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X 20246 : 2021 (ISO/IEC 20246 : 2017)
6.4.5 修正作業及び報告作業
このアクティビティは,次のタスクで構成されている。
a) 作業生産物以外の文書で変更を必要とする要検討事項については,そのインシデント報告書が作成さ
れなければならず,かつ,割り当てられた個人又はチームに伝達しなければならない。
例1 レビュー対象の作業生産物が設計仕様書である場合,要求仕様書及び組織における設計標準
のような補助的な書類に関するインシデント報告書が提出されることがある。
b) 作業生産物の変更を要求されている状態の要検討事項は,対処されなければならない。
注記1 このタスクは,通常,作業生産物の執筆者が行う。
例2 このタスクは,要検討事項の更なる分析,解決策の実施,又は作業生産物を変更しないとい
う決定を含むことがある。
c) 作業生産物に対するレビュー処置の完了を確認しなければならない。そうでなければ,要検討事項の
状態を最新の状態に更新しなければならない。
注記2 非形式的レビューでは,状態の変更を文書化する必要はない。
注記3 レビュー処置又は状態の変更は,コメントした人の同意を必要とすることがある。
d) レビューの意思決定が満たされた場合,レビューされた作業生産物を受理しなければならない。
注記4 レビューの意思決定が満たされていない場合は,通常b)及びc)の手順を繰り返す。
注記5 リスクのレベルに応じて,レビューの結果を判断するために関係する利害関係者の会議を
開催することがある。
e) レビューの結果を報告しなければならない。
6.5 情報項目
このプロセスを実行した結果として,次の情報項目が作成されなければならない。
a) 要検討事項ログ(A.2参照)
b) インシデント報告書(A.3参照)
c) レビュー報告書(A.4参照)
注記1 形式的な文書化(要検討事項ログ,インシデント報告書及びレビュー報告書)は必ずしも必要
ではなく,状況によっては口頭による報告でも構わない。非形式的グループレビュー,執筆者
確認,相棒確認,ペアレビュー及び同僚との机上確認のようなレビュー種別では,形式的な文
書化が必要なことはまれである。
注記2 要検討事項に関する記述又は要検討事項ログへの参照は,通常,レビュー報告書に含まれてい
る。
7 レビュー手法
7.1 概要
この規格は,個々人のレビュー作業(7.2)及び要検討事項の分析(7.3)の手法を含む,箇条6に記載し
た汎用的なレビュープロセスで定義した様々なアクティビティに関連する多数のレビュー手法を定義して
いる。
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7.2 個々人のレビュー作業の手法
7.2.1 概要
6.4.3の“個々人のレビュー作業”アクティビティに関連する手法は,レビュー対象の作業生産物内の要
検討事項(欠陥の可能性あり)を識別するために使用する。
7.2.2 アドホックレビュー作業
アドホックレビュー作業は,レビュアが要検討事項を検出するための非常に一般的な取組みである。こ
れは,全く構造化されていない。各レビュアは,あらゆる種類の可能な限り多くの欠陥を見つけることが
期待されている。しかし,この作業をどのように実施すべきかについての指針は,ほとんど又は全く与え
られていない。レビュアは,しばしば,作業生産物で出くわした要検討事項を識別して文書化しながら,
ページ単位で作業生産物を順次読む。この取組みは,レビュアのスキルに大きく依存し,多くの場合,異
なるレビュアによって同じ要検討事項が識別されることにつながる。
7.2.3 確認項目一覧に基づくレビュー作業
確認項目一覧に基づくレビュー作業は,確認項目一覧に基づいた,要検討事項を識別するための体系的
な取組みである。異なるレビュアに異なる確認項目一覧を割り当てることは,全体的な網羅性を高め,ア
ドホックな取組みに固有の重複を防ぐのに役立つ。確認項目一覧を使用することの一つの欠点は,レビュ
アによっては,レビュー対象の検討が確認項目一覧にある内容に終始してしまい,その他の要検討事項が
潜在している可能性を無視してしまうことである。レビュアが単に確認項目一覧に従うだけでなく,より
広い責任をもっていることを自覚させるように注意する必要がある。
通常,レビュー確認項目一覧は,一連の質問の形をとっている。その質問は,プロジェクト,組織,又
は業界全体の経験から得られるような潜在的な欠陥に基づいている。確認項目一覧は,レビュー対象の作
業生産物の種類に固有のものであることが望ましい。要求文書の確認項目一覧は,設計文書又はテスト計
画の確認項目一覧とは異なる。そして,作業生産物を開発するために使用される方法論に固有のものでも
よい(例えば,プレーンテキスト形式の要求事項に関する確認項目一覧の質問は,ユースケース形式又は
ユーザストーリー形式の要求事項に関するものとは異なっていてもよい。)。確認項目一覧は,作業生産物
の適用領域に固有のものであってもよい(例えば,銀行業務用の確認項目一覧は銀行規制に基づいてもよ
いし,航空電子製品用の確認項目一覧は航空電子工学の標準に基づいてもよい。)。
確認項目一覧の典型的な問題は,長すぎること及び変更されないことである。理想的には,確認項目一
覧は約10項目に制限し,定期的に更新することが望ましい。項目が古くなり,要検討事項の発見が少ない
ことが判明した場合(執筆者が学習し改善したためだとよいが),最近見逃した要検討事項を反映した新し
い項目に置き換えることが望ましい。ビジネスに最も高い影響を及ぼし,最も発生する可能性が高い欠陥
が確認項目一覧に含まれ,かつ,レビュー中に明示的に探索されることを確実なものとするために,リス
ク情報を使って,確認項目一覧に基づく取組みを強化することが可能である。
7.2.4 シナリオに基づくレビュー作業
シナリオに基づくレビュー作業では,レビュアは,レビュー対象の作業生産物を読む方法についての体
系的な指針が与えられる。要求事項,設計又はテストが適切な形式(例えば,ユースケース)で文書化さ
れている場合,シナリオに基づく取組みは,レビュアが,作業生産物を予想される使用法に基づいて“予
行演習”することを支援する。シナリオに基づくレビュー作業のもう一つの形態は,(確認項目一覧に基づ
くレビュー作業と同様に)特定の欠陥種別を検出することに基づいたもので,これは欠陥に基づく読込み
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としても知られている。特定の欠陥種別を検出するために使用される場合,これらのシナリオは,単純な
確認項目一覧項目よりも詳細な,異なった障害種別を検出する方法に関する体系的な読取り指針をレビュ
アに与える。
レビューのこの形式が単独で使用され,文書化されたシナリオに制限されている場合,必要な機能がレ
ビュー中の作業生産物に含まれていないという欠落に関する欠陥など,シナリオによって特に標的とされ
ていないその他の欠陥を見落とす危険がある。
確認項目一覧に基づく取組みと同様に,リスク情報を使用して,業務にとって最も重要なシナリオ及び
最も頻繁に使用されるシナリオについて,より深くレビューすることを確実にするように,シナリオに基
づく取組みを強化することが可能である。
7.2.5 視点に基づく読込み(PBR : Perspective-Based Reading)
入手可能な研究[17]によれば,形式的レビューのための最も一般的に有効かつ効率的な欠陥検出の形態
は,視点に基づく読込みである。視点に基づく読込みでは,レビュアは異なる利害関係者の視点に立ち,
利害関係者の視点から作業生産物をレビューする。考え方としては,全ての利害関係者が作業生産物に満
足し,それぞれの視点から使用可能であると信じられるのであれば,それは高品質のはずであるというこ
とである。その利害関係者の視点を使用することは,各レビュアが,レビュア間の労力の重複を少なくし
て,それぞれの利害関係者の視点から作業生産物をより深く確認可能なことを意味している。
PBRで使用される典型的な利害関係者の視点は,次のとおりである。
− 業務分析担当者
− 業務責任者
− 設計者
− 保守担当者
− マーケティング担当者
− 運用担当者
− プログラマ
− 監視官
− テスト担当者
− 利用者
釣り合いのとれた視点がレビューに含まれていることは重要である。例えば,要求文書をレビューする
場合,通常,利用者,設計者及びテスト担当者の視点が網羅されることは最も重要である。システムが高
度に規制された区域内に構築されている場合,その規制の監視官の視点が含まれることが望ましい。シス
テムが長期間稼働する場合,保守担当者の視点がより重要になる。
全てのレビュアが簡単に新しい役割を果たすことが可能なわけではないので,この取組みを容易にする
ためにPBRシナリオが使用される。これらのシナリオは次の三つの部分から構成する。
− 最初の部分では,レビュアがレビュー中に取るべき利害関係者の視点を説明する。
− 2番目の部分では,レビュー対象の作業生産物からその利害関係者が導出することを期待される上位
レベルの生産物(例えば,テスト担当者が要求仕様に基づいて受入テスト計画を策定すると期待され
る場合がある。)について説明する。PBRでは,レビュアは,その上位レベルの生産物がレビュー対象
の作業生産物から得られる情報から作成可能かどうかを“テスト”するために,その生産物の最初の
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原案を作成することがしばしば期待されている(これらの最初の原案は,その後の開発及びテスト作
業の基礎を形成し得る。)。
− 3番目の部分は,通常,2番目の部分で開発された,上位レベル生産物に固有の質問に関する確認項目
一覧から構成する。
PBRシナリオは,レビュー対象の作業生産物の種類に固有である(例えば,要求仕様に対する設計者の
PBRシナリオ)。しかし,一旦作成した後は,それらを有効に保ち再利用できるように必要に応じて更新
(例えば,3番目の部分の質問を更新)することが望ましい。
7.2.6 役割に基づくレビュー作業
役割に基づくレビュー作業は,様々な利害関係者の役割の視点から作業生産物をレビューするレビュー
手法であり,その役割は,レビュアの日々の役割とは異なる。役割は,視点に基づく読込み(7.2.5参照)
で使用される利害関係者の視点に似ており,したがって,同じ原則を適用する。
7.3 要検討事項の分析手法
7.3.1 概要
6.4.4の“要検討事項の共有及び分析”アクティビティに関連する手法は,個々人によって,又はレビュ
ー会議の中で提起された要検討事項を分析するために使用する。
7.3.2 個々の分析
個々の分析は,通常,6.4.3の“個々人のレビュー”アクティビティ中のアウトプットに対して実施する。
最初に,要検討事項はそれぞれのレビュアから収集し,照合し,重要度に基づいて優先順位を付ける。要
検討事項は,適切なアクションを決定するために分析する。この分析の結果は,要検討事項を提起した人
に伝える。
注記1 この取組みは,レビュー会議の代わりとして,分散されたチームに特に有用である。
注記2 重要度の高い要検討事項が十分にある場合は,レビュー会議を招集することがある。
注記3 この手法は,通常,執筆者によって実施される。
7.3.3 レビュー会議における手法
7.3.3.1 概要
レビュー会議(6.4.4の“要検討事項の共有及び分析”アクティビティの一環として行うことが可能であ
る。)に関する手法では,レビュアのグループが,以前に提起された要検討事項の検討,新しい要検討事項
の識別,要検討事項の分析,かつ,ときにはレビュー種別に応じた要検討事項への対処方法の決定につい
て様々な方法を説明している。
7.3.3.2 順次レビュー作業
順次レビュー作業は,参加者が作業生産物を順番にレビューするレビュー手法であり,作業生産物で要
検討事項を見つけた際に,以前に識別された要検討事項を考慮し,かつ,追加の要検討事項を識別する。
7.3.3.3 確認項目一覧に基づくレビュー作業
確認項目一覧に基づくレビュー作業は,作業生産物の特定の側面に着目するための確認項目一覧を,参
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加者が使用して作業生産物をレビューする手法である。
7.3.3.4 役割に基づくレビュー作業
役割に基づくレビュー作業は,参加者が様々な利害関係者の役割の視点から作業生産物をレビューする
手法である。その役割は,参加者の日頃の役割とは異なることもある。
注記 レビュアは個々人のレビュー作業においても,要検討事項を識別するために同じ利害関係者の役
割で,役割に基づく取組みを使用することが多い。
7.3.3.5 シナリオに基づくレビュー作業
作業生産物(例えば,要求事項,設計,テスト)が適切な形式(例えば,ユースケース)で文書化され
ている場合は,シナリオに基づく取組みを用いた欠陥検出が最も適切なことがある。この取組みでは,レ
ビュアは,正しい機能が記述されているかどうか,及び一般的なエラー条件が適切に処理されているかど
うかを確認するために,作業生産物で“予行演習”を実行する。シナリオに基づくレビュー作業は,文書
化されたシナリオに制約され,必要な機能がレビュー中の作業生産物に含まれていないという欠落に関す
る欠陥を見逃してしまう危険性がある。
確認項目一覧に基づく取組みと同様に,リスク情報を使用することで,業務にとって最も重要なシナリ
オ及び最も頻繁に使用されるシナリオについてより深くレビューすることを確実にするように,シナリオ
に基づく取組みを強化することが可能である。
ウォークスルーは,シナリオに基づくレビュー手法に基づいたレビュー種別の一例である。ここでは,
執筆者が作業生産物の内容を使ってレビュアを導く。ウォークスルーの属性を附属書Dに定義する。
7.3.4 グループ意思決定
グループが決定を下す必要がある場合,最適なグループメンバーを選定可能であれば,彼らにグループ
決定をさせることが通常は最も効果的な取組みになる(全てのレビュアの入力に等しい重みを与えること
は,通常,より悪い決定をもたらす。)。
注記 最適なメンバーの選定においては,作業生産物の種類及びレビューの目的によって異なる基準が
適用される。
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