。
同様に,発光信号の安定性及びスパッタリング痕形状に関して,放電源を調整しその制御パラメータを
最適化するための作業も,放電励起源の全ての制御モードで類似した手順をとる。
注記 プラズマガス圧力の測定に関しては,DC放電とRF放電とでは違いはない。ただし,グリム型
放電管では,その構造部位によってガス圧力勾配が生じ,このためガス圧力の判読値は,測定
系中での圧力計の挿入位置によって変わる。一部の分析装置では,プラズマ本体の実際圧力が
測定できるように圧力計を設置しているものがあるが,分析装置の中には真空ポンプに近い側
に圧力計を置いているため,実際圧力より低い値を示すものもある。このような測定装置に関
しては,プラズマガス圧力の判読値は,その測定系の圧力測定位置によって変わるためプラズ
マ本体の実際のガス圧力を測定するためではなく,他の放電制御パラメータを調整するための
指標としてだけ使用することができる。
6.2 直流放電源の制御パラメータの設定
6.2.1 固定印加電流−定電圧モード又は固定印加電圧−定電流モード
6.2.1.1 概要
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この制御モードで調整が必要な制御パラメータは,印加電流及びプラズマガス圧力である。まず,グロ
ー放電を維持するための供給電源を定電流で動作するように設定する。最初に印加電流値を固定し,その
後,ガス圧力を調節して印加電圧を決める(電流を,電源の操作パネル上で設定し,電圧は,プラズマガ
ス圧力,又は流量を変化させることで調整する。)。この場合,印加電流及び電圧は,機器製造業者が推奨
する代表的な値に設定する。代わりに,供給電源を定電圧で動作するように設定してもよい。この場合,
最初に印加電圧値を固定し,その後,ガス圧力を調節して印加電流を決める(電圧を,電源の操作パネル
上で設定し,電流を,プラズマガス圧力,又は流量を変化させることで調整する。)。機器製造業者からの
推奨値が得られない場合,電圧は700 Vとし,電流は次の範囲に設定する。
− 陽極の内径が2 mm又は2.5 mmの場合 : 5 mA10 mA
− 陽極の内径が4 mmの場合 : 15 mA30 mA
− 陽極の内径が7 mm又は8 mmの場合 : 40 mA100 mA
最適な電流値が事前に分からない場合,推奨範囲のほぼ中央の電流値で始めるのがよい。
これら二つの制御方法のいずれを採用しても差異はない。ただし,極薄膜への適用の場合には,分析結
果に多少影響を与える放電の開始時の立ち上がり特性に,非常に小さな差異が生じてもよい。
注記 (対応国際規格のNOTEは許容事項のため,本文に移動した。)
6.2.1.2 検出器の印加高電圧の設定
多様な形態及び組成の表面皮膜(表面層)をもつ試料を選択し,その分析対象元素の発光信号を確実に
検出するために検出器電源を制御する。光電子増倍管(PMT)に印加する高電圧は,最も含有量が少ない
元素に対して十分な感度が得られ,かつ,最も含有量が多い元素に対しては検出器に飽和が起こらないよ
うに設定する。また,アレイ型半導体検出器(CCD又はCID)の場合には,その積分時間をPMT検出器
の印加電圧と同様に設定する。
6.2.1.3 放電励起源の制御パラメータの設定
放電励起源の制御パラメータの設定は,次の手順によって行う。
a) 放電励起源の最適化を行うために,個々の試料に対して,表面めっき層を完全に超えて下地素材に達
するまで十分な時間をかけてスパッタリングをしながら,全体を通した深さ方向分析を行う。
b) スパッタリング時間に対する発光強度の変化(“深さ方向定性プロファイル”ともいう。)をみて,選
択した放電励起源の設定で常に安定した発光信号が表面層から下地素材まで得られていることを確認
する。
c) 安定した発光信号が得られない場合には,放電パラメータのいずれか一つの値を調整して,a) 及びb)
を再度行う。
d) さらに,安定した信号が得られない場合は,その他の制御パラメータまで含めて調整を行い,測定を
繰り返す。
e) 必要と認められる場合には,制御パラメータの組合せを変えて様々な可能性を考慮し,a) 及びb) の測
定を安定な発光信号が得られるまで繰り返す。
注記 試料の熱的な不安定性によって発光信号が不安定になる場合がある。この場合には,試料の
冷却が有効である。
6.2.1.4 スパッタリング痕形状の最適化
適切な表面粗さ計が使用できる場合には,スパッタリングによって生じたクレータ形状を,次の手順に
よって確認する。
a) 試験試料の中から代表的なものを選び,その試料を深さが約10 m20 mの範囲でスパッタリング
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を行う。ただし,このときスパッタリング痕は,まだ表面めっき層の内部にとどまっている。そのた
め,めっき層厚が10 m20 mの試料の場合に限り実施可能である。
b) 条件に合う試料がない場合には,鉄鋼又は黄銅を試験試料として用いる。
c) 表面粗さ計を用いてそのクレータ形状を計測する。
d) ) c) の操作を,放電励起源の各制御パラメータを一つずつ変えながら,数回繰り返して行う。
e) スパッタリング痕の底面が平たん(坦)な形状となる放電条件を,最適値として採用する。
注記 試料によっては,最適クレータ形状と信号安定性とに係る二つの条件は必ずしも一致せず,
優先順位を付けて調整が必要な場合がある。
f) ) e) の操作によって決定した測定条件が,6.2.1.3に規定した発光信号が安定して得られる放電条件
と大きな差異がなければ,検量線作成用及び試験試料の分析に使用する。
6.2.2 固定印加電流−定ガス圧力制御モード
この制御モードでは,まず印加電流値を定め,その後,最適な電圧値が得られるプラズマガス圧力を調
整して,次の手順によって測定を行う。
a) グロー放電を維持するための供給電源を,定電流で動作するように設定する。この場合,電流値は,
機器製造業者が典型例として推奨するものを採用する。機器製造業者からの推奨値が得られていない
場合には,電流は,次の範囲に設定する。最適な電流値が決まっていない場合には,これらの電流値
の中間値を用いて測定するのが望ましい。
− 陽極の内径が2 mm又は2.5 mmの場合 : 5 mA10 mA
− 陽極の内径が4 mmの場合 : 15 mA30 mA
− 陽極の内径が7 mm又は8 mmの場合 : 40 mA100 mA
b) 代表的なめっき試料にスパッタリングを行い,表面めっき層で,放電電圧が約700 Vに達するまでプ
ラズマガス圧力を調整する。
c) 検出器に印加する高電圧は,6.2.1.2に従って設定する。
d) 放電パラメータは,6.2.1.3と同様な手順で順次調整を行う。ただし,最初に放電電流値を調整し,必
要に応じてガス圧力を変える。
e) スパッタリング痕形状を,6.2.1.4と同様な手順で最適化する。この場合に調整する放電パラメータは,
プラズマガス圧力である。この最適化によって得られた放電条件は,検量線作成用及び試験試料の分
析において使用する。
f) 組成及び履歴の異なる試料を新たに測定する前に,それ以前の測定試料群で得られている放電電圧と
5 %以上変わっていないかを調べるために,試験的な放電操作を行って得られる電圧値を確認するこ
とが望ましい。大きな変動がある場合には,放電電圧を目標値近傍に設定するためにガス圧力を再調
整する。
注記 (対応国際規格のNOTEは要求事項のため,本文に移動した。)
6.2.3 固定印加電圧−定ガス圧力制御モード
この制御モードでは,まず印加電圧値を定め,その後,最適な電流値が得られるプラズマガス圧力に調
整して,次の手順によって測定を行う。
a) グロー放電を維持するための供給電源を定電圧で動作するように設定する。この場合,電圧値は,機
器製造業者が典型例として推奨するものを採用する。機器製造業者からの推奨値が得られない場合に
は,電圧値を700 Vに設定する。
b) 代表的なめっき皮膜試験試料にスパッタリングを行い,表面めっき層の部位で,放電電流が次の範囲
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になるようにガス圧力を調整する。最適な電流値が決まっていない場合には,これらの電流範囲の中
間値を用いて測定をすることが望ましい。
− 陽極の内径が2 mm又は2.5 mmの場合 : 5 mA10 mA
− 陽極の内径が4 mmの場合 : 15 mA30 mA
− 陽極の内径が7 mm又は8 mmの場合 : 40 mA100 mA
c) 6.2.1.2と同様な手順で,検出器に印加する高電圧を設定する。
d) 6.2.1.3と同様な手順で,放電パラメータを順次調整する。ただし,最初に放電電圧値を調整し,必要
に応じてガス圧力を変える。
e) 6.2.1.4と同様な手順で,スパッタリング痕形状を最適化する。この場合に調整する放電パラメータは,
プラズマガス圧力である。この最適化によって得られた放電条件は,検量線作成用及び試験試料の分
析において使用する。
f) 組成及び履歴の異なる試料を新たに測定する前に,それ以前の測定試料群で得られている放電電流と
5 %以上変わっていないかを調べるために,試験的な放電操作を行い得られる電流値を確認すること
が望ましい。大きな変動がある場合には,放電電流を目標値近傍に設定するためにガス圧力を再調整
する。
注記 (対応国際規格のNOTEは要求事項のため,本文に移動した。)
6.3 高周波放電源の制御パラメータの設定
6.3.1 概要
一般に使用されている高周波放電制御パラメータの組合せは,定印加電力−定プラズマガス圧力,定印
加電圧−定プラズマガス圧力,又は定実効電力−定印加電圧の各制御モードである。その他の制御モード
も含めて,6.1に規定した放電励起源に求められる3項目を満足するものであれば,いずれのモードを使用
してもよい。6.3.26.3.4に異なる制御モードのパラメータを設定する方法を記載する。
注記 高周波放電源が直流放電源と異なる点は,測定装置にもよるが,高周波放電源では電源から供
給される(進行波)高周波電力を測定できるが,プラズマの維持に関わる実効電力は,測定で
きないことである。印加高周波電力は,通常10 W100 Wの範囲であるが,接続部,ケーブル
などでの電力損失は,装置の電極構造及び試料接点によって大きく変化する。電力損失は一般
的に印加電力の10 %50 %となる。さらに,プラズマ内で発生した電圧及び電流の測定は,高
周波システムの技術的な難しさによって多少制限を受け,市販の測定装置では,印加高周波電
力の測定だけしかできないものもある。
6.3.2 固定印加電力−定ガス圧力制御モード
この制御モードでは,まず印加電力値を定め,その後,プラズマガス圧力が一定となるように調整して
測定を行う。
a) 印加電力を機器製造業者が推奨する値に設定し,最適測定条件が得られるようにガス圧力を調節する。
機器製造業者からの推奨値が得られていない場合には,印加電力及びガス圧力は,使用する装置で可
変可能なそれぞれの範囲で中間付近の数値を選択する。
b) 鉄又は鉄鋼試料を用いてスパッタリング速度(すなわち,単位時間当たりのクレータ深さ)を測定す
る。
c) 印加電力は,スパッタリング速度が約2 m/min3 m/minとなるように調整する。
d) 6.2.1.2と同様な手順で,検出器に印加する高電圧を設定する。
e) 6.2.1.3と同様な手順で,放電パラメータを順次調整する。ただし,最初に印加電力値を調整し,必要
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JIS K 0150:2020の引用国際規格 ISO 一覧
- ISO 16962:2017(IDT)
JIS K 0150:2020の国際規格 ICS 分類一覧
JIS K 0150:2020の関連規格と引用規格一覧
- 規格番号
- 規格名称
- JISG0417:1999
- 鉄及び鋼―化学成分定量用試料の採取及び調製