JIS T 60601-2-65:2019 医用電気機器―第2-65部:歯科口内法用X線装置の基礎安全及び基本性能に関する個別要求事項 | ページ 6

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T 60601-2-65 : 2019 (IEC 60601-2-65 : 2012,Amd.1 : 2017)
203.6.3† 放射線の線量及び線質
1ピーク形X線高電圧装置を備えた歯科口内法用X線装置
歯科口内法用X線装置は,通常モノブロック形装置を使用しており,密封されたX線管容器の中にX
線管,高電圧変圧器などのX線の発生に必要な全ての高電圧回路を封入している。この設計は,患者及び
操作者への人間工学的な適応並びに歯科医院の概して狭い環境での操作(手動での位置付け及び照準)の
必要性から,X線源装置を可能な限り小さく,かつ,軽くするために必要である。
一方,典型的な医科用の一般X線装置では,X線管だけがX線管容器に封入され,電力は高電圧ケーブ
ル(及びコネクタ)経由で別の高電圧電源から供給される。これによって,X線管の陽極への高電圧供給
(管電圧いわゆる“kV”の制御)とフィラメントへの電圧供給(管電流いわゆる“mA”の制御)とを分
離することが可能になる。
歯科口内法用X線装置の多くの機種は1ピーク形X線高電圧装置を使用している。この設計は,性能
の面で若干の制限があるが,安価で小形の製品の製作を可能にしている。1ピーク形X線高電圧装置では,
X線管に印加する高電圧(管電圧)は,一つの高電圧発生装置(ここでは主に変圧器)で電源電圧(すな
わち,100 V,115 V,又は230 V)を直接昇圧して得ている。このような変圧器は,単一の一次コイルと
複数の二次コイルとをもち,X線管の陽極及びフィラメントに電力を供給している。
注記1 陽極及びフィラメントに個別に電力を供給するために二つの独立した変圧器を使用すること
は可能であるが,商用に製造された歯科口内法用X線装置の1ピーク形X線高電圧装置のほ
とんどは,高電圧変圧器にフィラメント用の巻線を追加した形の変圧器を使用している。フ
ィラメント回路専用の変圧器を使用すると追加の高電圧絶縁が必要になり,大きさ及び重さ
の増加を招くことになるため,この種の装置の設計目的に反してしまう。
単一の高電圧発生装置をもつ(フィラメント回路専用の変圧器をもたない)1ピーク形装置では,陽極
及びフィラメントへの電力供給が同時になるため,両者を独立して制御することはできない。すなわち,
設定可能な管電圧及び管電流の公称値は一つになる。
管電圧が印加される(陰極に対して陽極が正電圧になる。)と,X線管は直ちに(管電圧に応じたエネル
ギースペクトルを示す)X線を放出できる状態となる。しかしながら,フィラメント回路に電力を供給し
ても,X線管内の電子の流れ及びその結果としての(管電流に比例した線量率での)X線の発生は,すぐ
には起こらない。フィラメント温度が熱電子の放出が生じる温度まで徐々に上昇し,その後,フィラメン
トが熱的安定状態に到達して,電子の流れ及びX線の発生が安定する。それまでに数百ミリ秒を要する。
したがって,1ピーク形X線高電圧装置を使用する歯科口内法用X線装置においては,負荷時間と照射時
間とに大きな差を生じる。
図AA.2及び図AA.3は,(高電圧変圧器だけをもつ)1ピーク形X線高電圧装置での管電圧及び管電流
の波形を示している。X線の発生量は管電流に比例するため,結果的に空気カーマ率の変化もこの波形に
一致する。
パルス間の時間は,電源周波数の逆数となる。すなわち,50 Hzの場合は20 ms,60 Hzの場合は約16.7 ms
となる。

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mA : 管電流
kV : 管電圧
LT : 負荷時間
IT : 照射時間
PHT : 予熱時間
P : 電源の1パルスの時間(50 Hzの場合は20 ms,60 Hzの場合は16.7 ms)
ΔV : 初期の無負荷時の値から最終(定常)負荷時の値までの管電圧ピーク値の低下
FC : 定常状態に達した最終的な管電流の値
HC : 定常状態にある管電流の50 %の値
図AA.2−長照射時間における1ピーク形X線発生装置の管電流及び管電圧波形
図AA.2において,負荷時間は,電源周期及びフィラメント加熱上昇時間に比較して長い。負荷時間(モ
ノブロック形装置に電力が供給されている時間)と照射時間(空気カーマ率がその最大値かつ定常値に対
して定義したある割合を超えている時間,別の表現をすると,X線の実質的な照射が行われている時間)
との間に,フィラメントの加熱及び熱電子の放出開始の遅れによって,大きな差が生じることも読み取れ
る。逆に,管電圧がゼロに低下すると,管電流及びX線の発生が継続不能となるので,照射終了時には瞬
時に停止する。
照射時間は,フィラメントの加熱時間(予熱時間)に強く影響される。フィラメント加熱時間は,製造
業者によるX線装置の型式試験の中で決定される。
フィラメント加熱時間を正確に予測することは難しい。実際,熱電子放出曲線又は管電流曲線の傾斜が
急であるため,電源電圧の微小な変動が管電流に大きな影響を与える。したがって,照射時間の測定は電
源電圧を定格値で安定化させたときに実施する必要がある。しかしながら,負荷時間を高精度に制御し,
電源電圧を安定化させたとしても,フィラメントの加熱時間の変動によって,照射時間は大きく変わる可
能性がある。
注記2 照射時間の開始時をしきい(閾)値50 %で定義すると,照射開始前に放射された余分な空気

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カーマが開始後の不足分を補完するため,比較的緩やかなパルスピーク値の上昇は,空気カ
ーマと照射時間との比例関係に大きな影響を与えない。
図AA.3−短照射時間における1ピーク形X線発生装置の空気カーマ率(管電流)波形
図AA.3において,照射時間は電源周期の数倍に過ぎず,十分長くはない。この場合,種々の問題を考
慮する必要がある。
照射は,一定間隔の離散的なパルスで行われるため,照射時間の実質的な値も離散的になる。すなわち,
電源の1周期(50 Hz又は60 Hzの場合,20 ms又は16.7 ms)より精度の高い照射時間(及び負荷時間)
を定義することは意味を成さない。結果的に,R10系列は離散的なパルスが80 ms以上連続する場合に準
用できる。
図のような場合,照射時間は8パルスで,50 Hzでは160 ms,60 Hzでは133 msになるが,R10系列で
最も近いのは125 msである。
注記3 (通常行われているゼロクロスの代わりに)パルスの途中での停止又は開始は理論的には可
能であるが,技術的に大きな課題がある上に,放射線(X線)学の基本である照射時間と空
気カーマ(照射X線量)との比例関係を損なうことになる。
例えば,電源電圧の変化,その他の要因などによって予熱時間が僅かに変動しても,1(又はそれ以上
の)パルス分の変化が起こり,これは定義に従って測定した照射時間に大きな割合の変化をもたらす。
上記の考察の結果,モノブロック形装置であって,かつ,1ピーク形高電圧発生装置をもつX線装置に
おいては :
− 照射時間は,電源周期の整数倍として定義できる。R10又はR20系列の導入はその最適な近似とな
る。
− 照射時間の測定は,短時間設定時には僅かな電源電圧の変化が大きな割合の変化をもたらすため,主
電源電圧が安定した状態で実施する必要がある。
注記4 上記の考察は,基本的に2ピーク形高電圧発生装置にも適用できる。しかし,この設計方式
は,歯科口内法用X線装置に有用とは考えられず,実際の製品にも採用されていないため,
ここでは考慮しない。

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照射時間に対する電源電圧補償機構
1ピーク形高電圧発生装置を使用する歯科口内法用X線装置の多くは,電源電圧の変動による空気カー
マへ影響,すなわち,選択された照射時間と放射線量(X線量)との直線性への影響を軽減するために,
特別な機能を制御器に設けている。この機能は,与えられた公称照射条件において空気カーマが一定とな
るように,電源電圧の変動に合わせて負荷時間を変えるものである。このような負荷時間の制御は,管電
圧及び照射時間(後者は,予熱時間の変動に起因する。)の双方の(公称値に対する)変動を補償する目
的で行われる。
照射時間の任意の公称値について,実際の負荷時間と実際の電源電圧との関係は,形式試験に基づいて
製造業者が事前に決定する。
この種の装置において,X線照射条件(kV,mA,s)の正確さ及び直線性の測定は,電源電圧が公称値
で高度に安定した状態で実施するか,又は照射時間の測定値を製造業者が明示している照射時間に対する
電源電圧補償関係に基づいて補正する必要がある。
203.6.3.2.102† 自動露出制御
この細分箇条は,自動露出制御を備えたME機器だけに適用する。次の203.6.5を参照。
203.6.5† 自動制御機能
フィルムを使用する歯科口内法用X線撮影では,自動露出制御を利用することはできない。
電子式X線受像器が用いられている場合には,歯科口内法用X線装置に被写体の後ろの実際の線量を
測定するためのセンサを備えることができる。
歯科口内法用X線装置では,照射条件の変動及びそれに伴う誤照射のリスクは低い。したがって,自動
制御機能の装備は強制ではない。
203.6.6† 散乱放射線の減少
口くうの構造から,散乱放射線(散乱X線)の低減手段を導入することは難しい。
203.7.1† X線装置の半価層及び総ろ過
歯科口内法用X線装置には,一定の管電圧で,ある管電流時間積に基づいて望ましい画像コントラスト
を得るために,世界中で常識となっている一般的な照射方法がある。この方法は,JIS T 0601-1-3:2005の
ろ過条件に基づいて確立されたものである。
現行のろ過条件を維持することは,歯科界において確立されている手技を変更することがないため,患
者被ばく線量及び画質の点で有益である。
203.7.101† 管電圧の制限
歯科放射線撮影(歯科X線撮影)においては,骨が存在するため,X線には一定の透過力が必要となる。
203.11† 剰余放射線に対する防護
歯科放射線撮影用フィルム(歯科X線撮影用フィルム)には剰余放射線(剰余X線)を低減する手段
が講じられている。しかし,照射野内のX線受像面以外の領域については,口くう内に低減手段を挿入で
きないため,対処できない。

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附属書BB
(参考)
この規格における定義語に関する歯科口内法用X線装置の部品の識別
図BB.1は,JIS T 0601-1-3の定義語及びこの個別規格で追加及び変更した定義語の関係を階層構造で示
したものである。
図BB.2は,代表的な歯科口内法用X線装置について,部品の相互関係を表す図を定義語とともに示し
たものである。
注記 提示した定義語の関係は,定義語全てを含んでいるわけではなく,逆にこの規格で正式に定義
していない部品が含まれる(それらは結果的に図BB.1及び図BB.2には示されていない。)。例
えば,X線発生装置は,制御器及びX線源装置だけではなく,機械的な支持部品も含んでいる
場合がある(通常は含んでいる。)が,それらは正式な定義語ではない。
歯科口内法用
X線装置
関連機器 アクセサリー X線発生装置
(例 電子式X線
受像器)
制御盤 X線源装置
(一体形)
照射野限定器 X線管装置
(モノブロック形装置)
管容器 高電圧発生装置 X線管
図BB.1−歯科口内法用X線装置の構造

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JIS T 60601-2-65:2019の引用国際規格 ISO 一覧

  • IEC 60601-2-65:2012(IDT)
  • IEC 60601-2-65:2012/AMENDMENT 1:2017(IDT)

JIS T 60601-2-65:2019の国際規格 ICS 分類一覧

JIS T 60601-2-65:2019の関連規格と引用規格一覧

規格番号
規格名称
JISB7761-3:2007
手腕系振動―第3部:測定及び評価に関する一般要求事項
JISC0445:1999
文字数字の表記に関する一般則を含む機器の端子及び識別指定された電線端末の識別法
JISC0447:1997
マンマシンインタフェース(MMI)―操作の基準
JISC1509-1:2017
電気音響―サウンドレベルメータ(騒音計)―第1部:仕様
JISC1509-2:2018
電気音響―サウンドレベルメータ(騒音計)―第2部:型式評価試験
JISC2134:2007
固体絶縁材料の保証及び比較トラッキング指数の測定方法
JISC2134:2021
固体絶縁材料の保証及び比較トラッキング指数の測定方法
JISC4003:2010
電気絶縁―熱的耐久性評価及び呼び方
JISC60079-0:2010
爆発性雰囲気―第0部:電気機器―一般要件
JISC60079-2:2008
爆発性雰囲気で使用する電気機械器具―第2部:内圧防爆構造“p”
JISC60079-6:2004
爆発性雰囲気で使用する電気機械器具―第6部:油入防爆構造“o”
JISC60364-4-41:2010
低圧電気設備―第4-41部:安全保護―感電保護
JISC60695-11-10:2015
耐火性試験―電気・電子―第11-10部:試験炎―50W試験炎による水平及び垂直燃焼試験方法
JISC6965:2007
ブラウン管の機械的安全性
JISC8282-1:2019
家庭用及びこれに類する用途のプラグ及びコンセント―第1部:一般要求事項
JISC8303:2007
配線用差込接続器
JIST60601-1-8:2012
医用電気機器―第1-8部:基礎安全及び基本性能に関する一般要求事項―副通則:医用電気機器及び医用電気システムのアラームシステムに関する一般要求事項,試験方法及び適用指針
JISZ4120:2008
診断用X線管装置―焦点特性
JISZ8736-1:1999
音響―音響インテンシティによる騒音源の音響パワーレベルの測定方法―第1部:離散点による測定