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附属書D
(参考)
パルスオーバラップ法についての注意及び適用例
D.1 底面エコーの波形の変化
垂直探触子を用いて観測する底面エコーは,伝搬距離が変化したときに,振幅だけではなく波形も変形
する。この波形の変形のうち,高周波数成分が先に減衰することによるエコー波形の変形は,よく知られ
ているので,気づかないような誤差を発生する可能性は少ない。しかし,減衰がほとんどない場合にも,
超音波の伝搬距離が近距離音場限界距離に近いところでは,パルス波形は近距離音場に特有の波形から遠
距離音場に特有の波形へと連続的に変形し,この変形はあまり知られていない。そのため,近距離音場限
界距離に近い距離からのエコーを用いてA.2.4のパルスオーバラップ法によって音速を精密に測定する場
合には,波形の変形の影響を考慮しておく必要がある。
図D.1は,厚さtSが2.1 mm210 mmの鋼板からのB1エコーを,周波数5.000 MHz(以下,5 MHzとす
る。),振動子径10.00 mm(以下,10 mmとする。)の円形振動子(鋼内部での近距離音場限界距離は,約
21 mm)によって観測する場合の波形を,減衰がないと仮定して計算した例を示している。時間軸は,超
音波が鋼板内部を伝搬する時間を差し引いて,波形を直接比べられるように調整してある。最初の0.1 s
は探触子の前面板を超音波が往復する時間で,B1エコーはその直後からはじまる。鋼板の厚さは,振幅の
大きい方から順に,2.1 mm,4.2 mm,10.5 mm,21 mm,42 mm,105 mm,210 mm(基準化距離nは0.1,
0.2,0.5,1,2,5,10)のように近距離音場限界距離の前後に分布するように選んだ。図D.1に示すよう
に,振幅のピーク及びゼロ点は,鋼板の厚さが増すと少しずつ左に移動するように変化する(以下,位相
シフトという。)。
図D.1−鋼板の厚さが近距離音場限界距離の0.1倍10倍まで変化したときのB1エコーの計算例
(円形振動子,振動子径 : 10 mm,周波数 : 5 MHz)
――――― [JIS Z 2353 pdf 31] ―――――
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この結果,例えば,厚さ21 mmの鋼板の音速をB1エコーとB2エコーとの時間差を,パルスオーバラッ
プ法を用いて測定すると,B2エコーは厚さ42 mmのときのB1エコーとほとんど等しいので,B1エコーの
位相シフトとB2エコーの位相シフトとの間に差(以下,位相のずれという。)が発生し,音速測定の誤差
要因になる。鋼板の厚さによる位相シフトは,図D.1の場合にはエコーの最初の部分では小さく,振幅が
最大になる2サイクル目から大きくなる。この部分では,基準化距離nが0.110まで変化する間に,波
形はおよそ1/4波長だけ移動する。図D.2は,位相シフトを簡単に推定できるように,超音波を周波数が
5 MHzの連続的な正弦波に単純化したときの底面エコーの位相シフトを計算した結果である。位相の90°
の変化は,1/4波長の位相シフトに対応している。
例えば,図D.1において,n=2(厚さ42 mm)のときの位相シフト量(近似的にn=0.1の波の位相とn
=2の波の位相との差,図中参照。)は,振幅がプラス側の2サイクル目ピークでは38°,振幅がプラス側
の3サイクル目ピークでは51°であり,この二つの位相シフト量の値は,図D.2のn=2のときの48°(図
D.2のB2)に近い。パルス波形と連続波との違いはあるが,図D.1(パルス波形での計算結果)と図D.2
(連続波での計算結果)とは,定性的には全領域で一致し,基準化距離nが1以上のときには,波形の後
半では定量的にも一致している。
図D.2−連続的な正弦波の場合の位相シフト
D.2 測定精度への影響
この現象による二つのエコーの位相のずれは,位相シフトを表す曲線の傾きが最も急な領域で,直接接
触法による第1回底面エコーB1(基準化距離n1)及び第2回底面エコーB2(基準化距離n2)の波形を重ね
たときに特に大きい。例えば,厚さtSが21 mmの鋼板について,周波数5 MHzの超音波(波長約1.2 mm)
を用い,B1及びB2を利用して音速を測定する場合には,図D.2によれば,基準化距離n1と基準化距離n2
との間の位相のずれは約25°である。長さに換算すると,およそ0.08 mmになるので,このずれによる音
速の誤差は,0.2 %に達する。
パルスオーバラップ法を用いた音速測定において,この現象の影響を避けるためには,近距離音場側か
――――― [JIS Z 2353 pdf 32] ―――――
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遠距離音場側のいずれかのエコーだけを使って音速測定を行うことが考えられる。遠距離音場のエコーを
得るには,図D.3のように試験体と探触子との間に厚い遅延体を挟む方法が有効とされている。遅延体に
は,光学ガラスなどの均一で減衰の小さい材料を選ぶ(実際にガラスの遅延体の付いた探触子もある。)。
遅延体を利用すると,図D.2のように遅延体がある場合の第1回底面エコーB1D(基準化距離n1D)と遅延
体がある場合の第2回底面エコーB2D(基準化距離n2D)との関係のように,基準化距離が直接接触法の場
合に比べて変化し,位相のずれが減る。基準化距離n1D及びn2Dは,式(D.1)及び式(D.2)によって計算でき
る。
4tS +tD D
n1D= 2
(D.1)
D
42tS +tD D
n2D= 2
(D.2)
D
ここに, λ : 試験体中の超音波の波長(mm)
λD : 遅延体中の超音波の波長(mm)
tS : 試験体の厚さ(mm)
tD : 遅延体の厚さ(mm)
D : 振動子の直径(mm)
図D.3−波形の変化を少なくする方法
図D.4は,探触子の周波数及び振動子直径を図D.1と同じとして,試験体については,厚さtS : 20.00 mm,
音速 : 5 920 m/s,密度 : 7 800 kg/m3とし,遅延体については,厚さtD : 50.00 mm,音速 : 5 980 m/s,密度 :
2 520 kg/m3として計算した例である。B1D及びB2Dは試験体の第1回及び第2回の底面エコー,S1及びS2
は遅延体と試験体との境界面からの第1回及び第2回の境界面エコーを表している。
式(D.1)及び式(D.2)によって,この例の場合のn1D及びn2Dを計算すると,次のとおりとなる。
3 6
5920×10/5×10
3
D5980×10/5×10 6
D=10.00mm
S20.00mm
t=
D50.00mm
t=
――――― [JIS Z 2353 pdf 33] ―――――
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3 6 3 6
4×20×5920×10/5×10 +50×5980×10/5×10
n1D= =3.34
102
3 6 3 6
4×2×20×5920×10/5×10+50×5980×10/5×10
n2D= 429
=.
102
このときの位相の変化は,約6°となり,波形変形による誤差はおよそ0.05 %に低減される。
図D.4−遅延体があるときの受信波形の計算例
JIS Z 2353:2021の国際規格 ICS 分類一覧
- 17 : 度量衡及び測定.物理的現象 > 17.140 : 音響及び音響測定 > 17.140.01 : 音響測定及び雑音除去一般
JIS Z 2353:2021の関連規格と引用規格一覧
- 規格番号
- 規格名称
- JISZ2300:2009
- 非破壊試験用語
- JISZ2300:2020
- 非破壊試験用語
- JISZ2305:2013
- 非破壊試験技術者の資格及び認証
- JISZ2350:2002
- 超音波探触子の性能測定方法
- JISZ2352:2010
- 超音波探傷装置の性能測定方法
- JISZ2355-1:2016
- 非破壊試験―超音波厚さ測定―第1部:測定方法
- JISZ2355-2:2016
- 非破壊試験―超音波厚さ測定―第2部:厚さ計の性能測定方法