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附属書A
(参考)
作業標準
A.1 溶射加工品の仕様書
溶射加工品の仕様書には,規格番号,溶射方式,溶射皮膜の種類又は記号,皮膜の厚さ,前処理方法,
後処理方法,溶射皮膜の品質評価のための試験方法及び判定基準などを具体的に記載する。
A.2 アンダーコート材料
アンダーコート材料は,JIS H 8260及びJIS H 8261に規定する溶射材料のうち,溶射加工品の使用目的
に応じて,溶射皮膜の性能が劣化しないものを用いる。
A.3 ブラスト材料
A.3.1 酸化物除去用ブラスト材料
酸化物除去用ブラスト材料は,JIS G 5903に規定する鋳鉄製グリット若しくは鋳鋼製グリット,JIS R
6111に規定するアルミナ質研削材若しくは炭化けい素質研削材,JIS A 5011-1に規定する高炉スラグ細骨
材,又はこれらと同等のものとし,材質が酸化物の除去に適するものを用いる。
A.3.2 粗面処理用ブラスト材料
粗面処理用ブラスト材料は,次による。
a) 材質は,JIS G 5903に規定する鋳鉄製グリット若しくは鋳鋼製グリット,JIS R 6111に規定するアル
ミナ質研削材若しくは炭化けい素質研削材,JIS Z 0311に規定する高炭素鋳鋼グリット,又はこれら
と同等のものとし,硬さが粗面処理に適するもので,粒度が表A.1に示すものを用いる。ただし,ブ
ラストしたとき,素地に付着しやすい物質を含まないものを用いる。
b) 形状は,角張っているものを用いる。
c) 表面は,清浄かつ乾燥していて,塩分,油,その他の異物が付着していないものを用いる。
表A.1−ブラスト材料の粒度
種類 粒度
鋳鉄製グリット又は鋳鋼製JIS Z 0311の粒度番号070120の範囲のもの
グリット 又はこれらを混合したもの。
高炭素鋳鋼グリット
アルミナ質研削材 JIS R 6001-1のF20F180の範囲のもの若し
くはJIS Z 0312の粒度範囲0.21.4 mmのも
炭化けい素質研削材
の又はこれらを混合したもの。
注記 粗面処理用ブラスト材料の粒度は,溶射加工品の材質,厚さ,皮膜厚
さなどによって適切なものを選択する。
A.4 脱脂材料
脱脂材料は,溶射加工品の素地の洗浄に適した無機溶剤又は有機溶剤を用いる。
A.5 溶射設備
――――― [JIS H 8304 pdf 11] ―――――
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溶射設備は,次による。
a) 脱脂洗浄設備 溶射加工品の素地に付着した油脂を適切に取り除くことができる設備。
b) 機械加工設備(切削及び研削機器) 素材の前処理において,密着性を向上させるために溝を切るな
どの加工ができる機械設備。
c) 酸化物の除去設備 溶射加工品の素地の酸化物を除去でき,溶射に適切な清浄面を得ることができる
設備。
d) ブラスト設備 最終的な前処理に使用し,酸化物を除去でき,溶射に必要な粗面化ができる設備。
e) 溶射設備 溶射加工品の素地に目的の皮膜を溶射できる設備。
f) 除じん設備 前処理作業及び溶射作業を行う場合,適切に除じんでき,労働安全衛生法の基準に沿っ
た環境を作ることができる設備。
g) 屋外作業設備 溶射材料及び装置を風雨から保護する設備,また,周辺住民に騒音及び粉じん被害を
及ぼさない設備。
A.6 溶射作業
A.6.1 被溶射物の構造,形状及び表面状態
A.6.1.1 構造及び形状
溶射加工を行う製品又は部品の構造及び形状は,次のa) c)に該当しないものとする。
a) 死角による溶射粒子の未達を生じるもの。
b) 変形を生じるもの。
c) 換気不良を生じるもの。
A.6.1.2 表面状態
溶射加工を行う製品及び部品は,次のa)及びb)に示す表面状態にないものを用いる。
なお,溶接ビード,端部などへの溶射作業を行う場合に必要な処置は,受渡当事者間の協定によって行
う。
a) 油脂などの著しい付着状態
b) 酸化スケール,さび,きずなどが著しい表面状態
A.6.2 前処理
A.6.2.1 一般
溶射加工品の用途目的によって,脱脂洗浄,油除去,酸化物の除去,密着強さの向上処理(ねじ切り法,
溝切り法,ローレット法,スロット法,ブラスト法,又はアンダーコート溶射)などを行う。
a) 素地表面は,適切なブラスト材を用いたブラスト処理によって,十分な清浄化処理及び粗面化処理を
行う。
b) 溶射直前に,表面は乾燥し,ほこり,油脂,酸化スケール,さびなどの汚染物質がない状態にする。
c) 用いられるブラスト材料は,その種類がいかなるものであっても,清浄かつ乾燥し,異物を含まない
ようにする。圧縮空気を使用するブラストでは,ブラスト材料又は溶射する素材表面を汚染させない
よう,使用する空気は,十分に清浄で,かつ,乾燥したものとする。
A.6.2.2 脱脂洗浄
脱脂洗浄を行う場合,溶射加工品の特性に応じて洗浄方法及び時間を具体的に定める。また,有機溶剤
の使用に当たっては,必要な防護手段を講じる。
A.6.2.3 油除去
――――― [JIS H 8304 pdf 12] ―――――
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鋳鉄,多孔質の素材などに油が内部まで浸透しているものに対しては,加熱して,浸透した油を除去す
る。ただし,加熱によって,素材の変質・変形が生じない温度で除去する。
A.6.2.4 酸化物の除去
溶射加工品の素地表面の酸化物は,通常,機械的方法で除去する。
酸化物除去のためのブラスト処理を行う場合,ブラスト吹き付け角度は,素地に対して3060°がよい。
酸化物除去のためのブラスト処理後の放置時間は,溶射加工品の特性及び環境に応じて,溶射加工品仕様
書に記載する。
なお,酸化物除去のためのブラスト処理後の酸化物の除去の評価は,JIS Z 0313の4.(目視による清浄
度の評価)によって行う。
また,再溶射の場合,旧セラミック皮膜層を完全に除去する。
A.6.2.5 密着強さの向上処理
溶射皮膜の密着強さを向上させるために,次のいずれかの,又はいくつかの処理を行う。
a) ねじ切り法
b) 溝切り法
c) ローレット法
d) スロット法
e) ブラスト法
f) アンダーコートを溶射する方法
A.6.2.6 結露の可能性の評価
結露の可能性の評価は,JIS Z 0313の6.(結露の可能性の評価)によって行う。
A.6.3 ブラスト粗面処理
A.6.3.1 ブラスト材料の選定
ブラスト材料の材質及び粒子の大きさは,次の事項を考慮して選定する。
a) 溶射加工品の材質,厚さ及び硬さ
b) 溶射加工品のブラスト処理する部分の構造
c) 溶射加工品の大きさ
d) 溶射皮膜の種類
e) 溶射加工品の使用目的・使用条件に必要な密着強さが得られる粗面の粗さ
A.6.3.2 ブラストノズルと素地との距離
ブラストノズルと素地との距離は,素地から1030 cmとする。
A.6.3.3 ブラスト角度
ブラスト角度は,素地に対して6090°とする。
A.6.3.4 ブラスト時間
ブラスト時間は,溶射加工品の特性に応じて決める。
A.6.3.5 ブラスト材料の管理
ブラスト材料は,使用回数によってブラスト粒の破砕又は摩耗が生じたり,異物の混在が発生するため,
常に粒度分布及び汚れについて管理を行う。
A.6.3.6 ブラスト用圧縮空気の管理
圧縮空気は,圧縮比に応じて凝縮水と飽和水蒸気とに変化するため,適切な空気乾燥装置を用いて,乾
燥した空気を供給する。
――――― [JIS H 8304 pdf 13] ―――――
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A.6.3.7 空気圧力及び吐出量
空気圧力及びブラスト材料の吐出量は,作業効率に影響するため管理を行う。ブラスト材の粒子の大き
さ,ノズルの内径寸法及びブラストホースの寸法(直径及び長さ)などを十分に考慮して決める。また,
溶射加工品の特性に応じて溶射作業に適したものに調節する。
A.6.3.8 ノズルの交換時期
ノズルは,摩耗によってオリフィス直径が約25 %増大した場合は,必ず取り替える。
A.6.3.9 粗面比較用標準表面(板)の作製
溶射加工品への粗面処理を行うときは,表面比較用標準面(板)を作製し,それと比較することによっ
て粗面処理の限度を決定する。表面比較用標準表面(板)の表面粗さの表示は,JIS B 0601に規定する算
術平均粗さ(Ra)とし,清浄度の評価は,JIS Z 0313に規定する除せい度Sa 3による。
A.6.4 溶射
A.6.4.1 溶射施工
溶射施工は,次による。
a) 溶射施工は,素地表面が,清浄・乾燥の状態を保持し,かつ,目視によって酸化が認められない状態
を持続できる時間内に溶射を実施する。
b) 溶射加工をしない部分に対して,金属製ジグ,耐熱テープなどによるマスキングを行う。
c) 溶射方式を決定する熱源は,溶射材料及び溶射皮膜の品質特性によって,プラズマジェット(アルゴ
ン,窒素,水素,ヘリウムなど),又は炭化水素系ガス(アセチレン,プロパンなど)若しくは水素の
燃焼炎を用いる。また,溶射及び冷却に用いる空気は,清浄で乾燥したものを用いる。
d) 必要があれば,素地表面の水分除去及び溶射皮膜の熱応力緩和のため予熱する。予熱は,プラズマガ
ン又は他の適切な手段で行う。予熱及び溶射の工程を通じて,素地の酸化,変色,変形などを生じな
い温度とし,素材及び皮膜組成によって決める。
e) 溶射角度は,素地に対してできるだけ直角とし,少なくとも45°以上とする。また,溶射皮膜表面の
温度を表面温度計によって計測し,200 ℃以上にならないように溶射を行う。
f) 厚い溶射皮膜を施す場合又は特に高い密着強さが必要な場合には,皮膜の密着力を増し,浮き上がり
を防ぐため,溶射加工品の用途・特性に応じて,ねじ切り,ローレット加工,アンダーコートなどを
併用して溶射を行う。
A.6.4.2 溶射作業条件
溶射作業条件は,次による。
a) 各種圧力調整器から溶射ガンの間で使用するホースの内径及び長さは,過度の圧力低下を起こさない
よう十分に配慮する。
b) プラズマ溶射では,ノズル(陽極)及び電極(陰極)が使用時間とともに消耗してアーク電圧が低下
してくるので,電圧低下量が5 V以上にならないように注意する。
c) 使用ガスの流量計は,定期的に校正を行う。
d) 溶射に用いる圧縮空気は,溶射装置の使用条件表に示された空気圧で用いる。
e) 溶射加工品の特性に応じた溶射作業に適した空気圧で溶射を行う。
f) 溶射ガンは,点火のときに溶射加工品に溶射粒子の飛まつ(沫)がかからないような方向に向けて,
調整を行う。
g) 溶射距離は,溶射材料及び溶射方式によって決める。
h) 粗面処理後,4時間以内に溶射皮膜の一層目を施す溶射をすることが望ましい。
――――― [JIS H 8304 pdf 14] ―――――
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なお,その他特別な要求があるものについては,受渡当事者間の協定によって行う。
i) 各溶射層は,溶射皮膜ができるだけ均一の厚さとなるように適切な幅で重ねる。
j) 各溶射層における皮膜形成厚さは,適切な厚さが得られるように溶射ガンの移行速度を調整する。
k) 溶射終了時には,溶射加工品に溶射粒子の飛まつがかからない位置で,材料供給及びガンの作動停止
を行う。
A.6.5 溶射後の処理
A.6.5.1 一般
溶射加工品の用途目的によって,皮膜機能改善のために封孔処理,加熱処理,機械加工,化学処理など
を行う。
A.6.5.2 後処理
後処理は,次による。
a) 後処理の主な種類を,表A.2に示す。
b) 後処理は,溶射加工品の応用に必要な機能に基づいて,処理方法ごとに定める。
表A.2−後処理の主な種類
処理方法 改善機能 器具
封孔処理 浸せき槽,はけ塗り,スプレーエア
多孔層溶射皮膜に対し,環境遮断,表面平滑及び
ーレス,真空容器など。
色相性のために,無機質又は有機質封孔剤を浸透
充させる。
加熱拡散処理 電気誘導加熱炉,ガス炉,加熱レー
表面層の改質硬化,気孔の減少,拡散浸透及び溶
ザ真空炉,レーザ,電子ビームなど。
融結合する。耐摩耗性,耐熱性及び耐酸化性を向
上させる。
機械処理 湿式研削,湿式研磨,ラップ研削,
表面を滑らかにし,気孔を減少させる。かん(嵌)
合精度及び仕上精度を向上させる。 液体バレル研磨,ホーニング研磨な
ど。
化学処理 化学薬品溶液槽,洗浄槽(りん酸塩
金属塩水溶液中の金属イオンを浸透析出させる,
又は反応させる。密着性及び耐食性を向上させる。
系,クローム酸塩系など),はけ塗
りなど。
その他の処理 加熱高圧不活性炉,高出力レーザイ
電気的に加速してイオン注入する,又は陽極酸化
オン注入装置など。
させる。耐食性,耐摩耗性及び着色性を向上させ
る。
A.6.5.3 封孔処理
A.6.5.3.1 封孔処理の目的及び概要
封孔処理の目的及び概要は,次による。
a) 封孔の目的は,溶射皮膜特有の開孔を充することである。
b) 封孔処理は,皮膜表面の化学的な改質による方法,又は皮膜の気孔を充するための適切な封孔剤を
用いる方法で行う。封孔剤は,皮膜形成後,速やかに塗布する。
A.6.5.3.2 封孔処理作業
封孔処理作業は,次による。
a) 封孔処理剤の塗布量は,溶射皮膜の品質及び封孔処理剤の組成に応じて適切に定める。
b) 各種タンクなど,密閉された容器内での封孔処理作業は,有機溶剤中毒,一酸化炭素中毒,酸素欠乏
などの予防面から十分な安全衛生対策を講じる。
――――― [JIS H 8304 pdf 15] ―――――
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JIS H 8304:2017の国際規格 ICS 分類一覧
- 25 : 生産工学 > 25.220 : 表面処理及び被覆加工 > 25.220.20 : 表面処理
JIS H 8304:2017の関連規格と引用規格一覧
- 規格番号
- 規格名称
- JISC2110-2:2016
- 固体電気絶縁材料―絶縁破壊の強さの試験方法―第2部:直流電圧印加による試験
- JISG3101:2015
- 一般構造用圧延鋼材
- JISG3101:2020
- 一般構造用圧延鋼材
- JISH8200:2006
- 溶射用語
- JISH8250:2007
- 溶射の記号による表示方法
- JISH8260:2007
- 溶射用粉末材料
- JISH8261:2007
- 溶射用の線材,棒材及びコード材
- JISH8302:2010
- 肉盛溶射(鋼)
- JISH8401:1999
- 溶射皮膜の厚さ試験方法
- JISH8402:2004
- 溶射皮膜の引張密着強さ試験方法
- JISH8451:2008
- 遮熱コーティングの耐はく離性試験方法
- JISH8451:2021
- 遮熱コーティングの熱サイクル試験方法及び熱衝撃試験方法
- JISZ2244:2009
- ビッカース硬さ試験―試験方法
- JISZ2371:2015
- 塩水噴霧試験方法
- JISZ8402-6:1999
- 測定方法及び測定結果の精確さ(真度及び精度)―第6部:精確さに関する値の実用的な使い方